13日の金曜日

ケッケッケッケッ……!

突然、とんでもない甲高い声が森に響き渡って、俺と恋人のミホはギョッとして立ちすくんだ。

すると、次に「バシャーッ」っと大きな水音を立てて、後方の湖から何かが飛び出してきた。

ケケケケケッ!

そいつはアイスホッケーのマスクで顔を覆い、片手に斧を振りかざしながら猛烈な勢いで俺達の方へ駆けてくる!

いくら突然のことであるとはいえ、この状況に危険を感じないわけがない。俺達はあわてて逃げようとした。しかし、あまりの驚きのせいか、足がもつれて思うように進まない。

アッという間に俺達に迫ったそいつは、
「問答無用!」
と、大声で叫ぶや否や、思いっきり振り上げた斧を俺の目の前でミホの頭にぶちこんだ。
ざっくりと割れたミホの頭から脳やら血やらわかんないドロドロしたものが「ブシューッ」と吹き出し、俺のシャツをまっ赤に染める。妙にあたたかいその感触!

「次は俺がやられる!」

しかし、ミホの血に染まりながら観念して動けなくなった俺をまるで無視して、そのホッケーマスクは相変わらず甲高い笑い声をあげながら、猛烈な勢いでその場を駆け抜けていった。

ケッケッケッケッ……!

あまりの恐怖に失禁して地面にへたばった俺は、なおも笑いながら走ってゆくそいつの異常な姿と、そのあまりにも不似合いな「問答無用」というセリフとの関係に、呆然としながらも思考をめぐらせていた。


(C) Tadashi_Takezaki 2003