青海島の王子山から仙崎の町をのぞむ
明治36年、金子みすゞは山口県大津郡仙崎村(今の長門市)に生まれた。大正末期、すぐれた作品を
発表し、西条八十に 「若き童謡詩人の中の巨星」 とまで称賛されながら、26歳の若さでこの世を去った。
没後、その作品は散逸し、幻の童謡詩人と語り継がれるばかりとなったが、1921年、童謡詩人・矢崎節夫
氏の長年の努力により遺稿集が見つかり、甦りをはじめた。
仙崎はみすゞという美しい響の名前の童謡詩人が生まれ育った町だ。みすゞは、波の音、潮の香り、風
のそよぎ、星のきらめきなど ・・・・・・ そのひとつひとつを深いまなざしでみつめ、やさしい言葉でつなぎ
あわせている。みすゞの残した512編の詩は、まさに感性の宝庫だ。それはこころのふるさとのように、
私たちをやすらぎの世界に誘ってくれる。みすゞの詩を産みだした仙崎の心地よい風に吹かれてみま
せんか。みすゞには青海島の王子山から仙崎をうたった詩があります。みすゞが住んでいた頃にはまだ
橋はなく、青海島へ渡る船が出ていた。王子山からみすゞの目に映った 仙崎の町 は、銀の海に浮ぶ
竜宮のようだったに違いないだろう。昼間の星を見る目と花の声を聞く耳を持ち、深く澄んだ詩をうたっ
たみすゞは生まれ育ったこの町を何より愛した。ちひろが曲をつけ、歌っている 「王子山」 は温かく、
懐かしく、いつまでも人々のこころに広がり続けるだろう。
〜 王子山 〜
公園になるので植えられた 桜はみんな枯れたけど
伐(き)られた雑木の切株にゃ みんな芽が出た 芽が伸びた
木の間に光る銀の海
わたしの町はそのなかに 竜宮みたいに浮んでる
銀の瓦と石垣と 夢のようにも霞んでる
王子山から町見れば わたしは町が好きになる
干鰮(ほしか)のにおいもここへは来ない
わかい芽立ちの香(か)がするばかり
木の間に光る銀の海
わたしの町はそのなかに 竜宮みたいに浮んでる
木の間に光る銀の海
わたしの町はそのなかに 竜宮みたいに浮んでる
銀の瓦と石垣と 夢のようにも霞んでる
ー 詩・金子みすゞ 曲・ちひろ ー