"Tales of Matsumoto"
Symbol-2 : Roll Up to the Physical Mystery Tour
「僕の住む松本には、どうやらZEPPの聖跡があるらしいんですよ...」
「え、聖跡桜ケ丘?」とりあえずボケる本多。
「そーじゃありません」ズッキー鈴木は、視線も合わせずキッパリと否定した。
「このオベリスク、松本にあるのね?」的確な突っ込みをする沼田女史。
「生前、祖父がそう言ってたそうです。ただ、場所は詳しく教えてくれなかったそうで」
「松本ったって広いですから、簡単には探せないでしょう?」柴田はあくまで冷静である。
「何か、手掛かりはないの?」相変らず、ズッキーには強い調子で詰問する中村嬢。
「この写真の裏に、祖父の書き込みがあるんです」
そう言って、ズッキーは写真を裏返した。写真の隅に、確かに小さく書き込みがある。
「インクが退色してて、よく読めないですね」MAKIが眉をひそめる。
「いや、なんとか読めそうだ、なになに....」
Yasが写真を手にし、ゆっくりと文字を読み上げた。
選ばれし拾人の使徒よ、聖なる館に集へ
第参の教典を星辰に捧げ、
ホーリーチャイルドに心を許さず、
原子心母の導きにより、祝福の塔に至る
「....なんだか、ワケが分からんな。じーさん、イっちゃってるんじゃないの?」
田中は、先程鑑賞してたビデオでのJimmyの姿が頭にこびりついていたらしい。
首カックンでドラム台に座り込むJimmy....、沸き上がるマニアさん達....あきれる桜井....。
「つまり『聖なる館に10人で泊まれ』ってことでしょ?その後はよく分かんないけど」と沼田女史。
「でも『聖なる館』はドコにあるんですか〜?それが分かんないとダメですね〜〜ズッキーさ〜ん」
ラムコークを飲んでいたEricが、ようやく話に加わる。
「それがですね、実は心当たりがあるんですよ」
「え”!!!!」ズッキーの発言に、全員が声を揃えた。
「最近、私の知り合いが、松本のコテージに泊まったそうなんですが...。
そのコテージが『聖なる館』と、昔から呼ばれていたらしいんですよ」
「あ、来た来た」セカンド青柳が声を上げる。1997年7月21日月曜日、空は快晴であった。
談合坂のサービスエリアで、集合時間より1時間も前に到着していたのは、青柳が運転する
東京組の3人であった。Marshall大西と本多は、暑さのためにパラソルの下で脱水状態だった。
柴田はPage/PlantのハデなツアーTシャツ姿で、100m先からでもその存在を確認できた。
その後ろにいるのは、千葉組運転担当のビート佐々木であった。
「どーも、みなさん!あれ?御疲れの様子ですね」柴田が東京組を見ながら言う。
「...とりあえず、名物の巨峰ソフト食ったらどーですか?」本多が弱々しく声をかける。
「なんというか....変わった味ですね....」グルメの柴田が顔をしかめる。
「そーですかー?結構ウマイですよ!こう、舌を刺すような...」佐々木が陽気に答える。
「それは、マズイってことじゃないの?」大西が目をショボつかせつつ、突っ込んだ。
左より:佐々木/柴田
八王子組のワーゲンが到着したのは、集合時間を5分程過ぎた頃であった。
「いや〜、Yasさんが余裕かましてたもんで」運転担当のイズミー木村女史の第1声。
「間に合ったから、いーじゃん(笑)」Yasは反省の色がない。
「あれ、沼田さんと中村さんは?」青柳が尋ねる。
「なんか、いきなり巨峰ソフト買いに行ったみたい」木村女史はあきれ顔である。
「で、とりあえず、全員揃ったワケで。皆さん御苦労様でした」
本多が一同を見回した。雑用係その1という、いつもの役どころだ。
終結したメンバーは9名。平日に休むという芸当が可能という意味で、『選ばれた』
メンバーと言えよう。あと1名、ズッキーは松本で合流する予定である。
「これから我々は、聖跡を求めて、長野県松本市を目指します。
何が我々を待ち受けているか、誰にも分かりません。で、皆さんを災いから御守りするための
護符をお配りします」
そう言って、パスケースに入れた怪しげなカードを全員に配布した。紐が付いていて、首から
下げられるようになっている。一同はいぶかしがりながらも、それを身に付けた。
「これは、今回の旅程を無事に過ごすために、沼田工房で10枚だけ製作して頂いたものです。
皆さんの安全を願って、特別に念を込めてあります」
「念、ですか?」中村嬢は疑わしい顔つきである。
「Robert GodwinとDave Lewis、そしてLuis Reyの念ですね。これは御利益あります。
で、今この瞬間から、護符を旅程中に体から外したヒトには天罰が下ります」
「天罰って、何ですか?」手を上げて、おずおずと佐々木が質問する。
「ありていに言えば、罰金1000円ですね。徴収したお金は、夜の宴会の酒代にします」
それは単なる人災では....という疑問を胸に秘めたまま、一同は車に再び乗り込んだ。
「青柳さん、どーしました?」
助手席の本多が青柳の異変に気づいたのは、談合坂を出て30分も経った頃であった。
顔面は蒼白であり、ハンドルを持つ手が小刻みに震えていた。
(ついに始まったか....第一の試練だな....)
本多は後部座席の大西の方を振り返った。大西もVAN HALENのCDをケースにしまいながら、
大きくうなずいた。
(ドライバーを襲って来るとは、ね。やはり、簡単には聖跡に辿り着けない、ということか)
本多は護符を押し抱くようにして、青柳の様子を見守った。震えは、既に全身に及んでいた。
「....ちょっと、寄り道して良いですか?」
青柳はそれだけ言うと、有無を言わさず次のサービスエリアに突入して行った。
タイヤをきしませながら急ブレーキをかけると、青柳はドアを蹴破るように開け、一目散に
シビックから飛び出して行った。彼になぎ倒される、女や子ども達の悲鳴が聞こえる。
「は〜、間に合った....」10分後、さっぱりした顔で戻って来た青柳。
「ちょっと緊張しちゃって。いきなり腹具合が悪くなっちゃいました。あはは...」
「どーしたの?東京組。ずいぶん遅かったじゃない!」木村女史がウィンドウ越しに叫んでいる。
松本の集合場所である駐車場には、既に八王子組、千葉組が到着していた。
「ちょっとね、アクシデントがありまして」シビックを降りながら、薄笑いを浮かべる本多/大西。
「なんか、青柳さんの顔がハレてるけど、どっか転んだの?鼻血出てるよ」中村嬢が心配そうに尋ねる。
「いえ、何でもありません。僕が悪いんです....」青柳はみんなと目を合わせようとしなかった。
「ところで、ズッキーは?姿が見えないようだけど?」本多が周りを見回す。
「それが、まだ来てないの。ずいぶん前に家を出たらしいんだけど」沼田女史が首を傾げる。
集合時間から既に30分が過ぎ、さすがに一行に不安の表情が走る。
「ズッキーさんが来ないと、コテージの場所がわかんないですよね。困ったなぁ」柴田がぼやく。
その言葉を聞いて、一行は顔を見合わせた。
(ズッキー消失?....これも、仕組まれた罠のひとつなのか?)
続劇
[次回予告]
聖なる館を目指す、選ばれし使徒達
彼らの前に立ちふさがる、謎のホーリーチャイルド
第三の教典が、松本の夜空に響き渡る時、
Yasが泥酔し、沼田女史が踊る!
最後のカレーを食べたのは?
次回、"Houses of the Holy Glory Night"をお楽しみに!
第3話に続く