十七歳 
〜やさしく微笑んで〜
A
       

作・安保 健+演劇部

 登場人物

あきな       なつみ

 @へ

 

 <二人芝居を始める−あきなが、なつみの母を演じる>

あきな どうしたの、なつみちゃん。起きなさい。さあ、起きなさい。なつみちゃん起きなさい。
なつみ お母さん、今日は身体が重いの。
あきな これで、熱はかってみて。
なつみ おかさん、今日は無理。動けない。
あきな さあ、計ってみて。
なつみ 嫌や。
あきな 熱があるなら、病院にいかなければならないでしょ。
なつみ ・・・。
あきな さあ、計って。
なつみ 熱なんか、ない。
あきな じゃあ、起きて学校に行けるでしょう。
なつみ 嫌や。
あきな 学校に遅れるわよ。起きましょう。
なつみ 学校なんかどうでもいい。
あきな そんなこと、ないでしょう。
なつみ あんなところ。行きたくない。あんなところ2度と行きたくない。
あきな あんなところ?そんなことないでしょ、なつみちゃん。あなたにとって学校は大切なところなのよ。さあ起きましょう。なつみちゃんがんばりましょう。
なつみ つかれているの。今日だけ休ませて。
あきな 大丈夫、なつみちゃんは強いから。今まで皆勤でしょう。お母さんもがんばるから、なつみちゃんもがんばりましょう。
なつみ ・・・・・。
あきな さあ、お薬あるから飲みましょう。
なつみ 飲みたくない。
あきな 我がまま言わないの。
なつみ 我がままなんか言ってない。
あきな お母さんは心配してるのよ。お薬、飲みましょう。この薬利くわよ。飲みましょう。
なつみ どおして聞かないの?
あきな 利くわよ。この薬。
なつみ 薬じゃなくて、私がどおして起きれないか聞かないの。
あきな 聞いてるでしょ。なつみちゃんのこといつも、聞いてるでしょ。
なつみ お父さん、呼んで。
あきな だめよ。こんなことで呼べないわよ。なつみちゃん知っているでしょう。
なつみ どうして、呼べないの。私がこんなに苦しんでるのよ。
あきな 我がまま言わないの、なつみちゃん。お父さんは忙しいの、お父さんの銀行、今、大変なのよ。あまり、お父さんに心配かけるの止めましょ。
なつみ どうして、いつも、こうなの。
あきな なにが?
なつみ なにがって、自分の意見を押し通すの。お父さんに聞いてもいないのに。
あきな なつみちゃん、何言ってるの、聞かなくたって分かるでしょ。
   (電話が鳴る)
あきな  もし、もし、加藤ですが。佐竹さん、あ、ケイコさんのお母さんですか、なつみがいつもケイコさんに良くしていただいて。なつみからケイコさんのことお聞きしていますよ。ケイコさん、ケイコさんって、それはもう、いつも、なつみ言っていますの。ケイコさんすごいって。ケイコさん、最優秀選手に選ばれたそうですね。すごいですね2年生なのに。おめでおうございます。えっ、なつみにですか?今、うち具合が悪くて寝ているのですが、ちょっと、お待ちください。なつみちゃん、ケイコさんのお母さんからよ。確かめたいことがあるんだって。
なつみ 話したくない・・・。
あきな ・・すみません、今ちょっと、具合が悪いみたいで。後で、こちらから連絡させますから。なつみが何か?えっ、どういうことですか?はい、はい、・・なつみが体育の時間に・・・そんなことを・・・。はい、はい、分かりました。どうもすみません。なつみによく言っておきますから、落ち着き次第、あやまりに行きますから。弁償しますから、本当に申し訳ありません。本当に、申し訳ありませんでした。本当に・・・。
なつみ どうして、あやまるの。どうして、あやまるの!
あきな あなた、ケイコさんのを何処に隠したの。
なつみ どうして、娘から事情も聞かないで謝るの。
あきな ケイコさんのお母さんが言ってるのよ。それにケイコさんのお友達も、あなたが隠すのをみたって言っている。どおして、そんなことしたの。
なつみ お母さんはわたしとケイコのお母さんとどっちを信じるの。どうして、ケイコの友達なんか信じるの。私がケイコの服をどうして私が隠すの。・・・・どうして、どおして、信じてくれないの。ケイコが何をしたか聞かないの。ケイコの友達が何をしたか聞いてくれないの!  (音楽が止む。)
あきな これがなつみさんのお母さんなの?
なつみ <頷く>
あきな もう一度、やり直していい。
なつみ うん。
  <照明暗くなる><静かな音楽流れる>
あきな なつみ、起きなさい。もう朝よ。
なつみ 今日、身体が重いの。
あきな すこし、休んで、様子みようか。
なつみ うん。
あきな ここに、少しいていい?
なつみ うん。
あきな ごめんね。
なつみ なにが?
あきな ナツミに何もして上げられなくて。お父さんの会社大変だから、もう少し、ナツミに何かしてあげれたらいいのにね。きっと、おとうさんも気にしてるよ。そのうち、何処かみんなでいきましょう。
なつみ うん、母さん、私・・・。
   <電話が鳴る>
あきな さっき、ケイコさんのお母さんから電話あっての、多分、また、まただと、思うけど。
   <あきな、電話にでる。>
あきな もし、もし、吉永ですが、ケイコさんのお母さんですか。はい、はい、ナツミにですか?まだ、具合が悪いので、落ち着いたら、こちらから、お電話さしあげますから、ケイコさんの服見つかりましたか。そうですか、はい、はい、わかりました。どうして、そんなこと言うんですか? どうして、ナツミだと決め付けるのですか。ナツミにきちんと聞いてみますから。そういう、言い方止めて下さい。まるで、ナツミが盗んだ見たいないかたやめてください。双方の事情を聞いてから言ってください。失礼だと思います。きちんとナツミに聞いてみますから。ナツミは、そんなことする子ではありません。とにかく、なつみから、きちんと事情を聞きますから。こちらから、ご連絡しますからよろしくお願いいたします。
なつみ 母さん、私、本当はケイコさんの服、体育の時間に隠したの。ごめんなさい、お母さん。
あきな どうして、隠したの。
なつみ ケイコが許せなかったの。
あきな ケイコさんが?
なつみ うん。初めは優しかったけど、嫌がらせするの、だから困らせようと思って水泳の時間に服を隠したの。
あきな そうだったの、明日、ケイコさんの家にいきましょう。きちんと、お話しましょう。ケイコさんの服ある。
なつみ うん。
あきな 朝ごはん、一緒に食べましょう。
なつみ ありがとう。お母さん。
   <音楽が止まる。照明、明るくなる。>
あきな 今度は私のお母さんやって。
なつみ うん。
  <照明落ちる。静かに音楽流れる。なつみがあきな   の母を演じる。>
あきな <ランドセルをしょって>わーい、わーい、わーい、やった。やったよ。
なつみ アキナちゃん、帰ってきたら何するの。手とうがいしなさい。
あきな おかあさん、これ見て!
なつみ いいから、早く、手を洗いなさい。
あきな お母さん、見て。これ見て。アキナ賞状貰ったよ。見て。すごいでしょう。
なつみ 賞状?
あきな うん、賞状。
なつみ アキナちゃんが?
あきな あきな  うん、本当だよ。本物だよ。
なつみ 誰にもらったの。
あきな 校長先生だよ。
なつみ 本当に?
あきな うん。本当だよ。今日のお話朝会でもらったの。貰えたの2人だけだったんだから。お母さん、すごいでしょ。
なつみ ・・・何の賞状。
あきな 歯の。
なつみ 歯?
あきな うん、歯。ホワイト賞!
なつみ 歯って?
あきな アキナ、虫歯が一本もなかったの。だから、貰えたの。すごいでしょう。
なつみ いいから、勉強しましょ。
あきな おかあさん、どうして、喜んでくれないの。アキナ初めて賞状もらったのに。
なつみ だって、お勉強の賞状でないでしょ。お勉強の賞状を貰ったら喜んで上げる。だから、お勉強しましょう。
あきな おとうさん、喜んでくれるかなあ。
なつみ お父さんも、お勉強の賞状だったら喜んでくれると思うわよ。
あきな でも、校長先生も鈴木先生も、おめでとうって喜んでくれたよ。
なつみ 母さんも、父さんもお勉強で喜びたいの。わかった?
あきな ・・・でも・・。
なつみ でも、何?
あきな アキナお勉強ができないよ。
なつみ だから、がんばるんでしょ。
あきな この賞状飾って。
なつみ 飾ってどうするの。
あきな 飾っておきたいの。
なつみ こんなの飾ってもしょうがないでしょ。
あきな こんなの?
なつみ こんなの飾っても誰も喜ばないでしょ。
あきな アキナが初めてもらった賞状だよ。
なつみ いいから、おべんきょうしましょう。お勉強で賞状貰ったら飾ってあげる。
あきな ・・・・。
なつみ 今日は、アキナの苦手な算数ドリルから始めましょう。2分の1たす2分の1はいくら?
あきな ・・・・。
なつみ 分からないの。
あきな 4分の2
なつみ 違うでしょう。2分の2で1でしょう。きのう、教えたでしょう。もう忘れたの?
あきな ・・・・。
なつみ じゃあ、3分の1たす3分の1は?
あきな 6分の2.
なつみ どうして、間違うの。今言ったばかりでしょう。分母はたしちゃだめだって。頭の悪い子ね。本当に。もう一度、やってみて。違うでしょ。じゃあ、これが最後よ。これが、できないと、ごはんなしよ。5分の1たす5分の1は?
あきな ・・・・。
なつみ 違うでしょ。
あきな 頭が痛くなる。頭が痛くなる。
なつみ また、仮病・・。できるまでごはんなしよ。
あきな かあさん、今日、サーカス見に行く日だよ。行こう。
なつみ 何を言ってるの。こんなのもできないでサーカスなんか行けるわけないでしょう。
あきな だって、アキナ、ずっと、ずっと、楽しみにしていたのよ。父さんもいいって言ってたよ。
なつみ 父さんはアキナがおりこうにしていたらいいって言ってたのよ。こんなのも解けないで行けるわけないでしょう。早く、解きなさい。できたら、つれていってあげるから。<ナツミ消える>
あきな ・・・・できないよう。できないよう・・・。<音楽が止む。>
なつみ 辛いね。
あきな うん、辛かった。
なつみ おとうさんは喜んでくれなかったの?
あきな おめでとうって言ってくれたけど、あまり、嬉しそうではなかった。でも、おばあちゃんはすごいねって喜んでくれた。
なつみ

喜んでもらえてよかったね。

あきな うん。でも、こんなことがずうっと続いて、気が狂いそうだった。
なつみ どうしたの?

  <音楽が流れる。なつみがあきなの母になる。中学3年生のあ    きな>

なつみ アキナ、ちょっと、出かけるから、鍵かけてね。遅いから誰が来てもでないでね。
あきな 何処へ行くの?
なつみ 病院。
あきな おばちゃんの具合が悪いの?
なつみ 危篤らしいの。今日がやまみたい。
あきな そんなに悪いの。
なつみ あなたは心配しないで自分のことを心配しなさい。入試は来月なのよ。おばちゃんのところ行くだけで時間がかかるのよ。
あきな でも・・・。
なつみ でも?何?一時間でも二時間でも貴重なのよ。
あきな 私行く。
なつみ 何を言うの?!あなたはだめ!
あきな 私行きたい。おばあちゃんに会いたい。
なつみ だめ!あなたが落ちたらおばあちゃんが悲しむでしょう。
あきな そんなことない。
なつみ だったら、もっと、成績上げなさい。入れるようにしなさい。成績が良かったら推薦でとっくに入れたのよ。あなたができないから、こうなるのよ。
    <なつみ退場>
あきな できないものはできないよう。どうしようもないものはどうしようもないよう。寒いよう。寒いよう。
    <音楽が止む。明るくなる>
なつみ 大丈夫?
あきな <震えている>寒気がするの。
なつみ どうしよう?
あきな 大丈夫、落ち着くから。
なつみ 何か探してくる。<行きかける>
あきな 待って。ここにいて。
なつみ うん。いいけど。
あきな 心配してくれて、ありがとう。
なつみ うん。
あきな あれ貸して。
なつみ あれって?
あきな カッター。
なつみ えっ。
あきな リスカするの。リスカでいつも落ち着つかせるの。
なつみ いいけど。
あきな これやるとほっとするんだよね。あれ?おかしいな。出ない。いつもなら出るのに・・・血がでないよ。出ないよ。出ないよう。血が出ないよう。
なつみ やめて!
あきな 出ろ!出ろ!出ろ!出ろ!・・・・。
なつみ (屋上の柵へ行く)ここから、飛び降りよう。
あきな ・・・・。
なつみ そうすれば、すべて、終わるよ。苦しいことも、悲しいこともすべて終わるよ。飛び降りよう。飛び降りていいんだよ。
あきな 死んじゃだめ!私、死んでるの!悲しい匂いがするの!霊安室って悲しい匂いがするの。私、警察の霊安室に置かれたの!
あきな 父さんと母さんが来て、母さんは泣いてばかりいるの。母さん、謝ってばかりいるの。父さんは「どうしてこんなことしたんだって」って叫ぶの、「もう一度、やり直そうって。」って叫ぶの。「一緒に帰ろう。」って叫ぶの。
なつみ ・・・。(あきなを抱きしめる。)
あきな 泣いちゃだめ。泣いたら負けだよ。泣いたらがんばれないよ。あなたに、生きて欲しいの。
なつみ (なつみ頷く。)
あきな 私は幼稚園のとき、先生からマリア様の言葉「すべての人に感謝しなさい。」とならいました。それで、私はみんなに感謝していました。でも私は「ブウ、ブウ」って言われてみんなにバカにされました。多分私は豚みたいに太っていたからだと思います。それで必死にやせなした。でも、みんなにいじめられていました。ちょっとした、言葉が私を深く傷つけるのです。どうしてなんだろう?みんなに感謝しているのに、どうして、私は傷つくんだろうと思いながら生きてきました。そのうち私は何度か死のうとおもいました。そして、病院に行かなければならなくなりました。精神科の待合室にあなたがいました。私はなるべく目をそらしていたけど、そのうち目があって、あなたは私に優しく微笑んでくれました。初めて他人に優しく微笑んでもらえたような気がしました。わたしはとても救われたような気がしました。とても、救われたような気がしました。私を救ってくれたあなたに、感謝状をお送ります。 <アキナ、感謝状を取り出す。>
あきな 私が表彰するなんておかしいよね。私賞状なんて一回しかもらったことないものね。でも、うれしかった。賞状ってもらうとこんなにうれしいんだって、あの時思った。人から認めてもらうって、こんなに嬉しいんだって。だから、ナツミさんに作ったの。なつみさん、いっぱい、もっていそうだから、いらないかな。へへへ、しわくちゃになっちゃった。
なつみ ありがとう。大切にする。私の一番大切なもの。
あきな あきな  わたしこそ。
なつみ うん。
   (あきな立ち上がる。)
あきな スマイル、今日のお空は笑ってる!・・・・もっと前に、ナツミさんに会ってればよかった。
なつみ ナツミでいいよ。
あきな うん。
<ジャニス・イアンの「17才」が流れ、2人が鳥のように走り回る。やがてあきながなつみを最後に見つめ突然去る。なつみは生き返ったように夢中で走り回る。
                                  −−− 幕