2003年11月 6日
長野県知事
田 中 康 夫  殿
長野県自然保護連盟
          会長 町 田  和 信


           長野県の自然保護についての要請書

 長野県は、日本の屋根として厳しくも美しい山岳を核として成立している。多くの県民
はこの豊かで美しい県土を誇りに思い、かつその豊かな水土での農林業を生活の基盤とし
ている。私たちは今後とも自然豊かなこの美しい大地を基盤として生活し、それらを損な
わない形で豊かな文化を育んでいきたい。自然破壊の「開発」により、破壊された山河を
緑の森に還し、心豊かなゆとりある社会と生活を取り戻したい。今こそ、これまでの経済
優先の行政から、自然と共生を優先する新たな社会を創造すべき時だと考える。
 長野県自然保護連盟は、長野県の自然保護のあり方を基本的にこのように考えている。
田中知事には、こうした自然保護の観点に立たれて、以下の施策を実施していただきたく、
ここに要請(8件28項目)を申し上げる。この要請書に関連している「長野県下の自然
環境保護についての要請書」(10件49項目)を、当連盟から貴殿に提出(2000年12月25日)
したが、その後に積極的な対応策を取られていることに敬意を表する次第である。
なおこの要請書については、2003年12月 5日までに下記の事務局へ文書で回答していただきたい。

             記

1.自然環境の破壊となる長野県下各地の開発に対する規制策等の強化について
 (1) 国営アルプスあづみの公園(98年10月着工)と隣接する県営烏川渓谷緑地(一部   
  着工)は、計画そのものが特徴的な信州の自然資源である安曇野の自然環境や景観を
  大きく損なうものである。同時に北アルプス奥地や安曇野周辺の乱開発の誘因ともなる
  事業である。国に対しては、計画の縮小と周辺環境や動植物に配慮した自然公園的な
  要素の国営公園にするよう働きかけをし、県営緑地も同趣旨の公園にするよう計画の
  再検討をされたい。
   県営烏川渓谷緑地公園の予定地周辺では、オオタカなど猛禽類の生息が確認されて
  いながら鳥獣保護区に一部を除いて指定されていない。県内各地でオオタカなど猛禽
  類の生息調査を実施し、鳥獣保護区のエリアを広げると同時に、巡視活動や啓蒙活動
  を徹底されたい。また、この調査結果を今後の開発に際しての事前資料として有効に
  活用されたい。
 (2) 飯綱高原、湯ノ丸高原、佐久・平尾山総合公園、霧ケ峰車山周辺、茅野市奥蓼科高
  原、同カシガリ山、飯田市・阿智村(ハナノキ)などのゴルフ場やスキー場などを中
  心としたリゾート開発等は、信州の自然環境の重大な破壊となるので、県は開発の中
  止や復元などにむけて強力な行政指導をされたい。
 (3) 上高地、乗鞍岳、美ケ原、霧ケ峰などについては、入山者の過剰利用(オーバーユ
  ース)が危惧されているので、科学的な調査に基づき総量規制などの対策を含めた自
  然環境の保護、保全が重要である。「いいやまブナの森倶楽部」のような自然と人間
  の共生にむけた地域関係者が一同に会した市民運動的な活動を助成しつつ、国や関係
  地方自治体などへ働きかけをして、自然の保護策を強化されたい。
 (4) 上高地新輸送システム(登山鉄道)構想(安曇村)については、当連盟が「上高地
  新輸送システム(登山鉄道)構想に関する調査報告書(提言)」(97年 3月)を安曇
  村や長野県、環境庁(当時)などへ提出したところであるが、この構想の中止を含め
  た総合的な環境アセスメントをまず実施するよう、県として関係機関に働きかけをさ
  れたい。
   またこの提言は、当面の緊急対策の一つとして「県道上高地公園線周辺の生態系を
  破壊している排気ガス公害をなくすため、バスやタクシーなどの総量規制や低公害車
  以外の自動車を乗り入れ禁止にする。駐停車中のアイドリングを即刻禁止にする。」
  を指摘した。この提言についても、03年 7月からマイカー規制を実施した県道乗鞍岳線と
  共に、関係機関などと連携して早急に対応されたい。
   なおこの提言と関連した課題として、国や長野県、地元旅館組合などでつくる上高
  地自動車利用適正化連絡協議会は、98年から初めて観光バスに同県道乗り入れ自粛と
  路線バス乗り換えを働きかけている。今後は更に関係機関に働きかけ、全国に広く呼
  びかけるなどして、着実にその成果をあげるようにされたい。
 (5) 八ヶ岳中信高原国定公園美ケ原高原やカヤの平、鍋倉山などにおけるスノーモービ
  ルや雪上車の走行は、これらの高原の自然環境などを破壊するので、科学的な調査・
  研究を実施してその走行を規制するための、積極的な措置をされたい。
 (6) 松くい虫の被害を防除するとして、県下でも薬剤の空中散布が強行され、毎年拡大
  実施されている。科学的で抜本的な防除方法が確立されていない現状(「松くい虫主
  犯説に異論/中根・広島大学教授」96年11月)の中で、薬剤の空中散布は人体や
  生態系への影響が危惧されるので中止されたい。
  
2.長野五輪と自然保護に関する問題点と今後の課題について
 (1) 国や長野県、白馬村などは、日本の国立公園行政や自然環境行政をただちに根本的
  に見直し、白馬八方尾根については更に綿密な環境アセスメントを行い、その中長期
  的な保護政策の確立と強化をはかり、特別地域の全面的拡大や緩衝地帯の設定などを
  されたい。当面、第1種特別地域とその周辺における圧雪車の運行を中止することや、
  八方尾根の男子滑降コースのスタート地点(1765・)設定が前例となって、ここをワ
  ールドカップや他の競技大会などで再び使用しないようにされたい。
 (2) 長野五輪バイアスロン会場予定地であった場所に白馬村内の業者が開発したゴルフ
  場は、長野五輪の理念と『美しく豊かな自然との共存』に逆行している。県と村はこ
  の用地と施設を買い取るなどして、自然保護を前提にした諸管理をされたい。
 (3) 長野五輪時に使用する道路として焼額山スキー場内に建設された県営焼額林道は、
  明らかに林業の目的をはずれている。本来自然と調和した産業であるべき林業の振興
  のためにも、自然を破壊して建設されたこの林道の自然復元をされたい。
 (4) 長野冬季五輪招致活動の経緯に鑑み、岩菅山を中心とした志賀高原全体の総合的保
  護・保全策を確立されたい。特に自然保護強化にむけた国立公園計画の見直しやMA
  B地域の拡大、保安林指定などをされたい。
 (5) 長野五輪のボブスレー、リュージュ施設が新設された飯綱高原は、有料道路の建設
  を引き金にしてゴルフ場やスキー場、ホテル、別荘団地など、高原全体の40%近い地
  域の乱開発が急速に強行されている。この高原全体の総合的な環境アセスメントを行
  い、有効な自然環境保護策を確立されたい。
  
3.長野県下の水環境保全と開発の総量規制、水質浄化・河川改修対策等について
 (1)長野県下のダム問題については、貴殿の「脱ダム宣言」(2001年 2月20日)の理念に
  基づいて対応されていることに賛同している。砂防ダムについても、その効果や災害の
  危険、自然環境などへの影響を総点検し、砂防行政の抜本的な見直しをされたい。
 (2) 水源地では一切の開発を認めないという強い規制を行い、民有地の場合は市町村や
  県が買上げるなどの施策を確立されたい。
 (3) 水質汚濁防止法などに基づく規制基準は妥当でないので、WHOなどのより厳しい
  基準を参考にして、より強化されたい。
 (4) 水源地以外の地域においても、一定の標高以上をすべて開発禁止とし、良好な自然
  環境を残している河川、湖沼、湿原地帯周辺の開発や改変は原則的に禁止ないしは厳
  しい開発規制策を講じるなど、県下の開発の総量規制を強化されたい。
   また自然環境にやさしい河川を取り戻すために、これまでの河川改修を総点検し、
  自然型の河川改修を早期に行うことや、自然生態系を破壊している青木湖等の取水問
  題を早急に解決されたい。
 (5) 近年ブラックバス等の外来魚が県内各地の水域に拡大し、本来の生態系を破壊して
  いる。早急に実態調査を行い、適正な対策を取られたい。
  
4.長野県環境基本条例・同計画の改正について
 (1) 96年に制定された県環境基本条例は、宣言的な内容にとどまっている。環境権を明
  記し、県民参加と情報公開を具体的に保証し、環境監査制度の制度化などがはかれる
  ように改正されたい。
 (2) 県環境基本計画には県民参加を可能にするため、広範な環境団体などによる県民会
  議を設立し、形だけでない幅広い県民の意見をくみ上げるようにされたい。その上で
  各施策展開にたいする実効性(具体策)や、それを保証する数値目標など明記し、県
  の研究機関の環境にかかわる調査・研究の充実強化を含めた実効性ある県環境基本計
  画に改正されたい。
 (3) 以上のことや水環境保全などを実現させるためにも、県環境審議会の委員に自然・
  環境保護団体の代表を参加させるようにされたい。
  
5.長野県自然保護研究所における自然環境保護策の総合的強化等について
 (1) 県自然保護研究所においては、広く県民の声をくみあげて、調査・研究・協議など
  を行うために、関係研究機関や自然保護団体・県民などの参画による「運営協議会
  (仮称)」を設置されたい。
 (2) 県自然保護研究所を「自然保護活動」のできる組織とするため、自然・環境保護部
  等を新設されたい。
 (3) 調査・研究に基づく自然保護の具体策を提言し「開発禁止勧告」など、県民が期待
  している行動的な研究所にするとともに、環境教育的機能を生かして県民主体の新し
  い信州の自然環境の創造をはかるようにされたい。
  
6.農林業振興による自然環境保護策等について
 (1) 農林業の衰退の中で県下の広大な過疎地や中山間地域の自然環境は、大きな危機に
  さらされ、乱開発などによる破壊にみまわれている。県としてこれら地域の農林業や
  里山の保護と再生、県産材の活用等にむけた特別な対策をもち、あわせて国にもその
  特別対策を働きかけるようにされたい。
 (2) 農林業や自然環境の調査・保護・管理の新組織を設立する等、野生動植物との共生
  を図るようにされたい。
 (3) 農林業の所有者を軸に整備を公費負担とする等、森林整備を早急に実施されたい。
  
7.地球の温暖化防止について
 (1)97年の気候変動枠組み条約第3回締約国会議(温暖化防止京都会議)において、日
  本政府は6%の温室効果ガスの削減を公約した。長野県では この国際公約を尊重し、
  「長野モデル」と言われる地球温暖化対策を策定しつつあるが、それらを条例にまで
  高め、実効性あるものとされたい。
  
8.総合的視点からの要請課題について
 (1) 新たな環境優先の公共事業評価を行う等、環境整備は自然回復を県行政の基本にさ
  れたい。
 (2) 県民参加型学習拠点=エコロジーセンター・環境学習センターなどの新設、環境N
  POへの支援等、環境教育の普及を強化されたい。
   以上
  
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