The Water is Wide

Karla Bonof

The Water is Wide

1970年代の終わり頃、ちょっとおしゃれな雰囲気の女性歌手に注目が集まったことがあった。それまでのポップシーンを牽引してきたロックやフォークソングといったものが力を失い、いろいろな意味で若者の文化が停滞感を強くしていた時代だった。

レコード会社がカーラ・ボノフを売り出したのも、そのような流れに沿ったものであることは明らかだった。当時のジャケット写真を見ると、いかにもそんな感じの素敵な姿が写っているが、その音楽とは何か違和感を抱かせるところがあったのを記憶している

ヒット曲となった "Someone to lay down besides me" や "Restless night" は、都会に暮らす若い女性の心情、恋と孤独と不安、そんな心の中の葛藤を、巧みな編曲の印象的な旋律に乗せて歌った曲だった。

しかし、カーラが歌ったのはそれだけではない。カントリー調の曲を歌うときのカーラの、なんと活き活きとして楽しそうなことか。そして、あの "Restless night"でさえも、編曲の下に隠れている旋律に注意深く耳を傾けると、そこには紛れもなくカントリーの音階がある。

カントリーの起源をたどれば、遠くアイルランドの痩せた土地を離れ、新天地へと旅立った人びとの故郷の歌がある。そして、それは遥か、ケルト民族の音楽にまでさかのぼる。それこそが、カーラの音楽に、どこか翳りのようなものと、懐かしいような響きをおびさせているのだ。

そんなカーラが伸びやかな声で哀愁をこめて歌ったのが、アイルランドのトラディショナル "The Water is Wide" だ。シンプルな歌詞と美しい旋律を、陰影の深い声で切々と歌う。間奏のバグパイプの演奏も懐かしくやるせない。これこそがカーラの音楽のルーツをなによりも物語っている。


The Water is Wide

The water is wide, I can't cross o'er
And neither have I wings to fly
Give me a boat that can carry two
And both shall row, my love and I

流れは広く、渡るすべもない
空を飛ぶ翼もない
ふたりを運ぶ舟があったなら
愛する人と私、ふたりで漕ぐ舟が

Oh love is gentle and love is kind
The sweetest flower when first it's new
But love grows old and waxes cold and fades away
Like morning dew

恋はやさしく、あたたかなもの
芽生えたばかりのときは、このうえもなく甘美な花
でも 恋はさめるもの、蝋が冷えかたまるように
朝露が消えるように

There is a ship and she sails the sea
She's loaded deep as deep can be
But not as deep as the love I'm in
I know not how I sink or swim

海をゆく船があって
その船は吃水深く荷を積んでいる
でも 私の愛ほどには深くはない
沈んでしまうのか、水面(みなも)にいられるのか、私にはわからない

The water is wide, I can't cross o'er
And neither have I wings to fly
Give me a boat that can carry two
And both shall row, my love and I
And both shall row, my love and I

流れは広く、渡るすべもない
空を飛ぶ翼もない
ふたりを運ぶ舟があったなら
愛する人と私、ふたりで漕ぐ舟が
愛する人と私、ふたりで漕ぐ舟が

注1) 沈んでしまうのか、水面(みなも)にいられるのか  "sink or swim"は、いちかばちか、運にまかせて、という意味の成句。ここでは「海をゆく船」と明示されているのでこのように訳した。

The Water is Wide Traditional/Karla Bonof
訳詩 庄野 健

AUG/2013