※某労働組合ニュース2005年5月号掲載原稿

 

ビルメンテ屋の誇りと憂鬱(ゆううつ)


   私たちの毎日の生活は色々な人の仕事で支えられている。電車に乗れば運転士や車掌がそれを動かしているし、居酒屋ではアルバイトのお兄さんが料理を持ってきてくれる。ビルの中に入れば、その電気設備や空調を運転したり、床を磨いている私たちがいる。自転車で町中をお年寄りの介護に走り回っているヘルパーもいる。どれもまさに我々の社会を成り立たせている力そのものだ。でも、そのそれぞれの人々がどんな労働条件で働いているのかに、思いを馳せる人はどれだけいるだろうか。

安ければいいのか

 偶然見た新聞記事が憂鬱な気分にさせる。

 「県庁舎清掃落札率が大幅下落 05年度 談合受け、県が改善策」 (朝日新聞神奈川版2005年4月16日)

談合情報により入札方法を変えたら、落札価格が大幅に下がった。前年度の平均落札率が83・6%だったのが、60・1%に急落し、「これまでの入札のずさんぶりが裏付けられた形だ」「談合疑惑があった新庁舎上層階では予定価格2600万円に対して落札価格は630万円(落札率24・2%)だった。」それに対し、県総務部では、「予定価格に対して著しく低いので適正に業務が行えるのか確認する」といったんは保留したが、業者が出した計画書などから「適正に履行できる」と判断した、という。

記事は、談合を排除して安く委託できて良かった、ちょっと安くなり過ぎの感もあるけど・・・・、といった調子に貫かれている。

公正な社会を

 ここでいう落札率とは、県がこの清掃ならいくらかかるかを積算した予定価格に対して実際の落札価格が何%であったかという比率のことである。元になる積算は恣意的に行われているのではない、たとえば、建築保全業務積算基準(国交省大臣官房営繕部監修)とか、業界団体の出した基準を参考に算出されているだろう。ほとんどが人件費である清掃業務で予定価格の4分の1でも適正に業務が履行できる、という判断には、実際にその受託価格でいくらの賃金を出すのか、というチェックも入っていたのだろうか? 私たちはそこを知りたい。またビルメンの清掃労働者が月々いくらの賃金を受け取り、それによってどんな生活が出来るのかを、考えてもらいたい。こうした記事を書く新聞社や放送会社の正社員達はトップクラスの賃金得ているだろうし、ましてやそれらの論調を支配する経営者はその上を行くだろうから、その体制を維持したいという傾向性が働くのもとりあえずはやむを得ない。しかし、それらの論調に対して、私たちは、現実を見よ、と言い続け、あるいは、こうした格差が広がり続ける我々の社会の未来を君たちはどう考えるのか、と問い続けたい。

 全国ビルメンテナンス協会が毎年行っている業界アンケート調査(第35回04年6月実施)ではベアも昇給も行わない会社が半数以上であり、中途採用者の賃金は中期的低下傾向が変わらず、清掃パートの時給は最高値の東京でも927円で前回の941円より低下している。もちろんビルメン会社の社長は相変わらず「ベンツに乗っている」のかもしれない。しかし、2つの職場をかけ持ちし、立ち止まることの出来ない自転車操業である我々の仲間の耳には、「A社の夏のボーナスは平均200万円」、と語るテレビニュースの声に「私の年収と同じか」という思いと同時に、なぜこちらの200万円はニュースにならないのか、という別の声が反響するのである。

  非正規労働者の増大など、同じ「日本」で暮らしていてもその現実の格差が大きくなるにしたがって、一つである「日本人」という幻想を強調する声が大きくなってきている。 それに抗し、誰とでも対等に、気品を持って暮らせる社会にしたい。

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