カラーのプリンタが手の届く価格になり、写真なみの高画質と宣伝されるようになって、 すでにインクジェット式のカラープリンタを所有されている人も多いだろう。私たちは 普段何気なく雑誌などのカラー印刷を見ているいるがそのカラー印刷がどのように実現 されているかはあまり知られていないようなので簡単にみた上でインクジェットプリン タについて考えてみよう。
カラーの表現には原色系(加色混合)と補色系(減色混合)による方法がある。前者はRGB (赤、緑、青)を混ぜ合わせて、後者はCMY(藍、赤紫、黄)を混ぜて色を作り出す。加色 混合はおなじみ光の三原色で、それ自身が発光するか、透過により色づけさせる必要が あるため、反射光を利用する印刷物では減色混合による色表現が使われる。
では、実際に色を表すにはどのようにすればよいのだろうか。 白い紙に何もインクを乗せなければ白色。Cのインクを乗せれば藍色。Yのインクを乗 せれば黄色。CとYを乗せれば緑色、CMYすべてで黒になる(*注)。 ただしこの組み合わせで表現できる色は8色しかないので、フルカラーを表現するため にはそれぞれの色の濃淡が必要になる。しかし、プリンタではインクを水で薄めて濃淡 を作るわけにもいかず、一色のインクで濃い色や薄い色を表現するには工夫が必要だ。 例えば商業印刷では印刷する点(網点)の大きさを変えて濃淡を表現する。新聞の白黒写 真などを虫眼鏡などでよく見ると、大小の点が集まっているが離れて見てみるとうまい 具合に濃淡が出来ているのがわかるだろう。 カラー印刷では画像をCMYそれぞれの色に分解して(色分解)、色毎に違う角度をつけた スクリーンで濃淡を点の大小に表現し(網点化)、それぞれの色を重ね合わせて印刷する ことでようやくカラーとなる。一般的な商業印刷ではこのようにカラーが実現されてい るのだが、家庭用インクジェットプリンタはまた違った仕組みでカラーを印刷している。
さて、一般の印刷物ではCMY(+K)での多色刷り(プロセスカラー)で色彩表現していること を説明したが、インクジェットプリンタでも基本は同じだ。ただし家庭用のインクジェ ットプリンタでは基本的には一つの点の大きさを変えることが出来ないので、点の集合 で濃淡を表現している。つまり小さい点がまばらで淡い色を、密集させて濃い色の状態 を作るわけだ。
以前写真をある程度綺麗に印刷するためには最低150dpiは必要だと書いた。 最近のインクジェットプリンタは1440dpiとかになっているので、この条件を十分満た しているように思うだろう。しかし先に述べたように複数の点を使って濃淡をつける必 要があるため、カラー印刷に限ってはdpi表記通りには印刷できないのである。 デジタル処理によるフルカラー印刷では、それぞれの色に256段階の階調で、3色の組 み合わせで256の3乗で1677万色を表現するのが一般的だが、この1色で256階調を点の 集合で表すには16x16ドットが必要になる。つまり16x16ドットで一つの濃淡を表すため 1440dpiでも90dpiしかなく150dpiにすら満たないことになる。
では写真高画質をどのように実現しているかというと、各社プリンタメーカは工夫して、 インクの色数を淡い色を加えて増やしたり、1ドットのインクの量を何段階かに変えて 一つのドットで表現できる階調を増やしたり、点の集まりによる階調表現(ディザ)に 工夫を凝らしてより豊かな階調表現を実現させ、写真高画質を競っているわけだ。
グラビア印刷などではだいたい300dpi以上(カラー印刷の場合)なのだが、720dpiや 1440dpiのインクジェットプリンタよりも綺麗なのは上記のような理由である。 またデジカメ専用のプリンタなどで昇華型のものもあるが、これも一つの点で濃淡を表 現できるため300dpiであっても非常に綺麗に印刷できる。
また、インクジェットの欠点でもあるのだが、インクがにじむと色の再現性が変わって しまったりインクで湿って波打ってしまうため、高画質での印刷には専用の用紙が必要 になる機種が多い。 専用紙では綺麗でも、インクジェット用年賀はがきで同じ品質で印刷できるとは限らな いのだ。
プリンタを選ぶときは**dpiという表記だけに惑わされずに、インクや用紙のコストや 印刷できる用紙の種類や大きさと、サンプルなどで色の表現範囲の大きいものや再現性 を確かめてみよう。同じメーカでも機種により淡い色が得意だったり鮮やかな色が苦手 だったりと得手不得手があったりする。また、見落としがちな印刷時間にもかなりばら つきがあるので、確かめるようにしたい。
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