No.64
アメリカの大統領選挙制度の謎
アメリカの大統領など連邦の公職のための選挙制度については、
去る10月17日の本欄(第60回)でも手短な紹介をしたが、大統領選挙制度が中々判り辛い。
アメリカ人自身がそう言っている。と言うのも、合衆国憲法は、
大統領選挙を選挙人(Electors)による選挙として、
一種の間接選挙制として、定めているからだ(U,1)。
現在、50州とワシントンD.C.とに割り当てられた選挙人の数は538で、
選挙を制するには、270人の選挙人を獲得する必要がある。
この選挙人を選ぶのが、人民、一般の有権者である。
そこで、候補毎に選挙人の数(electoral voter)と、一般の有権者の得票数(popular votes)という、
2つの係数が得られる。
また、後者の得票数で相手を上回った候補が、
前者の数で270人に達しなければ、「大統領に当選した」、と言うことにならない。
たとえば、2000年の選挙では、民主党のゴア(Al Gore)候補が
一般の有権者の得票数でブッシュ氏(G.W. Bush)を数十万票上回っていたが、
選挙人の得票数で、270に5票不足したがために、大統領になれなかった。
つまり、決め手は「選挙人を、いかに多く獲得するか」、である
(一般の有権者の得票数は、必ずしも決め手にならない)。
しかも、メイン(Maine)州とネブラスカ(Nebraska)州およびワシントンD.C.を除いた全ての州では、
選挙人は、その州内で一般の有権者の得票数が1票でも多ければ、
その州に割り当てられた全選挙人を獲得したことになる制度になっている。
そのために上述のゴア氏のような一種の「逆転現象」が生ずることになる。
その点でNPRは、各州で選挙人をとるのに必要な
ギリギリの一般の有権者の得票数を(つまり、1票でも多く)とって
(一般の有権者の得票数の総数では、相手方に負けて)、
270人の選挙人をとって当選するには、
全国的に、一般の有権者の得票数で最低何パーセントを取ればよいかの仮定問題に対し、
試算した答えを出している(11月2日)。
答えは23%だという。
つまり23%の一般の有権者の得票数で、
最も効率よく必要な選挙人(270人)をとって、自分を大統領にすることが出来るという。
現在、新しく各州毎に何人の選挙人を割り当てるかとなったら大変な争いの問題になりうるであろうが、
これは、もう1824年以来のルールで決っている。
各州が連邦議会に出している上、下両院の議員の割当て数を足した数である。
連邦議会の上院議員を出し得るのは、州の大小に拘らず、各州2名宛と、建国以来(憲法で)決っている。
もう一方の下院議員の方は、人口比例である。
現在、一番小さい7州が各1名宛の下院議員を出せているから、
それらの州の選挙人は3名である。
一方、最大人口のカリフォルニアは、下院議員数が53で、選挙人数は55となる。
このほかに、1961年の憲法(修正]]V)により、
ワシントンD.C.に3名の選挙人が割り当てられたから、
現在の選挙人の総数は、初めに記したとおり538である
(メイン州とネブラスカ州が、この1票でも多ければ、
全てとれるというルールを採用していないことは上記の通り)。
この世界に例のない選挙人制度の方式に対しては、
NPRも「何世代にもわたって非難されてきた…」と述べている(11月6日)。
当時は、
「国の代表として、1人で皆を引張って行く人だから、
一般人が直接選べる、決められる、ってことになったら、とんでもないケースが起こりうる…」
として、こうした選挙人(多くが、現知事や元知事、各種議員など)を通した
間接選挙制にしたが、「今や、そんな考えは、時代遅れ(anachronistic)…」と言っている。
しかも、制度的な問題として、上記の一般の有権者の得票数を48.4%取っているゴア氏が、
47.9%(50万票少なく)しか取っていないブッシュ氏に負けた2000年のように、
「民意反映度の正確さ」という点で問題がある。
加えて、各州毎に独立した勝負を足して行く、50の異なる土俵がある訳で、
しかも、一方に従来実績により青か赤かはっきりしている州がある中で、
候補者や選挙参謀らは、いわゆる「揺れる州」(swing state)に
初めから人、金を集中して投下することになる。
現に、青と決っているカリフォルニア州や、ニューヨーク州などでの遊説は
「手抜き」状態になりがちとなる(人口、その他から、重要性は高いのに)。
反面、フロリダ、オハイオ、ペンシルヴァニア、ノース・カロライナなどに力が入ることになる
(それらの州民は、他所よりも、より頻繁に候補者の姿を見、声を聴くことにになる)。
これで「一票の価値は平等!」などと言っていられるのか。
もう1つNPRが指摘するこの制度の問題点は、
例えば一番最近では1988年にあったような、不誠実な選挙人に対し打つ手がないということだ*。
*そこでは、ある選挙人が、「民主党のDukakis候補に入れる」としていたのに、
別の人に投票してしまったというものである(11月6日、NPR)。
2016年11月9日