"Tales of Matsumoto"
Another 4 Symbols : The Show Must Goes On
「全てが.....ひとつに....溶け合っていく?....」
一同は、太古の海の中でひとつに溶け合っていた。
既に『彼ら』という個の存在ではなく、ひとつの共同体として補完し合っていた。
無我の世界
誰にも邪魔されない、自分だけの世界
愛すべきZEPPの夢に、いつまでも浸っていられる
優しい世界
夢って何?
夢は、現実の終わり
じゃ、現実って何?
現実は、夢の終わり
僕は(私は)ここにいていいんだ!
おめでとう
おめでとう
一同の精神は、喜びに満ち溢れていた。
自己の完全なる肯定
その甘い誘惑に、もう少しで完全に溶けてしまう刹那.....
彼等にささやきかける声が聞こえた。
やり残したことはないの?
やり残したこと?
あなたがマニアとして、やり残したことはないの?
あのブート、買い逃した!
あのテープ、まだ手に入れてない!
ペープラのセカンドアルバム、聞いてない!
あの曲のあのフレーズ、どうやって弾いているんだろ?
ず、ずいぶんあるわね....
まだ、やり残したことが、いっぱいあったんだ
じゃ、まだこちらに来るのは早いわね
うん
さよなら
さようなら
「.......だ〜〜!!!! 危ないところだった!!!!」
オベリスクの近くに転がり落ちるように「実体化」したメンバーが、口々に叫ぶ。
「危うく全員『補完』されて、生命のスープに溶かされてしまうところでしたね」
柴田が額の汗を拭いながら、安堵の表情を見せる。
「Jimmyが秘蔵する映像をこの目で見るまで、こんなところで死んでたまるもんですか!」
そう言って、沼田女史は鋭くオベリスクを睨みつけた。
「どうして、この塔は、人々の目に触れないんでしょう?」佐々木が誰ともなしに尋ねた。
「おそらく、ここは、いつも我々が暮らしているところとは別の次元なんだろう。
謎を解いたことにより、次元の扉が一時的に開いたんだよ」
本多がもっともらしい解釈を述べる。
「異次元に浮かぶ、さまよえる塔なのね」 中村嬢が、万感のまなざしを向けた。
「祝福の塔、か。ここはZEPPマニアの理想郷でもあり、墓場でもあったんだ」
大西が感慨を込めてつぶやく。
「墓場に来るには、まだ早いっつーの」Yasが、にべもなく言う。
「また、霧が出てきました!」ズッキーが不安げに叫ぶ。
「時空の扉が閉まり始めたんだ。すぐに、ここを離れよう!」本多が一同を見回す。
「どうやって? また迷ってしまいますよ!!!」青柳がパニックになって叫ぶ。
「あの牛がいるじゃない! あれについていきましょう」
木村女史の言葉に一同は従った。
どのくらい歩いたであろうか。
気が付くと、一同はふもとの山道に出ていた。駐車場は目と鼻の先である。
牛は一声満足そうに鳴くと、再び霧の中に消えていった。
「ありがと〜〜、こってウシく〜〜ん!!!」
青柳が、牛の後ろ姿に大きく手を振る。
「ちゃんと、原子心母くんと呼ばんか!不敬な!」本多が厳しく叱咤する。
「不思議な体験でしたね....」柴田が感慨深げに、そう言った。
「他の人達に言っても、たぶん信じてくれないでしょうね」
中村嬢が、残念そうな口ぶりで続ける。
「いや、あれは聖地であり、一般のファンの目に触れてはいけない場所なんだ。
全ては我々、マニアの心の中にある。今はそれで良い....」
「良くわかんないけど、ま、いいでしょ」本多の意味不明なセリフに、沼田女史が肩をすくめる。
「じゃ、帰りましょうか、皆さん。ボクが美味しいランチの店を知ってますから!」
「どの口が言うんじゃ〜〜!!!」
Epilogue
「....何か、聞こえた気がするんですが」駐車場に向かう道で、佐々木が後ろを振り返った。
「ああ、アコースティック・ギターの調べのような...」大西が目を細めて言う。
「気のせい、ってことにしときましょ。疲れますから...」本多が面倒臭そうに言った。
大団円
−−− 終劇 −−−
BGM: The Rain Song (From Album "Houses of The Holy")
SPECIAL THANKS TO MEMBERS OF JAPAN ZEPP FESTA IN MATSUMOTO '97.
FOR THE MEMORY OF OUR DREAM-NIGHT IN THE SUMMER. THE SHOW MUST GOES ON.
第4章注釈へ
松本トップページに戻る