"Tales of Matsumoto 2"

Symbol-4 : Who's to Blame


「いただきま〜す」腹をすかせていた一同は、待望のカレーにようやくありついた。  期待に違うことなく洗練されたその味は、おかわりの列を作るに充分な出来栄えであった。
特製チキンカレー

  「いや〜〜うまかったなぁ」一同は洗い物を終え、リビングに戻って来た。 「腹もくちたし、そろそろ、例のビデオの方を....」青柳がおずおずと切り出す。 「いえ、まだです」ズッキーはにべもない。「ビデオの上映は零時ちょうどを予定しています」 「そうそう!次はクイズ大会です。Yasさん、お願いします」 「よっしゃ〜〜!!!」Yas師は嬉々として解答用紙(全3枚)を配り出した。  問題は大きく以下のような内容に分かれていた。
●どうでもいいことを真剣に覚えていないと分からない「重箱の隅つつきクイズ」
●人間の知覚中枢と直感力を限界点まで酷使させられる「逆回転!曲目当てクイズ」
●ブートビデオを擦り切れるまで見た者のみが知り得る「サイレント映像曲目当てクイズ」
「んなもん、わかんね〜〜!!!」  パニックに陥りつつも、一同は既にアルコールで回らなくなっていた頭をフル回転して臨んだ
偏向クイズ大会


 クイズで疲労しまくった後は、気分直しに有志でセッションに興じることとなった。  ZEPPの曲をアルバム収録順に演奏していくという、松本では既に恒例となった行事である。  前回のセッションはマーシャル大西兄貴のリードの元でそれなりに形になっていたが、今回は  小澤を失ったボストン交響楽団のように道筋の見えない適当なものであった。  それでもなんとか歩を進め、フィジカル・グラフィティまでは制覇できた。 「次回はプレゼンスからなので、みなさん練習に勤しむように」参加者にYas師が言い渡す。 「私、マンドリンを弾くのは松本に来た時だけなんです」本多がなぜか嬉しそうに答えた。 「却下です。本多さんは1日1回『限りなき戦い』をおさらいするように」 「.....そろそろリビングに戻りましょうか?」鈴木が切り出した。


「エリックさん、帰ってきてませんね.....」リビングを見渡して中村がためいきをつく。 「....っていうか、近江さん達もいなくなってますよ!」  不毛なセッションに見切りをつけ、早々にリビングに戻ったのは近江/佐々木/小見山の3人  であった。近江が持ち込んだ関西経由の危ないビデオを肴に、リビングでひとしきり盛り上  がっていたハズだったのだが.....。   「タバコでも買いに行ったんじゃないの?」本多がのんきに言う。 「でもですね、ふもとの店まで1時間はかかりますよ」鈴木が心配そうに答えた。 「喫煙者は近江さんだけですね。タバコ説は弱いんじゃないですか?」柴田はあくまで冷静である。 「とにかく、4人も行方不明なんだ。コテージの近辺を探そう」そう言って、Yas師が立ち上がった。

 コテージの外は霧が出ており、夜の闇とあいまって視界が殆ど効かない状態であった。  それでも一同ははぐれないように2人一組になって、可能な限りの捜索を始めた。

 その頃.....、  尾藤と田口女史はコテージに残り、各部屋をしらみつぶしに探していた。  行方不明になった4人の荷物は部屋に残されており、帰ってしまった形跡は無い。 「ねぇ、リビングを探そう。何か手掛かりがあるかも知れないよ」田口が提案する。  人気のないリビングは、初夏だというのに寒々しい雰囲気があった。  テーブルの上には、先程まで近江たちが飲んでいたと思われる酒のグラスが散乱している。 「近江さん達、いなくなるまでここで何をしていたんだろう?」尾藤がポツリとつぶやく。 「そりゃ....ビデオを見ていたんでしょ?デッキのところにテープが散乱してるじゃない?」  田口が散らかったビデオテープを片付けていると、テープのケースが1個だけ余ることに気  付いた。デッキのイジェクトボタンを押すと、モーター音に続いてテープがせり出して来た。 「ちょっと待って! そのビデオ、ひょっとして例のやつじゃない?」 「え?.....あ、ホントだ」  田口が手に取ると、テープの背には「取扱い注意 ぬまち」と書かれたラベルが貼られて  いた。テープは頭まで巻き戻されており、録音防止の爪は折られていない。 「もうすぐ上映会だっていうのに、どうしてみんな我慢できないのかしら?」田口があきれ顔で言う。 「マニアさんたちだからね。きっとそれまで待ちきれなかったんだろ?」  尾藤は偉そうに言ったが、そういう自分も長野からはるばるMR.JIMMYのLIVEを見に来る、  筋金入りのマニアの一人であった。 「でも、確かに早く見てみたいよね。そこらのブート屋じゃ手に入らない映像なんでしょ?」 「沼田さんのお墨付きだからね。かなりレアな内容なんじゃないの?」尾藤は腕組みをする。 「きっとJimmyが●○して、Robertが△▲して、それに桜井さんが■□してて....」 「桜井さんはどうか知らないけど.....、ちょっと見てみようか?」 「え〜〜!!みんなが探しに行ってるっていうのに〜〜?......ちょっとだけね!」  田口はすばやくテープをデッキに入れ、テレビの電源をONにした。


「結局、何の手掛かりもありませんでしたね」コテージに戻るなり、鈴木がため息をついた。 「とりあえず朝まで待って、それでも戻らなかったら警察に捜索願いを出しましょう」  玄関で靴を脱ぎながら、本多が発言した。面倒な事は先送りにする性格である。 「....警察には、すぐに連絡した方がいいかも知れませんよ」  先に戻っていた柴田が、リビングから出てきて一同を迎えた。顔が真っ青である。 「どうしたの?柴ちゃん?」Yas師が気遣って声をかける。 「....居残り組の田口さんと尾藤さんに、何かあったみたいなんです」 「そりゃ大人の二人だったら、何かあっても仕方ないだろう!!全く、不謹慎な!!!」  なぜか憤慨した青柳は、ずかずかとリビングに入って行った。  やがて、ドアの向こうで青柳の悲鳴が聞こえた。

 リビングに駆け込むなり、一同は凍り付いてしまった。  床は、鮮血で真っ赤に染まっていた。  青柳は腰を抜かして床にへたりこんでいる。 「田口さんも尾藤さんも、コテージの中にはいませんでした」柴田は言葉を濁す。 「あの、コテージの電話が通じません!」受話器を持ちながら、鈴木が泣き顔で訴える。 「携帯はこんな山奥じゃ通じないし.....この霧じゃふもとまで降りるのも危険だし....」  中村が深いため息をついた。
 消えてしまった エリック、近江、佐々木、小見山、尾藤、田口。  残りはYas、本多、鈴木、中村、柴田、青柳。 そして、我々はコテージに閉じこめられてしまった.....



続劇

松本物語II 第5話に続く