No.96

         再びアメリカでの正当防衛法について


前回ここでアメリカの正当防衛法のルールを記した。

中でも41州の制定法につき、そのアウトラインを紹介した。
またイギリスから来たコモンローのルール(不文法)の存在にも触れた。

今回は、そのコモンロールールがアメリカの各地で
(特に南部州などで)根を下ろすに当って、
かなり歪んだ形の根を張ってしまった事実に一言したい。

どう歪んだかというと、とりわけ
「白人の土地所有(男子)に適用されやすいルールとして根を張った…」と言うことである。

NPRは、ハーバード大の歴史学者の言を引いている。


「建国の初め頃から、開拓者
(settlers)は、
自らの土地の縄張りを争う土着人
(natives)を殺す権利を認められてきた…」

「しかし、奴隷や自由人(黒人)が、同じような正当防防衛権を有した訳ではない
…南北戦争中や、その後も、白人とその子女らの家を守るためには、
正当防衛
(stand-your-ground)のルールが用いられたが、
南部州
(Confederate States)では、そもそも、黒人に対し武器の所持を否定していた
(武器所持を基本的人権に数える憲法(修正U)の適用が否定されていた)
…多くの黒人家庭は、その後密かに武器を用意し、
白人の不頼漢による襲撃などに備えた
(州や町村当局(白人)は、そんな時に、黒人を守ってくれなかったからである)」。


こうした歴史は、20世紀の後半までも結構、尾を引いていて、
南部州を通して黒人が武器所持に馴染むようになったのは、21世紀になってからである*。

その一方でNPRは、黒人の側からする次のような懸念も伝えている。

「黒人が、殊に黒人男子が武器を所持していると、
そのこと自体が、危険を招く可能性が小さくない…」
と言うことである。

それが、アメリカ社会の今日の姿である。

*2014年のピュー調査機関の調べでは、そのような考えに同調する黒人の比率が、この2年間に2倍に増えたという。


                                 2017年3月3日