●ハード・ロックのこの1曲・《スィート・フリーダム》

ユーライア・ヒープがその黄金期に所属していたレコード会社のブロンズ・レーベルに残
したオリジナル・アルバム全16タイトルの紙ジャケットCDリイシューが、今月26日発売
分で完了した。ユーライア・ヒープは、1970年代に人気のあったブリティッシュ・ハード
・ロック・バンドである。以前に簡単な紹介を書いたので再びここではふれないが、かつ
てはディープ・パープル、ブラック・サバスと共に、3大ブリティッシュ・ハード・ロッ
ク・バンドと称されるほど人気のあったバンドだ。ハード・ロック〜ヘヴィー・メタルへ
と連なる系譜においては、間違いなくルーツにあたる音楽をやっていたバンドの一つであ
る。ひょっとしたら、クィーンあたりにも大きな影響を与えたのではとも思える。そのく
らい成功したバンドであるが、現在では、人気の点でも、ロック史における重要度の点で
も、ディープ・パープルとブラック・サバスに大きく差がつけられた感のあるバンドだ。

そんなヒープであるだけに、今回のCDのリイシューで一時的にせよ光があたっているこ
とは、長年に渡ってヒープを愛聴してきたぼくにとっては嬉しいかぎりなのだ。特集を組
んだ音楽専門誌も発売されている(ストレンジ・デイズ9月号)。これでヒープの再ブー
ムでも到来して、多くのロック・ファンならびに一般の音楽ファンがヒープの残した素場
らしいサウンドの再発見をしてくれればこんなに嬉しいことはない。ヒープの今回のCD
リイシューに関するいろいろな記事を読んでみても、『ルック・アット・ユア・セルフ(
邦題:対自核)』、『ザ・マジシャンズ・バースディ(邦題:魔の饗宴)』、以前に紹介
した『デーモンズ・アンド・ウィザーズ(邦題:悪魔と魔法使い)』などの有名どころの
アルバムは、概ね高い評価を受けるようになってきたようだ。しかし、喜んでばかりもい
られない。まだまだ言わねばならないことはあるのだ。

『スィート・フリーダム』を聴きやがれ!(おっと興奮してしまいました)。そう、ヴォ
ーカルのデヴィッド・バイロン、ギターのミック・ボックス、キーボードとギターのケン
・ヘンズレー、ベースのゲイリー・セイン、ドラムスのリー・カースレイクの黄金時代の
5人によるヒープ7作目のアルバムである。この5人によるアルバムは、5枚しか残され
ていないが、このアルバムの評価はいまだに高いものではないのだ。確かに『魔の饗宴』
などに感じられたコンセプト性は、このアルバムにはない。このアルバム以前は”悪魔”
が売りだったヒープであったが、ジャケットはアメリカン・バンドのように明るい印象で
ある。そのため、それまでのヒープのファンにさえそっぽを向かれたという伝説さえ残っ
ている。しかしこのアルバムは、黄金時代の5人によるヒープの魅力がストレートに現れ
た魅力的なアルバムなのである。

その魅力とは、アメリカン・ハード・ロックのような爽快なグルーヴ感なのである。この
点がそれまでのヒープのイメージを裏切ることになり、一部のファンから不評を買う要因
となったらしい。彼等はこのアルバムの発売と前後してアメリカでの販売元を変更してい
るので、もしかするとアメリカ市場を強く意識したサウンド創りをしたのかもしれない。
しかし、もともとヒープの音楽にはポップな面があった。そのポップな面は、このアルバ
ムではさらに吹っ切れている。その点が爽快さを感じさせるのである。『スィート・フリ
ーダム』に収録された楽曲は、それまでのヒープの音楽を主導してきたケン・ヘンズレー
だけではなくメンバー全員がクレジットされている。メンバー全員が曲作りにかかわった
ことにより、各メンバーのアルバム制作に対するモチベーションはあがっていたはずだ。
それが、演奏に爽快なグルーヴ感をもたらしたと見るのは間違ってはいないであろう。

ジミ・ヘン晩年のファンキーなロックを思わせる1曲目の《ドリーマー》から、爽快感は
全開だ。バイロンの個性的なヴォーカルが印象的である。静かなサウンドから一気に盛り
上げる《略奪》も秀逸だ。しかし、なんといっても表題曲の《スィート・フリーダム》で
ある。ヘンズレーの荘厳なオルガンから次第に盛り上がってバイロンのヴォーカルに入り
、そのヴォーカルを追いかけるように”歌う”セインのベース・ラインのカッコよさ。そ
れをバック・アップするボックスのギターとヘンズレーのオルガンの響き。5人でロック
するグルーヴ感。しかし曲調には、ヘンズレーならではのヨーロッパ調なメランコリーが
漂っている。ああ、これこそがヒープ・サウンド。曲単位で言うと、この曲がぼくのヒー
プのベストなのだ。こういう曲があるので、ディープ・パープルではなくヒープなのであ
る。そしてヒープのベストということは、ハード・ロックのベストということなのだ。

『 Sweet Freedom 』( Uriah Heep )
cover

1.Dreamer, 2.Stealin', 3.One Day, 4.Sweet Freedom,
5.If I Had the Time, 6.Seven Stars, 7.Circus, 8.Pilgrim  

+ bonus track
9.Sunshine, 10.Seven Stars [Extended Version], 
11.Pilgrim [Extended Version], 12.If I Had the Time [Demo Version],
13.Sweet Freedom [Alternative Live Version], 
14.Stealin' [Alternative Live Version]

DAVID BYRON(vo), MICK BOX(g), KEN HENSLEY(key,g,vo), 
GARY THAIN(elb), LEE KERSLAKE(ds,per,vo), 

Produced : Garry Bron
Recorded : June-July, 1973 Chateau d'Herouville, France
Label    : Bronze
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