Aqua Sky B |
男3 | ありがとう!別に助けて欲しいって言ったわけじゃあないけど、ありがとう。 |
男1 | いやあね、僕は別に当然のことをしただけさ。 |
男3 | それじゃあね。 |
男1 | ちょっとまて! |
男3 | 何か用、太郎さん? |
男1 | それはないだろ。それは。 |
男3 | 何言ってるか。全然分かりません。 |
男1 | 君ねえ、若いねえ。いったい何年生きてるの? |
男3 | 1万年! |
男1 | ・・・。ははは随分長く生きてるねえ。 |
男3 | 僕らの世界じゃあ普通だよ。 |
男1 | だけどねえ、そんだけ長く生きてれば、人間社会の普通の感覚ってのが分かるでしょう。 |
男3 | 僕、ずっと亀社会に生きていたから・・・。 |
男1 | ああ、面倒くさい!お礼をしろっていうんだよ! |
男3 | お礼? |
男1 | 龍宮城とかいうところに行きたいなあ。 |
男3 | はあ? |
男1 | 龍宮城というところで、酒池肉林の世界というのを経験したいなあ。 |
男3 | 分かりました。不動産で設けて建てた私の別荘「龍宮城」へ案内いたします。 |
男1 | 不動産? |
男3 | 正確に言うと不動産と株ですね。やってますか、お宅? |
男1 | いえ、俺はそういうの苦手だから。 |
男3 | だめですよ。今時株やんなきゃ。絶対損しますよ。 |
男1 | そうかなあ。 |
男3 | じゃあ、龍宮城へ亜案内いたします。 |
女2 | 龍宮城へようこそ! |
男1 | はあ? |
女2 | ようこそ龍宮城へ。私が乙姫よ。 |
男1 | あなたが? |
女2 | そうよ。この世のものとは思えない位の美人でしょ? |
男1 | 帰ってもいいですか? |
男3 | だめだよ。せっかく来たんだから。 |
男1 | いや、でも・・・。 |
男3 | 酒池肉林でしょ。 |
男1 | そうだよな。それがまだ・・・。 |
男2 | ようこそ龍宮城へ。 |
女2 | ようこそ。 |
男1 | あなたがたは。 |
男2 | 鯛ですたい。 |
女3 | 平目よ。 |
男1 | 踊りはいいから早く〜。 |
男3 | 分かりました。 |
女2 | ここから先は高校演劇であるという都合上、お見せできません。 |
女3 | 大人になってからのお楽しみ。 |
男1 | ああ、楽しかった。 |
女2 | さあ、あなたにこれを上げましょう。 |
男1 | なんですかこれは。 |
女2 | 株よ株。1980年代の後半はこうやって皆株で儲けたのよ。 |
男1 | ほお。 |
女2 | あなたの家と土地が担保だからね。 |
男1 | 何? |
女2 | じゃあ、さようなら。 |
男1 | さようなら・・・ちょっと、待って! |
女2 | えっ? |
男1 | どうして君はここに。 |
女2 | いい子って疲れるんですよ。 |
男1 | えっ? |
女2 | 大人から見れば、私なんか全然悩みなんかないように見えるらしいけど、明るく振舞うのも、良い成績とるのだって、すごく労力の必要なことなの。 |
男1 | 何言ってるの? |
女2 | だから私はここにやって来た。ここでは別人になれるし、誰も本当の私を知らない。私は悪い子になりたかった。そういう気持ちって分かりますか? |
女1 | 分かるわよ。 |
女2 | 嘘よ。 |
女1 | そんなことない。 |
女2 | 先生ってそうやってきれい事ばかり言うけど、私達が苦しんでいることなんか全然分かっちゃいない。 |
男3 | そうして、浦島太郎が故郷に戻ってみると・・・。 |
男2 | バブルが崩壊し、株券はただの紙切れとなり・・・ |
男1 | ちょっと待て。 |
男3 | 浦島太郎はおじいさんとなり・・・。 |
男1 | 待てったら。 |
女1 | そうして私は男になりすまし、ここにやって来た。 |
男1 | ここ? |
女1 | そう。あなた方を追いかけて。 |
男1 | どういうことなんだ。 |
女3 | こんばんは。MIUです。今日また自殺に失敗してしまいました。でもある本によると「リストカット」のような自傷行為というのは、システムを変えたいという願望なのだそうです。本当に死ぬ勇気なんかないのかもしれませんね。 |
男3 | こんばんは。「ハル」です。僕はこの部屋からもう何年も出ていません。外の世界の人間と付き合うのが煩わしいのです。ですがここからだと、不思議なことに話をするのがさほど苦ではない。不思議ですね。僕はこうして初めて他人とつながることができたのです。 |
男2 | 一度繋がる嬉しさを感じると、今度は繋がっていなくては不安になってしまう。そういう気持ちってわかりますか?僕はあちこちのチャットルームの中で行方不明になってしまった彼女を探しています。変ですか?現実の世界で行方不明になった彼女をインターネットの中で探すなんて・・・。 |
女1 | いいえ、それは決して不思議なことではないと思いますよ。人間って弱いから誰かにやさしい言葉で語りかけて欲しいものでしょう。だから、現実の世界ではなかなか会話ができなくって、このようにお互いに気兼ねすることなく会話ができる空間を居心地よいと思うのは当然じゃないのでしょうか。それであなた方の気持ちが少しでも癒されるなら、それはそれでよいのではないでしょうか。 |
女2 | きれいごと言ってるんじゃないよ。 |
女1 | えっ? |
女2 | きれい事言ってるけど、お前に私達の気持ちが分かるのか? |
女1 | そんな。私は・・・。 |
女2 | お前は学校の教師か? |
女1 | いいえ私は「aquq」 |
女2 | お前みたいにきれいごと言う奴は大嫌いなんだ。出て行け感嘆符 |
女3 | そうだ。ちっともわかっちゃいないくせに、分かったような振りする奴はうざいんだよ。 |
男2 | 確かにうざい。 |
男3 | じゃまするな。 |
男2 | 出て行け! |
女3 | 出て行け! |
女2 | 出て行け! |
間 | |
男1 | こんなとこで何をやっている。 |
女1 | こんな所で何やってるの? |
男1 | 平塚先生。 |
女1 | だめです。伊辺先生は子供たちのヒーローじゃないといけないの。 |
男1 | 何だって。 |
女1 | あなたは私のここでの姿。 |
男1 | 平塚先生。 |
女1 | だから決して皆を否定しちゃいけない。そう心に決めたのです。 |
男1 | どういうことだ。 |
女1 | 忘れたの? |
男1 | 忘れたもなにも。 |
女1 | そうです。私という人格からはなれたあなたは一人歩きしていった。 |
男1 | もともと俺も平塚先生だというのか。 |
女1 | そうです。 |
男1 | そんな馬鹿な。 |
女1 | チャット依存に陥った私はここから脱出することができない。 |
女3 | ここから脱出することができないのです。 |
男2 | 僕達はここに拉致された。 |
男3 | 監禁されているんだ。 |
男1 | そんな馬鹿な。 |
女1 | 思い出してください。あなたは、この人たちを救うためにここにやって来たのです。 |
男1 | いったいどうしたらいいんだ。 |
女2 | 脱出する方法は簡単。この物語を完成させるのです。 |
男1 | 物語。 |
女2 | 玉手箱を開けて下さい。 |
男1 | 何?これ。 |
女1 | あけちゃだめ! |
男1 | えっ! |
女1 | 浦島太郎の話。 |
男1 | 浦島太郎? |
女1 | ねっ。開けるとよくないことが起こる。 |
男1 | でも・・・。 |
女2 | 開けるのよ。 |
女1 | だめ! |
男1 | 開けるよ。 |
女1 | だめだったら! |
男1 | 開けなくちゃいけない気がするんだ。 |
女1 | だめよ! |
間 |
男1 | なんだこりゃ。 |
女2 | さあ、それを皆に配って。 |
男1 | えっ? |
女2 | それを皆で飲むの。そして・・・。 |
女1 | そして? |
女2 | あなただって「aqua sky」へ。 |
女1 男1 |
そう。あそこへ行きたかった。 |
女2 | やっと本音が出たね、おねえちゃん。 |
女1 | あなたは? |
女2 | 分かった。 |
女1 | どうしてこんなところへ? |
女2 | 逃げたかったの。 |
女1 | 逃げる? |
女2 | 退屈な閉塞された日常から脱出したかったの。 |
男2 | 加奈子ちゃん、君は今どこにいるの? |
女2 | 私はここにいるよ。 |
男2 | そうじゃなくて・・・現実の世界で行方不明になった君を僕はずっと探しているんだよ。 |
女1 | そうだ。加奈子、何処にいるの? |
女2 | 私はここから出ることができないの。 |
女1 | ここ? |
女2 | そう。ここから脱出する方法はひとつ。 |
女1 | 脱出する方法? |
女2 | この物語を完成させるのです。 |
男1 | でも、この物語の最後って・・・? |
女3 | そう、この物語の最後は? |
男3 | この物語の最後はそれを・・・。 |
男2 | それを皆で・・・。 |
女2 | そう、それを皆で飲むの。 |
女1 | 止めるのよ。 |
男1 | 止めるんだ。 |
女2 | さあ、それを飲んで・・・。 |
女1 | だから、加奈子やめなさいって! |
女2 | それを飲んであの「aqua sky」へ行くの! |
女1 | どうしてよ。 |
女2 | えっ? |
女1 | どうしてあなたたちは・・・。 |
男3 | 僕はこの部屋から出ないよ。だって、ここでこうやって皆と話ができれば満足だからさ。 |
男2 | 先のことを考えて生きるのに疲れたんだ。今こうやって皆と話ができて、そして楽しければ満足なんだ。 |
女3 | 皆も同じなんだ。親や先生は私のやってることを馬鹿なことと笑うけど、皆一緒なんだ。ここに来て私はわかったのです。 |
女2 | そう。そして私達は永遠にこの場所に留まる。そのためには・・・。 |
女1 | そのためには? |
男1 | これを? |
女2 | そう。これを飲むの。 |
女1 | だめよ! |
女2 | あなただってあそこへ行きたい。 |
男3 | さっきそう言ったよね。 |
女1 | そんなことない。 |
女3 | でも、さっき確かに・・・。 |
女1 | 私は生きるの。 |
男2 | 生きる? |
女1 | 私はどんなに日常が退屈でも、どんなに辛くても生きるのよ。 |
男2 | 何のために? |
女1 | 何のためって? |
女2 | いい教師になりたかった? |
女1 | えっ? |
女2 | いい教師になりたかったんだよね。 |
女1 | ・・・。 |
女2 | 伊辺先生のように。 |
女1 | えっ? |
男1 | 俺のように? |
女2 | そうです。あなたは伊辺先生がうらやましかった。そうててでしょ。 |
女1 | 私は・・・。 |
男1 | 俺・・・?俺は? |
女1 | 私はだからあなた方を救うためにここにやって来た。 |
男2 | 救う? |
男3 | 救う? |
女3 | 救う? |
女2 | 私達を救う? |
女1 | そう。毎日保健室にやって来るあなた方を救いたかった。 |
男3 | 誰が救ってほしいって言った? |
女3 | 誰が救って欲しいっていったの? |
男2 | 誰も救って欲しいなんて言ってにいよ。 |
女1 | だって、あなた方は? |
女2 | そうじゃないでしょ。 |
女1 | えっ? |
女2 | あなたが救われたかったんでしょ? |
女1 | えっ?何だって? |
女2 | お姉ちゃんが救われたかったんでしょ? |
男1 | いったいどういうことなんだ。 |
女2 | お姉ちゃんは、あなたの名前わ使ってここにやって来たのです。 |
男1 | 俺はいったたい。 |
女2 | あなたはお姉ちゃんのここでの姿。 |
女1 | でも・・・。 |
男2 | でも? |
女2 | でもあなたは実在していた。 |
男1 | えっ? |
女2 | 伊辺先生は確かに実在していた。 |
男3 | そう、確かに実在していた。 |
女2 | そうね、なつかしいなあ。 |
男1 | 俺? |
男2 | そう、実在していた。 |
男1 | 実在していたって? |
女1 | 伊辺先生はどうして? |
男1 | 何? |
女1 | どうして、生きなかったの? |
男1 | どういうことだ? |
女1 | あなたが目指した世界をこの子達も目指している。 |
男1 | 俺のせいだっていうのかい。 |
女2 | それは違うわよ。 |
女1 | えっ? |
女2 | それは違うわよ。 |
女1 | 違うって? |
女3 | さあ、パソコンのスイッチを切って、窓を開け夜明け前の空気を思い切り吸い込んで下さい。 |
女1 | パソコンのスイッチを切って・・・。 |
女3 | 星が見えますか? |
男3 | 夜明けだ。 |
男2 | 夜明けだ。 |
女3 | 夜明けよ。 |
女2 | 皆さん、夜明けです。この国の夜明けはもうすぐそこです。 |
男2 | さあ。 |
女3 | さあ。 |
女2 | さあ、皆でこれわ飲むの。 |
男3 | 行くよ。 |
女3 | 行きましょう。 |
男2 | 行くぞ! |
男23女23が薬を飲み倒れる。 |
声 | 次のニュースです。今日、早朝仙台市宮城野区の公演で、高校生の男女四人が倒れているのを散歩していた男性が発見しました。調べによると、高校生達は「aqua sky」という名の自殺志願者が集まるチャットルームで出会い、この日のことを相談し、そして今朝未明待ち合わせの公園で青酸カリを飲み・・・。 |
女2 | カット! |
女1 | えっ?ここは? |
女2 | 演劇部の部室・・・ということにしておきましょう。 |
女1 | ・・・。 |
女2 | もうすぐ夜が明けますよ。 |
女1 | 加奈子!? |
女3 | もうすぐ夜明けです。 |
男2 | 夜が明けます。 |
男3 | 朝が近い。 |
男1 | 目覚めるんだ! |
女1 | どういうこと。 |
女3 | 「aquq sky」 |
男2 | 「aqua sky」 |
男3 | |
男1 | ここはどこだろう。水底に沈むような間隔が長く長く続き、ふと唐突に目覚めた後、僕らはふとそんな風に感じることがあるだろう。ここはどこでそして私は誰なんだろう。 |
女1 | (スポットの中)私はいったい誰なのだろうか。そして今私は起きているのか眠っているのかさえ分からないふんわりとした身体わ中に浮かせ、体中は何か液体のようなものにつつまれ、そういえば以前にもこのような感覚にとらわれたことがある。それは太古の時代、あるいは母の胎内の中。私はaquaと名づけられた流体 に包まれ呼吸をしている。見上げれば、遠くに光のようなものが見え、私はそっと。 |
男1 | 私はその光の方へと手を差し出す。けれどもその光の粒子はあまりにもはかなくて私の手のひらに届く前にまるで小さな泡粒が水中で消滅していくかのように消えていく。まるで電子と陽電子が衝突し無に帰っていくかのように。 |
女2 | 私はその届きそうで決して届かない遠い遠い光の世界を「aqua sky」と名づける。深く暗い闇に覆われたこの場所が真夜中という名のオヴジェだとしたら、あそこはきっと夜明け前とという名のオヴジェなのだろう。 |
男1 | 大丈夫、僕は生き続けて行くよ。 |
男2 | 僕達も |
女3 | 私たちも |
女2 | さあ、パソコンのスイッチを切って・・・。 |
男3 | 窓を開けて |
女3 | 夜明け前の涼しい風を吸い込んで |
男2 | 目覚めればきっと・・・。 |
女2 | 大丈夫。私は家に帰るから。 |
男1 | 遠くに居ても君を忘れないよ。 |
女1 | えっ? |
男1 | 大丈夫。僕は元気だ。 |
S E |
声 | 僕らは夜明けという何かを待ち続ける 誰もいない海岸に車を停め 波の音を聴きながら カウンターの隅でロックグラスの氷を指で弾きながら あるいは眠れぬ夜に窓際で頬杖をつきながら 真夜中という時の中でたった一人待ち続ける あの人の声を聴いたのは何時だったろう あの人の声は記憶の奥の方へ まるで蝋燭で照らされた古い肖像画のように ふやけてしまった あの人とともにこの時を過ごせたら そう思いながらふと空を見上げれば夜明けは・・・ もうすぐなのだろうか それともそれはもっと先なのだろうか 僕らは夜明けという何かを待ち続ける たった一人で |
音楽果てしなく。 | |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 幕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |