"Tales of Matsumoto"

Symbol-4 : The End of Matsumoto



「よし、そこに行ってみよう!」本多が一同を見回した。

 翌朝、簡単な朝食を済ませた一行は、コテージをそそくさと後にした。  目指すは昨夜「謎の光球」が消えた場所、ズッキーの言うところの展望台である。    山道を30分も走った後、先導するズッキーの車が停まったのは、山を切り開いて作った駐車場で  あった。 「ここが展望台なの?」ワーゲンから降りてきた木村女史が尋ねる。 「いえ、ここは展望台の入り口です。ここから先は徒歩になります」 「え〜!!!!」  ズッキーの答えに、決して若くはない大部分のメンバーがブーイングを発した。

「....しかし、誰もいないね。ここ、観光スポットじゃないの?」  既に息を切らし始めた大西である。 「以前は結構人が来ていたんですが、反対側に美術館や遊園地ができて、すっかりさびれてしまっ  たんですよ。僕も小学生の時に一度来たきりです」ズッキーが答える。

「ね〜、いつになったら展望台に着くの〜!!??」沼田女史が音を上げる。 「歩き始めて、もう30分は経つんですけど....」佐々木が額の汗をぬぐった。 「おかしいな〜?確か、10分も歩けば着くハズなんですけど」


「霧が出てきた....」 「おかしいよ、ズッキー!もう1時間は歩いてるよ!」中村嬢がついに激怒した。 「これは、ありていに言って、道に迷ってしまったのではないでしょうか?」  柴田の冷静な分析に、一同はぞっとした。 「....そういうことになりますね」  こともなげに答えるズッキーをYasが羽交い締めにし、青柳が首を締めた「どの口が言うんじゃ〜〜!!!」 「まぁまぁ、二人とも大人げない。ズッキーも久しぶりなんですから仕方ありませんよ。  確実なところで、今来た道を戻りましょう」  本多が寛大な発言をした。

「何か、全然見たことの無い道を歩いているような気が....」佐々木が不安気に言った。 「俺もそう思う」大西が答える。 「きさま〜〜!!!」 「本多さん、大人げないですよ」ズッキーの襟首をつかむ本多を、一同が制した。

 霧はますます深くなり、数メートル先ですら見えなくなってしまった。 「みんな!はぐれないよう、お互いに手をつなぎましょう!」  木村女史の言葉に、一行はそれぞれ、近くにいるメンバーの手を握った。 「ぐにっ!」青柳が手を伸ばした先には、不思議な感触のモノがあった。  
「???」
 青柳は妙に毛深いそのモノを強く握った。その瞬間、思いがけない泣き声が響き渡った。


「ンモ〜〜〜〜!!!!!」

「どわわわッ!!??」
「どしたどした!」 「な〜んだ、じゃん。青柳さん、尻尾を放してあげなよ」大西があきれて言った。 「何でまた、こんな所に」沼田女史がいぶかしげに眺める。  白地に黒いぶちのある、いかにも牛!というような立派な牛が、尻を向けて首だけで振り返って  一同を見ていた。
「なんか、こんな情景を見たことありません?」柴田が突然言い出した。 「私も、さっきからそう思ってたんですよ。何だっけ?」佐々木も首を傾げた。 「思い出した!」柴田が目を輝かせた。 「ピンク・フロイドですよ!そうそう!  牛の写真が、アルバムジャケットに使われているのがあったじゃないですか」 「ああ、『アトム・ハート・マザー』ね。懐かしいなぁ」大西が遠い目をして答えた。 「それだ!!!」Yasが大声で叫んだ。 「あのアルバムの邦題は『原子心母』! 例の写真の言葉だよ!」 「おお!!!」一同がどよめく。 「この牛こそ、聖跡に至る最後の鍵なんじゃないか?」力説するYas。 「牛が歩き出しましたよ!」佐々木が指差した。 「よし、後について行こう!」本多が号令をかける。


 それは、とても奇妙な光景だった。  大の大人がぞろぞろと、手を繋ぎながら牛の後を歩いている。  霧はどんどん深くなり、一同はどこを歩いているのか全く分からなくなった。  先程まで見えていた足元すら見えなくなり、歩いているという現実感さえ希薄になってきた。

 以前にも、同じことがあったような?
遠い 遠い 昔 母なる国を追われ 約束の地を目指した あの頃 これは 既視感 デジャ・ヴ?

「霧が晴れてきた?」  周りを深く包んでいた霧が、徐々に薄れてきた。  やがて、霧の彼方に高くそびえたつシルエットが浮かび上がってきた。  牛は迷わずそれを目指して歩いて行く。  やがて、牛は歩みを停め、満足そうにひと泣きして一同を振り返った。 「こ、これは....」

......石の塔......


 霧の中から浮かび上がって来たのは、巨大な石の塔であった。  それは、間違いなく、ズッキーの写真に写っていた、あの塔である。

「オベリスク....実在していたのね?」 沼田女史の感嘆の声が響いた。

オベリスク

 一同は、引き寄せられるように、一歩、一歩、オベリスクに近づいて行った。 「なんて、荘厳な....」誰ともなしに声が漏れる。  手を伸ばせばオベリスクに届くその瞬間、一同は空中に投げ出されるような感覚を味わった。
「あっ!!!????」 「全てが.....ひとつに....溶け合っていく?....」

もうひとつの扉を開く