連載コラム・藤子な瞬間


月刊FFMM 2000年9月号(2000/08/29発行)より




▼その1「未来ドロボウ」

 現実の出来事や日常生活の中でふと「こんな場面がマンガにあったな」と思う事はありませんか。それが「藤子な瞬間」です。ここでは私が体験した「藤子な瞬間」を紹介していこうと思います。第一回はF先生の少年SF短編から「未来ドロボウ」です。

 私は中国人と話す機会が多くあります。先日、小渕恵三前首相が亡くなったときなど、彼の業績についての話になりました。私の評価は「私の記憶にあるここ20年の首相の中でワースト1、2を争う」です。理由は「国旗国歌法や盗聴法など、国民の人権を軽視するような法案を次々と通したこと。また、多額の国債を発行して今後に大きな負担(借金は基本的に我々の税金で返済することになる)を残したこと。その国債などで得た資金の使い道が気に食わない」などです。
 ところが、中国人は「いい首相だ」っていうんですよ。理由を聞いてみると、「中国にたくさん(資金)援助をしたから」。バラマキは国内だけじゃなかったんですね。

 この時、ふと思い出したのが「未来ドロボウ」です。私が将来(納税するという形で)返済することになる借金が、首相の現在の人気を買うために使われたような気がしたのです。「未来ドロボウ」のストーリーとは少し離れるのですが「そうか、オブチは私の未来で自分の人気(現在)を買っていたのか」と思うと、未来を盗まれたような気もするのです。
 「未来は それがあるというだけで すばらしい」と作中の人物も言っています。政治家のみなさんには、多くの人の未来を預かっているということを念頭に置いて活動して欲しいです。決して「あるだけですばらしいなら、どんな未来だっていいじゃん」などと開き直らないで下さいね。

<『未来ドロボウ』あらすじ>

 経済的理由で高校進学が困難になった少年と、成功して財をなした大脳生理学者の老人。少年は老人の金銭的に豊かな生活を、老人は少年の若さを欲し、利害が一致。二人は老人が開発した装置で体を交換することに……。

<収録>

●SF全短編3巻「征地球論」(中央公論社)
●コロコロ文庫SF短編集1巻(小学館)
●SF短編PERFECT版4巻「未来ドロボウ」(小学館・10月下旬発売予定)
●てんとう虫コミックス「少年SF短編集」1巻(小学館)

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