パルティータ

パルティータ第1番  BWV.825

パルティータ第2番  BWV.826

パルティータ第4番  BWV.828

パルティータ第6番  BWV.830

グレン・グールド 1957年から1963年にかけての演奏

 バッハの鍵盤曲を現代のピアノで弾く人はほんとうに稀になってしまった。確かに古楽器の音には興味深いものはあるけれど、 私が好むバッハは、すべてピアノによる演奏だ。リヒテルの平均律、グールドの弾くフランス組曲にパルティータ、それからリパッティが残した小品たち。

 以前、私鉄の駅で一枚五百円だの千円でCDを売っていることが良くあった。そういうのはたいてい著作権の切れたLPからコピーしたものらしいが、古い演奏を聞くぶんには十分な音がする。グールドのパルティータも、そうして手に入れたものだ。

 はじめて聞いたときは、軽快な音色の演奏がとても気に入った。グールドのバッハは、フランス組曲、インベンション、ゴルトベルク変奏曲など、それぞれに好んではいたが、パルティータはとりわけて耳になじんだ。踊るようなリズムがほんとうに心地よい。

 そうして繰り返し聞いているうちに、はっと耳を澄ます瞬間があることに気づいた。そして、その瞬間が聞くたびにふえていく。美しい響きが堅固な石の建造物のように浮かび上がってくるのだ。

 リヒテルの弾く平均律は巨大な音の聖堂とも言うべき音楽だが、このパルティータもまた、同じ土台の上に建つ偉大な音の建造物だったのだ。グールドの演奏は美しい彫刻に彩られているが、その丸天井を支える柱はバッハが夢みたに違いない天上への憧れに満ちている。リヒテルの演奏にシャルトルの気高い聖堂を思い起こすとすれば、グールドのそれはパリの中心部にひっそりと残るサンシャペルだろうか。

NOV/2002