伝説の映画・伝説の怪獣

 USA版ゴジラは、日本ゴジラの20倍以上の制作費(号泣)を費やし、鳴り物入りで公開された。
 その興行収入は、ロストワールドを遙かに超えるだろう、と期待された。
 ところが、蓋を開けてみればサッパリ。
 アメリカ人にまで、「あんなのゴジラじゃない!」と罵られるていたらくであった。
 しかし、アメリカ人に、それを言う資格は、無いと思うぞ。

 アメリカでコケたゴジラも、日本では7月11日、全国的に大公開される。
 その陰で、ひっそりと公開されている映画を知る人は少ない。
 その名は、「プルガサリ(不可殺)」。

 「北朝鮮ゴジラ」と呼ばれている。
 制作は、1985年。
 阪神の優勝した年である。
 奇跡の年、といってもいいかもしれない。

 プロデューサーは金正日。
 これ以上ない、という強力なプロデューサーである。
 監督は申相玉。
 主演女優は崔銀姫。
 この映画のために、わざわざ韓国から拉致してきた逸材であった。

 特撮に協力したのは東宝特撮スタッフ。
 中野昭慶が特撮監督を務め、日本以上の大火炎を燃え上がらせている。
 ゴジラの演技で有名な薩摩剣八郎は、プルガサリの縫いぐるみに入っている。
 彼ら東宝スタッフは、「ハリウッドで撮影する」と騙されてつれてこられたそうだ。
 彼らも拉致されたのだ。

 北朝鮮ナンバー・ツーのお声掛かりで製作された映画だ。
 力の入れ方が違う。
 制作費も潤沢で、セットなど、日本でも作れないほどの大規模なものだったという。
 めでたく完成し、申監督には、金日成主席から感謝状が手渡されたという。

 ところが、公開直後に、映画の上映は打ち切られた。
 監督と主演女優が韓国に亡命してしまったからだ。
 金正日はふたりを「裏切り者め!」と罵ったそうだが、もともと韓国から盗んできた人材だ。
 単に元の国へ逃げ戻っただけなのだが。

 そんなわけで、「幻の映画」といわれていた。
 それが今年、いよいよ日本で上映された。
 そのあらすじを紹介しよう。

 時は高麗朝末期。日本では室町幕府、足利義満の時代である。
 世は乱れていた。
 北からは女真族が攻め込み、海岸には倭寇が侵略する。明は容赦なく領土を削り、元の残党はしばしば農村を襲う。
 高麗の貴族は無能にしてただ強欲、農民の嘆きをよそに歓楽に明け暮れていた。
 そんな時代、ひとつの噂が農民たちの間で語り継がれていた。
 プルガサリ、殺すことのできない妖獣。
 国が滅びるとき、その姿を現すという。

 場所は白頭山に近い、ちっぽけな農村。
 若い男は兵隊にとられ、老人と女子供だけが残っている。
 痩せた畑は戦乱で荒れ果て、今年の収穫は絶望である。
 「こうなったら神様にお縋りするしか・・・」
 老人が畑に立ち、うめくように呟く。

 神様にお縋りするしかない。
 老人の孫、美少女小桃は、神様の像を造りはじめる。
 みんな同じ気持ちだったのか、人びとは小桃に協力する。
 みんなで米を持ち寄り、ご飯粒をこねて、大きな像を造った。
 なぜかその像は、金日成そっくりだった。

 そんなとき突如として、日本人が攻めてきた。
 近隣の沿岸に上陸した倭寇が、ここまで攻めてきたのだ。
 日本人は家を焼き、子供を殺し、来年の種籾を奪う。
 そして小桃を奪い、森に連れ込んで陵辱しようとする。

 そのとき、森が動いた。
 巨大な獣が森を割って現れ、倭寇を襲い、むさぼり食らう。
 伝説の怪獣、プルガサリの登場である。

 プルガサリは倭寇を皆殺しにした。
 怪獣には見境がない。
 さらに村も襲おうとする。

 小桃は涙を浮かべ、神様の像に祈った。
 「神様、プルガサリをどうか止めてください・・・」
 涙が像に注がれたとき、なんと像が生命を得て、動き出す。

 25メートルの巨大金日成対、伝説の怪獣プルガサリ。
 死闘は金日成の勝利に終わる。
 涙を流し感謝する村人の見守る中、金日成は白頭山に帰ってゆく
 そのとき、小桃は、金日成の言葉を確かに聞いた。
 「少女よ、くじけずに生きよ。
 わたしは600年後、ふたたび戻ってくる」

 なんて話だったらよかったんだが。



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