鉄朗が住んでいるのは1LDKのマンションだ。オートロックはついていないので、客が来たら直接玄関まで来ることが出来る。
現在、夜中の二時。今日は金曜なので少し遅くまで起きていた鉄朗は突然鳴った玄関のチャイムに驚いた。 (誰だろう?こんな時間に…)
不思議に思いながら玄関のドアを開くと、そこには見慣れた顔があった。
「緑?どうしたんだ?こんな時間に」
緑は俯いていたが、鉄朗の声に顔をあげ苦笑した。
「ごめん、こんな夜中に突然来て。どうしても顔見たくなって…っ!」
笑顔だった緑の瞳からスッーと涙が零れた。
「ちょっと、どうしたんだよ?」
鉄朗は慌てて腕を伸ばすと、緑は躊躇いなくその腕の中に飛び込んでいった。腕に飛び込んできたその身体を鉄朗は優しく抱きしめた。
平気だと思っていた。いつもと変わらない表情で鉄朗と会えると思っていた。しかし顔を見たとたん、無性に悲しくなった。 涙が止まらない。
鉄朗は腕の中で泣いている緑の髪に指を絡ませ、何も言わず抱きしめ続けた。

「もう落ち着いた?」
しばらくして緑の嗚咽が聞こえなくなり、泣き止んだと判断して声をかけた。
「うん…。ごめん」
涙が止まっても鉄朗の腕の中の居心地がよくて、離れがたかった。
「とりあえず部屋に入ろう。ここじゃ寒いだろ?」
「ごめん…」
「そんなに謝らなくてもいいよ。何か飲む?」
赤くなってしまった目を隠すように俯く緑を抱き寄せながらソファに座らせる。
鉄朗は何も聞かなかった。
こんな時間に突然訪れ、泣いたのだから何かあった事は容易に想像がついた。しかし何も聞かない。
緑はその鉄朗の優しさに再び涙が溢れた。
「テツ…、俺…」
「何も言わなくていいよ。泣きたいだけ泣けばいいし、強がらなくていい」
鉄朗はそう言ったが、緑はすべて話してしまおうと思った。それで嫌われたら、傷つかないと言えば嘘になるが、何も言わないのも心苦しかった。
「言わせて。言ったほうが楽になるから…」
すでに涙は止まっていた。 緑は静かに口を開いた。
「何から話せばいいのかな…。あ、俺まだテツに俺がやってる仕事のこと話してないよね」
「え、ああ…」
先ほどまでと緑の顔つきが違っていた。瞳は冷めていて、顔には表情がない。
出会ってまだ間もないが、緑のこんな顔を見た事はなかった。
「俺ね、ホストやってたんだ。正確に言えばさっきまでだけど」
「ホスト…」
「そう。でも俺がやっていたのはそれだけじゃない。客は女は当然いるし、男もいる。俺は客と寝るのが仕事だった…」
「でもどうしてホストなんか…」
「俺、前に母親に捨てられたって言ったよね。親父はいなかったし俺には母親しかいなかったんだ。でも俺の5歳の誕生日の日、仕事に行ったきり帰ってこなかった。だから施設に連れていかれて、そこで育った。でも俺はどうしても施設に慣れなくて、中学を卒業したと同時に飛び出したんだ。施設を出たからって行く当てなんかなかったけどね。そんな時に店のオーナーに声をかけられたんだ」
「だからホストになったのか?」
「そう。躊躇いなんかなかった。何もかもどうでもよかった。俺には何をやっても俺を怒ってくれる人も心配する人もいないから」
緑は苦笑する。
自虐的になっている緑は傷ついた心を懸命に隠し、顔に仮面をかぶっている。出来るだけ表情を読み取られないようにしていた。
「最近はホストだけじゃなく、薬も売ったりしてた。だから収入も増えてなんとか部屋を借りる事が出来た」
「でも仕事辞めたんだろ?これからどうするんだ?」
「まだ何も決めてない」
鉄朗は悩んだ。
一つ考えた事があったからだ。
話を聞いていて緑は自分が誰にも必要とされていないと思い、存在価値を見出せないでいると感じた。
出会ったのはまだ最近の事だが鉄朗は緑に対し愛情に似た愛しさを感じていた。もちろん一人で生きてきた事に同情しているわけでもなく、ただ愛しいと思う。
緑は時間があれば鉄朗のマンションにやってきて楽しい時間を過ごしていた。鉄朗の前では張り詰めた雰囲気が取り払われ、16歳らしい幼さが残る少年に戻っていた。
それをかわいいと思う。
しかしこれが愛情だと言いきる勇気はまだ無かった。相手が男だというのが一番の理由だが、それだけではない。
年が8つも離れているので、緑が弟のようにも感じる。
気持ちが愛情と友情の間で揺れていた。
そして愛情にしても友情にしても心に傷を負っている緑をどうやって受け入れてやればいいのだろうか。悩むところである。
緑は自分を信じてすべて曝け出してくれた。きっとこんな事は緑にとっていい思い出ではないし、きっと話したくない事だったかもしれない。それでも話してくれた。たとえ自分の心の傷を抉ることになってもそうしてくれたのだ。
鉄朗はそう思い、気持ちを整理した。 今日、仕事を辞めた緑はこれから生活が大変になってくるだろう。家賃だって生活費だって稼がなくてはならない。
鉄朗は迷いを振りきるように一つ頷くと緑に向かって言った。
「一緒に暮らさないか?」
その言葉に緑はピクッと身体を震わせた。
「本気で言ってるの?」
「ああ」
「俺、親にも捨てられるような奴だよ?全くの他人だよ?」
緑は鉄朗の嬉しい提案に素直に頷くことが出来なかった。
心の中で二つの思いが葛藤していた。
一緒に暮らしていけたらどんなに楽しいだろうか。初めて心を許した人間が鉄朗だった。自分のテリトリーに侵入してきても拒まなかった。
しかし不安もあった。いつか別れるときが来るだろう。それは鉄朗に恋人が出来たときかもしれないし、自分に飽きて捨てられるときかもしれない。
緑の中の臆病な心が素直に受け入れる事を拒んでいた。
「他人同士で暮らしてる人間なんてたくさんいる。夫婦だってそうだろう?もとは他人だったのが、一緒に生きていきたいと思ったから結婚するんだ」
「でも…」
「どうしても嫌か?」
少し悲しそうな顔で聞いてきた鉄朗を見て、緑は信じてみようと思った。その結果傷つくかもしれない。『別れ』がやって来るかもしれない。でも今一人になりたくなかった。
「嫌じゃない。嬉しいよ。でも本当にいいの?俺なんかがいてもなんの得にもならないよ?」
「俺は緑に何かして欲しいから一緒に暮らそうって言ったんじゃない。一人でいるより二人でいる方が何をするにしても楽しいだろ?だから一緒に暮らそうと思ったんだ」
耳に入って来る鉄朗の言葉一つ一つが堪らなく嬉しかった。
今までそんな言葉をかけてもらった事などなかった。客と寝たあと身体目当てで近づいてくる人間は数え切れないほどいた。
しかしそこに何の感情も無い事は解っていた。鉄朗の言葉が心に染みた。
「ありがとう」
今まで我慢していた涙が再び零れ落ちてきた。
取り繕っていた無表情の仮面も剥がれ落ちた。
「よく泣く奴だな。これからはあんまり泣くなよ?」
苦笑しながら頭を抱き寄せ、背中をさすってやった。
「泣かないよ」
拗ねたように言った緑がかわいくてドキッとしたが、それは笑って自分の心を気付かない振りをしておいた。
「さあ、もう寝よう。明日は仕事休みだから二人でどこかへ行こうか」
「どこに行くの?」
「特に決めてないけど。行きたいところとかある?」
「うーん…。桜、見に行きたい」
「桜かぁ…」
今は4月の上旬で、桜は満開だ。鉄朗のマンションの近くには桜は無いので少し遠くまで出掛けようと思った。
「いいよ。じゃあ明日は早めに起きなくちゃいけないな」
「俺が起こしてやるよ」
「期待してるからな」
クスッと笑う緑を鉄朗ははかわいいと思った。
綺麗な顔には泣いた跡が残っており、目は真っ赤になっている。それでも綺麗だった。そこらにいる女よりもずっと色っぽく、艶かしかった。
「着替えたら寝ようか」
「わかった」
鉄朗の部屋にはすでに緑の服が数着置いてあった。最近は足繁く通っていたのでいつの間にか緑の荷物が増えていたのだ。
着替え終わるのを待って二人で一緒にベッドにもぐった。二人で寝るのはいつもの事だった。 再び鉄朗の優しさに触れた緑はますます好きになっていった。
(もうこの思いは止められない)
隣で眠る鉄朗の顔を見ながら呟いた。




桜の花が散り葉桜になった頃、二人の生活が始まった。
1LDKなので男二人で暮らすのはそんなに狭くはない。ちょうどよい広さだった。
緑は仕事を探しながら家事をする毎日を過ごしていた。家事が好きなわけではない。しかし鉄朗のために、好きな人のために何かをして必要とされていると感じる事が嬉しかった。
仕事はなかなか見つからなかったが、鉄朗はゆっくり探せばいいと言ってくれていた。毎日が楽しくて仕方なかった。たとえ片思いだとしても毎日好きな人と一緒にいることが出来るし、一緒にご飯を食べる人がいる。
寝るときには隣に確かな人の温もりがある。
「おかえり」
鉄朗が仕事から帰ってくると必ずそう言って出迎えた。誰かに「おかえり」や「いってらっしゃい」と言う事が出来るのも楽しみの一つだった。
「ただいま」
「もうご飯出来てるよ。食べる?」
「ああ。ありがとう」
こういう会話はなんだか照れくさかったが、お互いなるべく意識しないようにしていた。
「緑、また料理の腕あげたね」
「そうかな?」
「そうだよ。どんどん美味しくなってきてるもん」
「ありがとう」
何となく恥ずかしくなって緑は俯いてしまった。
一緒に暮らし始めて緑は料理に力を入れようと頑張ってきた。本を片手に毎日奮闘していたのだ。その努力が実って美味しいと言ってもらえるようになった。なんだか得意になってしまう。
鉄朗は顔をほんのり染めて俯いている緑に見惚れてしまった。
(なに緑に見惚れてんだ…)
自分自身に苦笑しながら食事を進めた。
「テツ。俺明日少し遅くなるから帰って来たときいないかもしれないから」
「どこか行くのか?」
「うん。店が同じだった奴に会う事になったんだ」
店の奴と聞いて少し心配になったが、緑だって子供ではない。
「俺のことは気にしないで行ってこいよ」
笑顔でそう言ってきた鉄朗に一抹の淋しさを感じながらも、そんな事を気付かれないようにしていた。

翌日、鉄朗は会社が終わったあと、久ぶりに同僚と飲みに行く事にした。
「どの店にしようか?」
一緒に行くのは男だけでなく、女もいた。その中には前々から鉄朗の事を気にしていた同期の恵里という女もいた。
「どこでもいいんじゃないか」
「じゃあいつもの所にしようか」
という事で一行が向かったのは会社の近くにある居酒屋だった。鉄朗は店で恵里と隣同士になった。
「本当に久ぶりだよね。明智君と一緒に飲むなんて」
恵里は嬉しそうにしながら鉄朗と話す。
「そうだね。しばらく忙しかったし、こういう機会がなかったからね」
実は鉄朗は周りの友人から恵里が自分に気があるらしいと聞いていた。恵里は社内でも美人だと有名で、好意を持たれて悪い気はしない。
鉄朗も恵里の気持ちを知っていたが、本人が何も言って来ないので知らない振りを通していた。それに何となく気が乗らなかったのだ。
「ちょっと聞いたんだけど、明智君、若い男の子と一緒に暮らし始めたんだって?」
まさか知っているとは思わなかったので、さすがに驚いてしまったが嘘ではないので素直に肯定する。
「少し前に怪我して倒れてたところを助けて仲良くなったんだ」
「そうなんだ。かわいい子なんでしょ?」
「かわいいというより綺麗と言ったほうが正しいかな」
ふと、緑のことを思い出す。
今日は出掛けると言っていた。だからまだ帰ってきていないだろうということはわかっていたが気になった。(今ごろどうしてるんだろう?)
最近は仕事をしていても緑のことを考える時間が増えていた。
「男の子で綺麗なんて女として一回見てみたいな」
そう言って誘うような視線を鉄朗に向けた。(まいったな…)
優しい鉄朗は恵里をきっぱり断ることが出来ず、困ってしまった。
「いつかそういう機会があればね」
曖昧に言葉を濁してその場をしのぎ、他の仲間と一緒に騒ぎ出した。

ほろ酔い加減で店を出た鉄朗達は方向が同じ者同士で駅に向かった。鉄朗はしまった、と思いながらも恵里と二人きりで駅に向かうことになった。
「一つ聞いていい?」
歩きながら恵里が突然尋ねてきた。
「いいけど、何?」
決して冷たい態度をとらないのが、いかにも鉄朗らしかった。
「今、付き合ってる人いる?」
「いないよ」
「そう。じゃあ好きな人は?」
好きな人は?そう聞かれたときすぐに思い浮かんだのは、いつも笑顔を見せてくれる緑の顔だった。
たくさんの顔を見てきた。泣いた顔や照れた顔、笑った顔や困った顔。すべてがとても綺麗で、いろんな表情を見るたびにドキッとさせられた。
(こりゃ、降参だ…。素直に認めるか、緑が好きだって)
「いるよ、好きな人。片思いだけど」
当然緑の気持ちを知らない鉄朗は片思いだと思っている。
「私…。ずっと好きだったのよ、明智君のこと。片思いなんでしょ?だったら私と付き合って!」
恵里は興奮気味に告白した。
「ごめん…。俺恵里さんの気持ちには応えられない。片思いでも一緒にいられれば幸せな気持ちになれるからそれだけでいいんだ」
緑と一緒にいる時間はどんな時間よりも楽しかった。鉄朗だけにしか見せない甘えた態度や笑った顔が愛しかった。
そう思っていると、緑に会いたくなった。
「じゃあ。本当にごめん」
鉄朗は急ぎ足でホームに向かい、家路を急いだ。
マンションに着いて鍵穴に鍵を差し込みまわすと、鍵がかかってしまった。
(帰ってるのかな?)
ドアを開けると中なら光が洩れていた。
「緑?帰ってきてるのか?」
「あっ!おかえり」
「ただいま」
いないと思っていた人間がいると嬉しいものである。自然と顔が綻んでくる。
「早かったんだな」
「うん。会ったからって特にやることないし。なんか飲む?」
「水、飲みたいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
パタパタとキッチンに行く緑を愛しそうに見送ってから着替えるため寝室に入った。
そこには大きなベッドが一つある、いつもと変わらない風景だが、好きだと気付いた今、一緒に寝るという事がどういうことか考えてしまった。
「ヤバイなぁ…」
一人、呟きながら大きなため息をついた。




鉄朗に悩みが出来た。 それは緑と一緒に寝ること。
毎日隣には綺麗な顔で眠る緑がいて、毎日ありったけの理性をかき集めて寝ていた。そうでもしないと襲いかかってしまいそうで怖かった。
そんな事だけはしたくない。
しかし寝不足が続いて、そろそろ限界が近かった。
「テツ、どうしたの?最近顔色悪いよ?」
「大丈夫だよ」
優しく微笑みながらそう言うが、大丈夫でないのは緑でもわかった。
「大丈夫そうには見えないよ。仕事忙しいの?」
「忙しくないよ。時間ないからもう出よう」
朝食が終わり、一緒に家を出るのが日課だった。
緑は結局レストランでウェイターの仕事をすることになった。マンションから遠くないところにあるので一緒に行くのは数分だけだが、それだけでも緑には嬉しかった。
「あんまり無理しないでね」
鉄朗を見るとついそう言ってしまった。顔色が悪い理由を言えない鉄朗は苦笑するしかない。(今日は武史のところにでも泊めてもらおうかな…)
限界を感じて今日は外泊を決めた。
『緑?ごめん、今日は友達の所に泊まる事になったんだ。だから悪いけど今日は帰れない』
「そうなんだ…。うん。わかった…。じゃあ」
簡単な電話でのやり取りで緑への報告は終わった。(寂しいな…)
慣れない広い部屋で一人きりになる事のない緑は堪らなく寂しかった。とてつもない孤独感が緑を襲った。
その翌日も鉄朗は友達の家に泊まるといって帰ってこなかった。(テツ…。どうして?)
次第に不安になってきた緑は、広すぎるベッドの上で泣いた。いつも必ず感じていた隣にある温もりがない。その事が悲しかった。
「ただいま」
そう言って帰って来たのはその日の夜だった。
「テツ!お帰り!」
2日ぶりに見る鉄朗の顔に笑顔がこぼれた。
「どうしてずっと帰ってこなかったの?仕事が忙しかったの?」
不安そうに見上げてくる緑を抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢した。
「そうだな。ちょっと忙しかったかな」
「そうなんだ。お腹空いてない?ねえ、なんか食べる?」
「ありがとう」
また眠れない日が続くのかと思うとちょっとばかり辛い気持ちがあったが、それでもそんな気持ちは緑の顔を見て吹き飛んだ。
やはり緑の顔を見ると幸せになれる。離れられない、そう感じた。

テーブルに夕食を並べ、一緒に食べながら緑は俯きながら呟くように尋ねた。
「テツ…。俺、邪魔になった?ここにいないほうがいいのかな…」
思ってもいなかった事を聞かれて鉄朗は驚いた。
「どうしてそんな事思うんだ?」
「だって最近眠れてなかっただろ?それに昨日も一昨日も帰ってこなかったし、俺が邪魔だからかなって思って」
鉄朗は帰らなかった事を後悔した。
緑が寂しがることは解っていた事だ。こんな不安な顔をさせたいのではない。
「そんな事ないよ!邪魔なんじゃない。ずっといて欲しいって思ってる」
「本当に?そう思ってるの?」
「思ってるよ」
緑は泣きたくなってきたのを堪えて、真剣に鉄朗の話を聞いた。
「俺が帰ってこなかったのは隣に緑がいると眠れないからなんだ。もう理性に自信がなくなって来て…」
「…?」
鉄朗の言いたいことがよくわからない緑は首を傾げてしまった。
「俺がこれからいう事を聞いても嫌わないで欲しいんだけど」
「いいよ…」
よく解らなかったが、とりあえず頷いておいた。
「好きなんだ、緑のことが。だから一緒に寝るのが辛かった。隣にいると思うと緊張するし」
「なんだ、そんな事。もっと早く言ってくれればよかったのに。俺もテツの事好きだよ。きっと初めて会ったときから好きだった。テツにだけだよ?俺の過去の事や悲しかった事を話したのは。泣いたのもテツの前だけだよ」
思いがけない緑の告白に鉄朗は目を丸くした。
まさか両思いになれるなんて思っていなかった。ずっと自分一人の一方通行だとばかり思っていたのだ。
「男同士でもいいの?緑ならいくらでも綺麗な女の人が見つかるよ?」
「それはテツだって同じだろ?俺はテツじゃなきゃ嫌だから」
食事をする手を止めて懸命に気持ちを伝えてくる緑が堪らなく愛しかった。好きだと言ってくれた。だからもう抱きしめてもいいんだと思い、立ち上って緑のほうに回りこんだ。
「抱きしめてもいい?」
「いいよ」
華奢な身体を引き寄せ、今まで出来なかった分をとり返すようにきつく抱きしめた。
「緑は細いな。壊れちゃいそうだよ」
「壊してもいいよ。壊れるくらいきつく抱きしめてよ。俺、テツになら何されてもいい」
緑は鉄朗の胸に縋りついた。この2日間、ずっとこの温もりを求めていた。鉄朗から感じる優しい暖かさが緑の乾いた心を満たしていく。
抱きしめられながら確実に、緑の心にできていた大きな傷にかさぶた貼られていった。

寝慣れたベッドにいつもと違った雰囲気が漂った。鉄朗は細い身体を壊れ物を扱うように寝かせ、その上に覆い被さった。
「テツ…」
嬉しそうに微笑む綺麗な顔に口付ける。
緑は瞳と閉じて降りてくる唇の温かさを感じ取る。
「好きだよ。愛してる…。愛してる…」
触れ合うぐらいに離した、鉄朗の唇からの甘い囁きにそっと瞳を開けて顔を見上げた。すぐそばにある愛しい人の顔に手を伸ばして触れてみる。冷たい掌に鉄朗の熱が伝わり、身体中に飛び火する。
「どうした?」
ひんやりとした感覚に緑の顔を覗きこみ、優しく口付ける。
「ここにテツがいるなって思って」
「いるよ。ずっと緑のそばにいる。もう放さないから、独りにしないから」
「絶対だよ?」
「ああ」
「俺…、テツが帰ってこないとき、もう飽きられたんじゃないかって思った。また捨てられたのかなって、独りきりになるのかなって思ったら怖くて震えがきたんだ。怖かった。怖かったんだ…」
何度も何度も怖かったと呟く緑の背中を撫で擦って、宥める。
溢れてきた涙を唇を寄せて吸いとってやる。
「ごめん。独りにさせてごめん」
「もう独りはヤだよ…」
甘えてくる緑に啄ばむようなキスを何度もする。
次第に深くなり、貪るように舌を絡めあう。
「む…んんん…っ…はぁ」
舌先を噛んでやると甘い声が洩れた。
「ああ…やぁ…あぁ…」
「緑…」
舌を首筋にずらし、服を脱がせていく。慣れている緑の身体は自然と脱ぐのを手伝うように浮き上がる。
鉄朗はそれをどうしても苦笑するしかない。
「ああ…はぁ…っ…ああ」
脱がし終わった服を下に捨て、胸の突起を舌で転がす。
「やっ…ああ……ふっ…」
白く透き通るような肌に赤い印が残るようにきつく吸い上げ、舌を滑らす。緑はじりじりと身体から快感が沸きあがり、焦れったくてに身を捩った。
「ああ…テ…ツ…ああ!」
鉄朗は手をズボンの中に滑り込ませ、すでに勃ち上がり始めている緑のものを握った。
「んんっ!あぁ…っ…ああ!」
「緑、気持ちいい?」
「い…い…ああっ…はぁ…」
鉄朗に身を任せて快感を貪る緑は綺麗だった。流れる汗も綺麗さを際立たせるものになっている。
ズボンを下着ごと脱がせ、手の中で息づくものを口に含んだ。
躊躇いなんかなかった。白く綺麗な身体の中心は緑と同様綺麗だった。ごく自然に口の中に招き入れた。
「ああ…やっ…もう…イク…あぁ…」
身体を震わせ、イキそうになっているのを根本を掴んでとめる。
「いっ…やぁ…テツ…」
「もう少し我慢して」
「やぁ…ああ……はぁ…」
先端からは蜜が溢れていて鉄朗の手を濡らした。それを掬いとって脚を広げさせ蕾に挿入した。
「んっ!ああ…ああっ!」
「きついか?」
「だい…じょう…ぶ…」
そこは経験の差で、緑の身体は男を受け入れるのに慣らされていた。
鉄朗はすこし嫉妬を覚えた。 この身体を他の人間の触ったと思うとふつふつと怒りが沸いてくるが、そんな事を緑に言うと傷つく事はわかっている。だからあえて言わないが、怒りは収まらない。
「緑…愛してる。もう誰にも触れさせない」
「あぁあっ…テツ…俺も…。俺も…愛してる…」
必死に縋り付いてくる緑がかわいかった。上体を起こして荒い息を吐く唇にキスをして、汗を拭ってやる。
再び視線を蕾に戻し、解しにかかる。指を二本に増やし、緑のものを扱いてやりながら入れる。決してイカせない程度に刺激を与えられ、緑はもどかしかった。
「ああ…テツ…イカ……せて…お願い…」
「もう少し待って」
「やぁっ…ああ…あっ…」
三本目を挿入し、掻きまわすように指を蠢かした。
「はっ…ああ…っ…ああっ…」
「痛いか?」
首を横に振り、キスをねだる。それに応えて深く口付ける。舌を絡めとって吸い上げながら指を動かし犯した。
緑の顔は快感で満たされている表情だった。そろそろいいだろうと緑の中を動き回っていた指を引き抜き、慣らされヒクついている蕾に押し当てゆっくり侵入した。
「あぁあぁっ!あぁ……ああっ」
緑は鉄朗の首にしがみ付き挿入される衝撃に堪えた。腰を掴まれ逃げられないように固定され、繋ぎとめられる。
深く挿れられ、苦しさに涙がこぼれた。
「テツ…テツ…」
何度も鉄朗の名前を呼び、存在を確かめるように自分から身を寄せる。
「ここにちゃんといるよ…」
そう言って突き上げる。
緑は中で脈打つ鉄朗自身を感じ、離さないように締め付けた。
「くっ!ちょっと…きつい…。緩めて、りょ…く」
頬を撫でて、唇を寄せ激しく舌を絡ませる。
「ああ…はぁ…あっ!」
僅かな動きにも敏感に感じてしまい、絶え間なく喘ぎ声が洩れた。
鉄朗の手の中にある緑はすでに切羽詰って今にも達ってしまいそうだった。扱く手を速めてやるとすぐに白い欲望が放たれた。
「はぁ…ああ…やぁ…」
後ろ犯されながら快感を求めて緑の腰も鉄朗と一緒に動く。何度も突き上げられ叫びに似た声をあげた。
鉄朗もそろそろ限界が近づいてきたのを感じ、抽送を激しくする。身体の間に挟まれた緑の再び勃ち上がっているものも追い立てる。
「あっ…あっ…あぁっんん」
「緑…」
「テツ…ああ…だ…め…」
「俺ももうダメ…」
よりいっそう深く繋ぎ止め、緑の中に熱い飛沫を叩きつけた。緑も鉄朗の手の中で二回目の解放を迎えた。

お互いに呼吸が整うまで手を握っていた。
「愛してる…緑。愛してる…」
呼吸が整うと鉄朗に抱き寄せられ腕の中に抱え込まれる。触れた鉄朗の胸から早い鼓動が聞こえてきた。
「テツ、鼓動が早いよ?」
「そりゃ緑といると緊張するから」
汗に濡れた髪を優しく撫でなから甘く囁く。
「もう、我慢なんかしなくていいからね。いつだってこうして抱いてくれればいい。テツが望むなら毎日だっていいよ」
うれしいことを言ってくれる恋人に口付け、甘く優しい時間を二人でで過ごした。
「ずっとこうして抱き合っていよう。寂しくなったらいつでも俺の腕の中に来ればいい。絶対に抱き留めるから。独りにさせないから」
「うん…」
緑は零れ落ちた涙を隠すように暖かい胸に飛び込んだ。
「俺とこれから恋愛していこう」


*** END ***

 

さて、この話には、後日談といいましょうか「おまけ話」がございます。
お約束の隠しファイルでございます。(^^)
読みたい方は、さがしてねぇん(・。-)/ウッフン
ヒント:在ると思ったら大間違い!ないよぉ〜んヽ(^ー^)ノ
   分からない人は、BBSかメールにて質問してね