潜水日記

4月27日(木)
 金がない。ああ金がない。
 ホテルのチェックアウトはビザカードで済ませた。このカード、普段は持ち歩いていなかった。成田空港でラウンジが利用できるというので、わざわざ持っていったのだ。海外ではJCBよりもビザの方がずっと使える範囲が広い。意外なところで助かった。

 出発の一時間前にマニラの空港に到着。チェックインして、さて乗り込むかと表示板を見たが、いつまで経っても乗り込むはずの飛行機の表示がない。そのうちアナウンスがあった。どうも遅れているらしい。結局、一時間半も遅れてしまった。おまけに到着地点が離れているとかで、バスで移動するとか言ってゲートを変えてしまった。英語のアナウンスはよくわからないし、心労でへとへとになってしまった。
 あまり長く待たされるので、腹が減ってきた。空港売店では、パン、サンドイッチ、カップヌードルなどを売っている。ツナやハムのサンドイッチは50ペソ。食おうかと思ったが、とにかく嚢中豊かでない。友人の対応次第では、明日からどうなるかもわからぬ。50ペソが惜しい。ということで、泣く泣く諦めた。思えばこれが幸いであった。後で友人に聞いた話によると、フィリピンの空港でツナサンドを買って食べた日本人2人が食中毒で倒れたという。病院の集中治療室に運ばれ、ひとりは辛うじて一命を取り留めたが、もうひとりは手当ての甲斐もなく死亡。とほうもなくやばいらしいのだ。

 ようやく飛行機も来て、セブに向け出発。現地人の割合が高いが、日本人もけっこういる。
 セブの空港に到着。「地球の歩き方」に書いているとおり、クーポンタクシーを探したのだが、それらしい売場がない。空港の係員に聞くと、「あそこのタクシーに乗れ」と指さす。クーポンタクシーがいいんだけどなあ、などとぼやきながらタクシーに乗り込む。あ、しまった、これメーター使ってないじゃないか。しかも事前に料金交渉してないぞ。まずい。非常にまずい。
 タクシーは空港のあるマクタン島から長い長い橋を渡ってセブ本島に。ずんずん走るが、いっこうに市街地らしくならない。こういう風景は見たことがある。埼玉県郊外の道路沿いの如き光景。あれだ。草むらとうらぶれた工場があるだけ。たまにロジャースがある、あんな風景だ。
 これは拉致されたのではないか。このまま人通りのない山中に運ばれ、身ぐるみ剥がれるのではないか、と心配になる。そのくらい長い距離を走っていたのだ。イヤだ、死にたくない、阪神の優勝を見ずには死ねない、死んだら今岡にとり憑いてやる、などと目を閉じて念ずる。そうだ、どういう道筋かを記憶しておかねば。そうすれば逃げて戻ることもできるし、後で警察の現場検証もできるだろう、と本気で考え、特徴ある建物など記憶しようとしたが、いかんせんあばら屋しか見えない。それにだいたい、私のような方向音痴には無理なことだ。
 やがて大きなビルが見えてくる。運転手曰く、「あれがSMマート。最近出来たショッピングセンター」
 するとこの運転手、私を拉致監禁しようなどとは考えていないようだ。よかった。助かった。そのうちだんだんと市街地らしくなり、大きなロータリーの脇でタクシーは止まった。今日の宿、セブミッドタウンホテルだ。
 私は歓びのあまり運転手を抱擁しようとしたが辛うじて思いとどまり、料金を聞くと、600ペソとのこと。これで運転手への感情は愛から憎悪へといきなり変わる。おいおい、高すぎるんじゃないのか。ガイドブックにも、せいぜい300ペソと書いてたぞ。しかし事前に交渉してなかった弱み、やむなく言われたとおり払う。またぼったくられてしまった。

 そもそも「地球の歩き方」がいかんのだ。ありもせぬクーポンタクシーをあるなどと書きおって。詳しくは近日上梓する「アンチ地球の歩き方」というページで触れるが、「地球の歩き方」はわりと間違いが多い。地図も間違っていることが多い。そのせいで、タイで迷ってしまったこともあった。読者投稿で構成されているためだろうか。宿の情報も、ひどいのを褒めていたりする。くれぐれもご用心を。
 ついでに「地球の歩き方」の悪口を続ける。あそこの投稿者はだいたい人生経験が浅い。ひじょうに初歩的な歴史的知識に無知だったりする。バッグパッカーを妙にもちあげる。ただの貧乏人じゃねえかあんなもん。金を使う人を敵視している。土産を買う人を蔑視する。高級ホテルを白眼視している。金は使うべき時に使うもんだ。それを馬鹿にするのは貧乏人の僻み以外のなにものでもない。このあたりの詳しくは近日上梓する「バッグパッカー家畜論」というページで触れるが、ともあれ、もし貴方がしたいことがパッケージツアーで達成できるなら、迷わずパッケージツアーを選ぶべきだ。信頼できるガイドや現地の案内人がいない限り、個人旅行は時間と金の無駄だ。いいか。力説するぞ。海外では安全は金で買うべきなのだ。金で買え! ぜいぜい。誰に向かって力説してるんだか。 

 ミッドタウンホテルはかなり上等で、バスタブもある。翌日乗るボホール行きのフェリーについて聞いたが、時刻表があるだけで、切符は港へ行って買ってくれ、という。
 知人との待ち合わせまでまだ数時間あるので、隣のロビンソンデパートに行ってみることにした。ところが改装中で、地下のスーパーしか開いていない。とりあえず両替し、知人のウエルカムドリンクを購入。ビールとジュース。200ペソ余りの買い物をして1000ペソ札を出したら断られて唖然とした。だいたいフィリピンでは1000ペソ札の使い勝手が悪い。100ペソ札まではどこの店でも通用するが、500ペソと1000ペソの札は拒否されることがしばしばある。

 いったんホテルに戻り、もういちど外出したとき、待っていた知人とばったり会った。E夫婦と、奥さんの友人の女性Iさん、計三人。
 彼らは彼らで過酷な経験を経てきたらしい。もうマニラ乗換はこりごりだと話していた。すごくめんどくさいらしい。とりあえずビールを振る舞う。とにかくフィリピンは酒が安い。ビールは20ペソ、店で飲んでも30ペソだし、結構いけるラム酒がフルボトル100ペソしない。更にサトウキビの地酒というのがあって、これはフルボトル30ペソ程度で、結構口当たりがよい。ただしメチルアルコールが混じっているので、大量に飲むと視覚障害を起こすとか。
 四人揃ったので、食事へ出かける。よくわからないので、無難そうな中華料理屋に入る。まあまあだった。ラプラプという、ハタに似た白身の魚の料理は、白身魚の淡泊さが酢豚風の濃厚な味付けに負けていた。他に野菜のうま煮、など頼んでビールを飲んで2000ペソくらいだから、高くはない。

 ホテル 1330ペソ(カード決済)
 マニラから空港までタクシー 200ペソ
 空港からセブシティまでタクシー 500ペソ
 ビール 20ペソ*4
 ジュース 10ペソ*4
 煙草 30ペソ
 両替 ロビンソンデパート 3万円を3*3850ペソ
 Tシャツ 2枚で520ペソ(カード決済)

4月28日(金)
 8時の船に乗るつもりでホテルを7時出発した。
 ところがすでに満席だと断られる。次ぎの便は11時45分とのこと。しばらく呆然。こんなことなら、セブ市内の旅行代理店を走り回っても切符を確保しておくんだった。
 しかしながらどうしようもない。待つしかない。今日のダイビングはなしだな。やれやれ。帰りにこんなことが起こったら、予約している飛行機がわやになってしまうので、帰りの切符を先に購入。私のは5月1日、朝6時にタグビララン発。早いよう。

 待合室で3時間潰すしかない。カフェに陣取り、朝からサンミゲルのビール。こういうとき四人だと心強い。
 Iさんが隣の席の欧米人女性に話しかける。日本語で呟いているのが聞こえたのだ。淡路島で英語の先生をしているそうだ。むちゃくちゃ日本語が上手い。私よりよっぽど流暢だ。ドイツ語も堪能だとか。こういう人を見ていると自分の語学力の無さが情けないね。

 待合室のスタンドで食事。こちらでは麺を「MAMI」と表記するらしい。焼き豚のMAMIを頼むが、意外とおいしい。しかしシュウマイを頼んだE旦那は、「火が通っていない」と残す。焼き豚やローストダックのような焼き物は大丈夫だが、蒸し物は要注意。
 船は現地の客が多い。指定席で、思ったより快適だった。満員の臨時増発便の割には空いている。係員が多い。係員に頼んで、船内で飲食物のオーダーもできる。なんだか豪華客船のようだ。もっとも頼める飲食物はコーラだとかカップヌードルだとかだが。

 2時頃にタグビラランに着く。とりあえず宿に直行することにする。タクシーやジプニー(ジープを改造した乗り合い車)の客引きがうるさい。私ならあっという間にぼったくられるところだが、さいわい、E旦那がジプニーと交渉してくれた。なんだかんだと二十分くらいも交渉しただろうか、淡路島の先生と、もうひとりのアメリカ人女性も加えて6人で250ペソということで話がまとまる。やれやれ。
 車はひたすら突っ走る。港をこえ、橋を渡ってボホール本島からパングラオ島に抜け、さらに走る。しばらくは舗装道路だったが、そのうち埃だらけのでこぼこ道になる。白い砂埃が凄い。
 道の両側に高床式の住居が見える。竹か椰子の葉でふいているのか、壁がきれいなモザイク模様になっている。だいたいにおいて住居は粗末。ただし庭はいい。綺麗に刈り込んだ芝生に、整えられた植え込み。そんな中で、もうちょっと何とかしろよと言いたくなるような小屋がたっている。まるで富豪のお屋敷の敷地内に貧民が掘っ立て小屋を建てたよう。タイのプーケット島を垢抜けなくしたような所だ。

 埃にまみれきった頃、車はボホールダイバーズロッジへ到着。荷物はすべて白い埃に覆われている。私も覆われている。
 英語教師と、もうひとりのアメリカ女性は別な宿を探しにいく。我々はチェックイン。やはり竹で編んだ壁のロッジ。冷房があるのが有り難い。ひとつの部屋には冷蔵庫もある。上々です。
 ダイバーズショップで手続きする。1日2ダイブで40ドル。3日以上は10%割引。ナイトダイブは25ドル。全機材のレンタル込み。機材は豊富で、思ったよりちゃんとしている。ただウェットスーツが厚手で、しかも長袖なので暑そう。このへんは刺の長いウニが多いので、安全のためだという。

 今日はもうすることはない。ビーチでビールを飲む。25ペソというのがよい。隣の宿に入った女性教師と再会し、しばらく日本文化についてなどの話をする。その後ちょっとスノーケリング。白砂の海岸をしばらく泳ぐと海草が群生していて、刺の長いウニや毒々しい赤のヒトデが散乱している。ところどころ小さなサンゴがあって、そこに小さな熱帯魚がいる。

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 6時半頃夕食。晴れていて星がよく見える。獅子座が天頂に見える。さすが熱帯だ。南十字はどこだったかなと懸命に昔の記憶を呼び起こすが、どうしても思い出せない。たしかあれだったかな、という十字を皆に見せるが、「えーっ、あんなのが南十字?」とブーイング。「いや、あれがマゼラン雲のはずだ」と言うが、ますますブーイングを受ける。いや、南十字というのはね、期待はずれなもんなんだよ、と力説しても受け入れられない。まあいいか。
 ホテルの砂浜に出したテーブルで食事。チキンや豚の料理はなかなか美味かった。シーフードの料理は、どれも同じトマトの甘辛い味付け。食材はすべて新鮮なのだが、ううむ。誤解されやすい料理なのだ。人参やジャガイモを、冷凍食品のような形に切っている。材料が小海老、イカ、インゲン、玉葱、ブロッコリーに前記のジャガイモ、人参。要するに、冷凍のシーフードミックスとまったく同じラインアップなのだ。てっきり冷凍食品の料理だと思ってかぶりついて、「あれ、このイモ茹でてない」と頓狂な声をあげてしまった。
 食後にカクテルを頼む。どれも甘ったるい。そして氷が不足ぎみでぬるい。
 11時前におとなしく寝る。明日からダイビングだ。

4月29日(土)
 いろいろあって、ようやくダイビング初日。
 五時半頃目が覚めてしまい、煙草、散歩、日記書きなどして時間を潰す。猫がやってきたので遊ぶ。毛並みの綺麗な小さな猫。昨日も食事の席にやってきたので海老のシッポや鶏の骨などやったが、あまり食べようとしなかった。痩せているように見えるが、飽食しているのだろうか。タイなら狂喜乱舞してかぶりつくところなのだが。ここでも食べ物をねだろうとはせず、人懐こく身体を摺り寄せてくるだけだ。

boat

 九時にショップに集合して、目の前のビーチから出発。乗り込んだのは、小型のカヌーというか、大型ヨットの横に長い木の骨組みで張り出しをつけたボートだ。ちょっとミズスマシに似ている。我々四人と、フランス人の五人家族の二組。フランス家族は三十代くらいの夫婦に十四歳くらいの娘、八歳くらいと六歳くらいの息子、という構成。旦那に、「ボン・ボヤージュ」と言ったが通じない。大学でフランス語履修の私が知っている唯一のフランス語なのだが。しくしく。娘は十四歳くらいでなかなか可愛らしいのだが、フランス語が通じないのでそれどころではない。しくしくしく。

 今日の行き先はバリカサグ島。このへんでもっとも見応えのある海だと言われているところか。いきなりの真打ち登場だ。ビーチから約四十分。内海なので、波は小さい。
 半年ぶりの潜水だ。昨日から、一生懸命手順を思い出そうとしてはいるが、なかなか思い出せない。機材も前回と違うので、使い方がよくわからない。ええと、このジッパーをこっちにかけて、このフックはこちらに、などと考えていると、インストラクターのおにいちゃんがどんどん着せてくれる。そのまま飛び込まされる。ぷかぷか浮きながら、ええと、潜水の手順は、などと考えているうちにインストラクターはどんどん潜ってしまう。あわててあとを追うが、耳抜きがうまくいかず、どうしても遅れてしまう。必死に鼻をつまんだり、息を吸ったり吐いたりしながら唾を飲むが、耳がきーんと痛む。耳抜きだけに集中すればいいのに、回りが綺麗なもんだから、撮影をしたくなってしまう。カメラの電源を入れて液晶を覗く。構図を考えているうちに流されてしまう。あわてて泳いで戻る。またカメラを構える。魚はどこかに行ってしまった。別の被写体を探す。また耳が痛くなる。慌てて耳抜き。気がつくとバディは先に行ってしまっている。慌てて追いかける。耳が痛くなる。耳抜き。気づくとカメラの電源入れっぱなし。慌てて切る。ふと横を見ると、イソギンチャクからクマノミが顔を出している。また電源を入れる。スタンバイを待っているうち流されてしまう。また戻る。耳が痛い。耳抜き。インストラクター遠くに。慌てて追いかける。カメラの電源入れっぱなし。そんなこんなの繰り返しで、すっかり疲れ切ってしまった。E旦那がエア不足になり、奥さんやガイドの非常用のオクトパスから呼吸させてもらっていたのにも、まったく気づかなかった。イザリウオやウミヘビがいたらしいのだが、それにもまったく気づかなかった。わずか五十分の潜水だったが、すっかり疲れ切ってしまった。デジカメの電池も、すっかり消耗してしまっていた。今日の撮影、午前中で終了。撮影枚数四枚。

 船はバリカサグ島にあるホテルのビーチに入る。船の中で昼食。あまりに疲れたので、食欲もない。宿でランチパックを作ってもらったのだが、サンドイッチを半分食べただけ。脂がぎとぎとしている豚のスペアリブや海老のガーリック炒めなど、見るのも嫌だ。
 体力が消耗した状態で船に揺られていると、気持ちが悪くなってきたので、上陸することにする。プライベートビーチなので、座り込むと使用料をとられるそうだ。やむなく歩き回る。さまよえるユダヤ人の気持ちがよーくわかるぞ。

 午後の潜水はコツを思い出したので、午前よりはだいぶ楽になった。潮流に身体をゆだね、流されるままに漂う。大きなバラクーダの群れと、ギンガメアジの大群を見る。E旦那は、またエア切れで他人からエアを分けてもらっていた。

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 ダイビングの困ったことのひとつは、耳がおかしくなることだ。他の人はどうだか知らないが私は耳抜きが苦手で、潜水するのに他人の倍以上の時間がかかる。どうやら復帰するのも苦手らしく、地上に戻っても、耳の奥に水が溜ってなかなか抜けない。一本足でけんけんしてみても、綿棒でつつき回しても、抜けないものはどうやったって抜けない。だいたい三日間は耳に異常を覚えている。その間、話は聞こえにくいし、煎餅のような硬いものを食べるとごりごりと頭蓋骨が反響するし、耳の奥でぼわーという音が聞こえるし、不快なことったらない。

 午前と午後の二回の潜水を終え、船は宿に戻る。当初の予定ではナイトダイビングを申し込むつもりだったが、今の体力ではそれどころではない。とにかく休みたい。シャワーを浴びて、ホテルの中庭でビール。片付けの終わったインストラクターと、ビールを飲みながらログをつける。インストラクターは英語は知っているが、日本語は単語程度。英語のわからない日本人、ドイツ人、フランス人が来ると困るそうだ。私だって、同行者がいなかったら困った客なのだが。

 夕食はインストラクターお勧めの、シーサイドレストラン。ロッジから砂浜沿いにすこし歩くと、レストランや雑貨屋の連なる通りがある。パングラオ銀座とでも呼ぶべきなのだろうか。でも見た目は欧米人が腰掛けてラムをラッパ飲みしている、うらぶれた細道なのだが。歩いて五分くらいだろうか、小さなテーブルを置いて、そこに魚を並べている。この魚を注文すると料理してくれるらしい。店構えは定食屋といった感じだが、さすがダイバーズ通り、店のおねえちゃんは英語が流暢だ。30センチくらいの、ラプラプというハタがあったので、それを蒸してもらう。280ペソ。あとは海老、ビーフン、カレー、豚の串焼きなど。サンミゲルを頼んだら、一リットルという巨大なボトルが出てきて仰天する。普通の300ミリのサンミゲルの瓶、あれを相似形で拡大したものなのだ。これで45ペソか。
 この店の料理はフィリピン一番の当たりだった。ラプラプは白身の肉がバターソースとニンニク、香草で蒸されて、淡泊さがよく引き立っていた。皮にとろりとした脂が乗っていてまた美味。カレーもダシがよく出ていて、香辛料も効いていた。ビーフンも美味。野菜とココナツを煮たものは妙な味。最後に飲んだマンゴシェークとラムのカクテルも美味しかった。一番のお勧めだというイカのリング揚げが無かったのが残念。明日もここに来てイカをチェックしよう、と満場一致で可決。

 帰りに雑貨屋で水を買う。そこに卵が並んでいたので、もしや、と思って聞いてみたら、「クックトエッグ」と言う。やはり、あれか。ただのゆで玉子かもしれないが、一個買ってみる。4ペソ。宿に戻って割ってみると、ありゃ、黄身がどろりと。ゆで玉子ですらない。ただの生卵ではないか。騙された。

4月30日(日)
 私のダイビングは今日が最終日。今日は我々四人だけで船に。泊まっているパングラオ島の反対側に行くという。島をぐるっと回って、サンゴ礁の広がる浅瀬に飛び込み、そこから深みに入る壁ぞいに泳ぐ。切り立った壁に、色とりどりのサンゴ、奇妙な形をした海綿、イソギンチャク、ウミユリなどが群生している。そのまわりにツノダシ、ウミスズメ、クマノミ、ヘコアユ、ハコフグ、ベラなどがたむろしている。やや遠くを、たまにギンガメアジやバラクーダ、カツオなどが通り過ぎる。

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 Eの旦那は、またエア切れになっていた。この人は地上でも体力に任せて精力的に行動する性なので、海中でも人一倍エアを消費するらしい。私の参加した四回の潜水のすべて、他人にエアを恵んでもらっていた。きっと今までもエア切れだったし、これからも切れ続けるのだろう。エアが切れなくなるためには、スキルの上達よりも性格の改善を必要とするような気がする。

 などと他人をあげつらっていたら、自分にトラブルが起こってしまった。午後の潜水の終盤、エアが残り少なくなったころから調子がおかしい。どうしても浮いてしまうのだ。全エアを抜き、でんぐり返しなどして身体に溜った空気の全てを放出しても、それでも浮いてしまう。海面に浮上しては全力で潜水し、ほっとする間もなくまた浮上。これの繰り返しで、しまいには頭が痛くなって鼻血が出てしまった。フウセンムシという水性昆虫を水の入ったコップに入れ、紙切れを入れてやると、紙切れにつかまってコップの底まで潜り、しばらくすると紙切れもろとも浮いてくる。紙切れとともに浮き沈みを繰り返すので、見ていて面白いが、自分がそのフーセンムシになったようだ。傍から見ていたらさぞ面白いだろう。どうやら、エアの残量が少ないため浮力がついてしまったらしい。やはりウエイトはやや重目に設定したほうがよさそうだ。

 ダイビング終了後、私だけ清算。二日の四ダイブで計40ドル。全機材のレンタル込みで、一時間ほどもかかる遠出のダイブにしては安いと思う。
 今日は海上で昼食だったので、Tシャツ売りつけおばさんがこなかった。宿の売店で、ボホールダイバーズロッジのロゴの入ったTシャツを購入。350ペソ。ちょっと高いかな。

 夕食はあちこちうろついた末、結局昨日と同じレストランにした。残念ながらイカは今日も不漁らしかったが、店先に50センチくらいの鰹が並んでいたので、それをグリルにしてもらった。180ペソ。昨日のラプラプに比べると、ちょっとぱさついているかな。他にチキンカレー、野菜カレー、トマトスープ、魚スープ、焼きそば、鳥モモ焼き、マンゴシェークとラムのカクテル、などなど。これでも四人で1000ペソちょっと。
 帰りにラムの小瓶を買って飲んでみた。ラムには詳しくないが、まあまあの味か。30ペソにしては、けっこう飲める。

5月1日(月)
 早朝四時に起き、私だけ出発。フロントで車を呼んでもらい、タグビラランの港まで運んでもらう。さすがにタクシーの威力、行きは1時間弱の道を、30分で走破してしまった。もっとも、タクシー料金に早朝料金が加算されて400ペソとられたが。
 タグビラランからは高速フェリーで1時間半。さすが早朝のこととて、乗客は半分くらいしかいない。おかげで快適な航路だった。

 到着したセブの港で朝食を食べようと思っていたが、港の待合所は満員で座る場所もない。やむなく、ラム酒を買っただけでタクシーに乗り、空港へ向かう。運転手が無愛想な人間で、スラム街の裏にでも連れ込まれるのではないか、途中で給油したりするのでその分も請求されるのではないか、200と言っていたが到着すると200ペソでなく200ドルなどと言い出すのではないか、などとさまざまに心配したが、幸い何事もなく空港に到着し、200ペソを渡すとおとなしく帰っていった。無愛想なだけで、実はいい人だったのだ。

 空港の軽食スタンドで朝食。危険な生ものは避け、無難にチーズバーガーとグリーンマンゴジュース。しかしこのグリーンマンゴジュースが美味かった。グリーンと言いながら色は黄色なのだが、マンゴジュースより酸味が強く、刺激的で、結構な味であった。グリーンマンゴジュース、もし機会があればおためしあれ。

 空港でチェックイン。国内線なのにパスポートを見せろというので、変だなと思いながらも見せたら、チケットを2枚渡してくれた。セブ・マニラ間の国内線と、マニラ・東京間の国際線、両方の手続きを同時にやってくれたのだ。預けた荷物も成田までそのまま運んでくれるらしい。
 飛行機に乗り込み、浮上すると、まだ耳がおかしい。ばくばくと鼓膜が振動する音が聞こえる。ああ、まだ直ってない。そのうち、喉の奥に塩辛い味を感じる。どうやら、鼻の奥から出血したらしい。圧力差で毛細血管がつぶれたのだろうか。ははあ、ダイビングの度に鼻血を出すのは、こういうメカニズムだったのだな。などと納得してみたが、事態の改善には役立たない。

 すんなりセブからマニラに移動し、これで帰れる、と安心したのがいけなかったか。マニラの国際線の入り口は長蛇の列。みんな大荷物を抱えているから、チェックに時間がかかってしょうがないのだ。やっと入ったと思ったら、出国チェックで時間をとられる。やっと順番が回ってきたと思ったら、出国カードを書いていないので、書いてから出直してこいと追い出される。また長蛇の列。出発の時間が刻々と迫る。うわ、どうしよう。出発10分前になったら、無理矢理前に押し入ろうか。などと冷や汗をかきながら、ようやくチェックが済んだのが出発15分前。入り口へダッシュ。ほっ。間に合った。しかしマニラの免税店で残りペソを使い果たす計画が狂ってしまった。1500ペソくらい残ってしまった。日本円にして4000円くらいか。中途半端だ。とりあえずこの1000ペソ札を使ってしまいたい。スチュワーデスが免税品の販売に来たので、聞いてみると、煙草一カートンが500ペソ。とりあえずひとつ買う。しばらく経って気づく。ああ、しまった。目的を見失っていたぞ。なぜ二つ買わなかったのだ。

 飛行機は日本人がさすがに多い。日本の新聞をもらって読む。阪神は……あ、三連敗。しかも負けるに事欠いて、あの中日に。どうしたんだ一体。しかも三連敗しても、まだ二位で貯金が2。どういうことなんだ。どうも首位だったこともあるらしい。俺の知らないうちに首位になって、知らないうちに首位陥落するなんて、どういう了見なんだ。くそ。最初で最後のチャンスを見そびれた……というのは不吉すぎるか。でもきっとそうだよな。


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