【歯周病診断とメインテナンスに必要な細菌学的検査】
歯周病の診断ににおいては
1)歯肉の炎症
2)結合組織の破壊の程度
3)歯肉溝滲出液量とその成分
4)宿主の応答
5)歯周局所の細菌学的検索
これらが必要であると強調されている。とくに歯周局所細菌叢の検討によって下記の事項を知ることが出来る。
@その型の歯周病の起因菌を知ることができ、抗生物質の使用に際し有効な選択が可能となる。
A治療の必要な部位とその治療方針が決定できる。
B特定の歯周病菌の検出によってその部位の進行が予知できる。
Cメインテナンスが的確かどうかを知ることが出来る。
すなわち治療の効果を予知することが可能となる。
D患者のリコール間隔を決定することが出来る。
上記のような細菌学的検索法には、1)暗視野顕微鏡や位相差顕微鏡によるプラークの直接観察、2)プラークの酵素活性の測定、3)蛍光抗体法による特定菌の検出、4)培養法による菌の分離、同定、5)DNAプローブによる菌の同定などがある。
顕微鏡による歯周局所細菌の観察は、チェアサイドで可能な検査法であるばかりでなくモニターテレビに接続すれば患者の口腔清掃指導としても使うことが出来る。
(治癒の病理から抜粋;一部改変)
細菌構成の相対比率
グラム陽性菌 グラム陰性菌 嫌気性菌 桿菌
健康歯肉 3/4 1/4
25% 50%
歯周炎 1/3 2/3
90% 95%
歯垢細菌叢
通性レンサ球菌 27% 通性ジフテロイド 23%
嫌気性ジフテロイド 18% ペプトストレプトコッカス13%
ベイヨネラ 6% バクテロイデス 4% 紡錘菌 4%
ナイセリア 3% キャンピロバクター 2%
若い歯垢から成熟歯垢に移行するにつれ線状菌が多くなる。
レンサ球菌は成熟過程においても主体を占めるが、これにベイヨネラ、放線菌、コリネバクテリウム、紡錘菌等が増加してくる。
位相差で観察しうる歯垢内細菌
1)バクテロイデス科
a)バクテロイデス属 両端が鈍円の小桿菌
0.5〜1.0μ×1.4μ
b)フゾバクテリウム属 菌端が尖って紡錘型
多くは非運動性
c)レプトトリキア属 桿菌糸状菌状長いフィラメント形成大型
1〜1.2×5〜15μ
2)レンサ球菌 0.6〜0.8μ
3)ビブリオ 0.3〜0.6×1.0〜5.0μ
4)スピロヘータ 細長いラセン状の柔軟な形で運動性を示す。
a)トレポネーマ 短い 3〜16μ
b)ボレリア 長くゆるやか 8〜18μ
歯肉炎ではグラム陰性の嫌気性桿菌の占める割合が増える。また位相差顕微鏡によれば、活動性の高い部位ではスピロヘータや運動性菌の占める割合が高い。歯周炎の進行は一定ではなく、急速に進行する短い期間と安定した長い期間の繰り返しであるといわれている。そして急速に進行する(活動性が高い)ときには病原菌の存在以外にそれに拮抗する菌が少なかったり宿主の抵抗力が低下している事が影響している。
歯周炎の活動性に影響する因子(Scransky)
1.宿主の抵抗力
2.病原菌
3.拮抗菌
4.歯周環境
病原菌
Actinobacillus actinomycetemcomitans Aa菌
アクチノバラシス アクチノミセタムコミタンス と読みます。^^;
→若年性歯周炎、急速進行性歯周炎、成人性歯周炎
Porphylomonas gingivalis Pg菌
→急速進行性歯周炎、難治性歯周炎、成人性歯周炎
Prevotella intermedia Pi菌
→急速進行性歯周炎、急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)、
難治性歯周炎、成人性歯周炎
Spirochetes
→急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)、急速進行性歯周炎、成人性歯周炎
Bacteroides forsythus Bf菌
→難治性歯周炎、成人性歯周炎
Veilonella
→単純性歯肉炎
連鎖球菌
→単純性歯肉炎
位相差顕微鏡の歯周治療への応用
1.歯周病のタイプの診断
ポケット内の細菌を同定し疾患のタイプを分類する。
→DNAプローブ、暗視野顕微鏡、位相差顕微鏡等
2. 薬物療法への利用
→抗菌剤の選択の指標となる
3. 予防、メインテナンスへの利用
→細菌の量や種類を調べることで予防処置やメインテナンスの期間等を決定する。
【カリオロジーは日本の歯科臨床を変えるか?】
細菌学的な研究によれば、問題となるのはプラークの付着量ではなく、プラークを構成する細菌の種類=質である事が明らかになっている。
「病変のエコシステム」
1.歯肉縁上プラーク
歯面清掃後数分以内にペリクルが形成され、細菌のペリクルへの吸着によりプラークが形成される。初期には好気性菌のNeisseriaやNocardia、通性嫌気性菌のStreptococcusやActinomycesなどが大多数を占める。その後3日から5日経過すると成熟プラークとなり、Veillonella,Fusobacteriumなどの偏性嫌気性菌やSpirochetesの割合が増してくる。
2.歯肉縁下付着性プラーク
歯根表面に付着し構成する細菌叢は歯肉縁上プラークの成熟したものと同様である。石灰化することにより歯肉縁下歯石を構成する。
3.歯肉縁下非付着性プラーク
歯肉縁下の非付着性プラークにはグラム陰性桿菌(P.gingivalis,P.intermedia,forsythusなど)、Spirochetesなどが多くみられ、歯周炎の進行に大きな役割を果たしている。スケーリング、ルート・プレーニングによって嫌気性グラム陰性桿菌を効果的に減少させることができるが、12週から16週後に元の細菌叢に戻る傾向がある。定期的なメインテナンスリコールによってプラーク除去が必要である。
4.組織内部に進入した細菌
Spirochetesはその強い運動性により組織内に入り込むことができる。また、A.actinomycetemcomitans,P.gingivalisも歯周組織内に進入しているという報告がある。その場合スケーリング、ルート・プレーニングなどの機械的処置では排除できない可能性が高い。
個人のリスク診断を行った上での予防プログラムというのは、上記の「エコシステム」のコントロールに他ならない。 口腔内には健康な状態を維持するための常在菌がいるが、疾患は口腔内の細菌量が生体の許容量を超え、生体にとって害になる細菌が増えるため起こるわけである。この細菌のエコシステムのコントロールが歯科的な目標は、口腔内の常在菌叢を回復し維持できるような状態に保つことである。健康が維持できていれば、プラークが残っていても臨床的には問題にならない。生体が許容できるプラークの質と量は個人によって異なるのでわれわれは必要な検査を行って現在の状況を診断し個別のプラークコントロールプログラムを作り、指導や治療に当たるべきである。
熊谷「そうです。歯周病でいえばA.a菌とP.g.菌が臨床できちんと診断できないといけない。」
齲蝕の細菌学
齲蝕を作る菌種としてS.mutans,S.sanguis,S.salivarius,S.milleriなどがある。この中でS.mutansがもっとも効果的に齲蝕をつくる。S.mutansは1924年にClarkによりヒトの齲蝕歯から分離されたレンサ球菌である。だが、その後30年間忘れ去られていた。mutansという名前は、低いPHでは丸い球菌状から桿菌状の形態に変わる性質を持つことからつけられた。S.mutansは頬側あるいは舌側平滑面よりも、隣接面と咬合面から高頻度に検出される。
乳酸桿菌はエナメル質齲蝕の発症の原因にはならないが、発症後の齲蝕病巣で増殖し象牙質の破壊に重要な役割を果たす。
Actinomycesは歯根面齲蝕を作るが、エナメル質齲蝕の発生には関与しない。Actinomycesが歯肉縁上歯垢にごく普通に認められ、かつ歯肉縁下歯垢からも検出されることがあることから、齲蝕と歯周疾患の発症に重大な役割を果たしている。
臨床的露髄はないと判定された歯髄からも、偏性嫌気性菌が検出されることがある。
参考文献:歯周病の診断と治療のガイドライン
A.A.P.1989
JIADStext
the Quintessence vol.16 no.2
広島県歯科医師会資料
長崎県歯科医師会資料
齲蝕:その成り立ちと予防;L.M.Silverstone著
治癒の病理;第一巻歯内療法
先頭へ HomePage