インスタント…

『ぐううぅ〜っ!』

おっ、そういえば腹が減ったなぁ。何か食う物あったっけ……。とりあえず、台所の戸棚を物色して…っと。ああ、あった、あった、この前、スーパーで安売りしてたカップラーメンだ。よし、これでも食うか。

ふたを3分の1ほどめくって、お湯を注げば3分間……。
 『ぼわん!!』

うわっ、何だこりゃ!?  カップから煙が吹き出して……。げほげほ。不良品じゃねえのか。
あれっ、煙の向こう、カップから何か黒い奴が身を乗り出しているぞ。

『おめでとう、ラッキーな青年!』

「何だ、おまえ!?」

『何を隠そう、私は悪魔』

「あ、悪魔ぁ? どうして悪魔がカップラーメンから出てくるんだよ?」

『最近は、どうも悪魔の需要が少なくてね。イメージ一新、カップラーメンに潜んでの訪問セールスというか、まあ、インスタント悪魔とでもいうか……』

「なるほど。悪魔もやりにくい世の中ってわけだ」

『早速ですが、3つの願い、何にいたしましょう。ご存じだと思いますが、私があなたの願いを3つかなえる代償として、あなたの死後、私はあなたの魂をいただきます。ただ、死後の世界なんて信じてないのが現代のみなさん、どうせなら願いをかなえた方がお得だと思いますが、いかがでしょうか?』

「確かにそうだ。俺も死後の世界とか気にしてないし、死んでから魂がどうなろうと関係ないもんな。とすると、何を願うか……」

『よくあるのが、若返りと金と女なんですが、あなたはまだお若い。金と女と権力ってところでどうですか』

「金と女と権力ねぇ…。何か具体性に欠けてて魅力が乏しいなぁ」

『あのぅ、できるだけ早く決めていただきたいのですが……』

「まあ待てよ。3つしかかなわない願い、そんなにすぐ思いつくわけがないだろう」

『いや、しかし、こちらにも都合が……』

「そんなにせかすなよ。せっかく契約してやるって言ってんだから、ゆっくり考えさせろ」

『でも……』

「うるさいな、しばらく黙っててくれ!」

それで悪魔は黙ったわけだが、俺がテレビとか見ながらいろいろ考えている間もまったく口をはさまない。あんなにせかしていたくせに、いったいどうなってるんだ?

そう思ってふと見ると、悪魔はカップのお湯の中で、すっかりふやけて死んでいた。


(C) Tadashi_Takezaki 2003