クビキリサイクル

「ねえ、もうしてくれないの? ねえ、お願い」
 妻は私の首に腕をまわし、私の膝に腰を擦りつけ、鼻声で甘えながら、再度の性行為をおねだりしていた。

 このところいつもそうだ。
 妻は毎夜毎夜、執拗に性行為をせがんでくる。それも一晩に一回や二回のことではない。
 たったひとりの息子を死なせてから、ずっとそうだ。

 息子の葬式を終えたとき、妻は涙をこぼしながら
「ねえ、早くつぎの子供を産みたい――いいえ、あの子を産み直すのよ。あの子の魂がどこかにいっちゃわないうちに、あたしの胎内にあの子の魂をまた呼びもどすのよ。手遅れにならないうちに、早くしなきゃ」
 と言った。
 その夜、さっそく求めてきた。それからずっとそうだ。

 妻より七つ年上の私は、とてもその要求に応えられない。いま私は、農耕用の家畜固定具を捨てずに再利用する事業を立ち上げたばかりで、仕事が忙しく、帰宅が深夜になることも稀ではない。それもあって、さすがに最近は、一回や二回で御勘弁願うことが多い。
 はじめのころ妻は、ひじょうに不満そうな顔をして鼻声で拗ねていたが、最近は険悪な目で睨むことが多い。
「あなたはあの子が可愛くないのね。あの子が欲しくないのね。あの子が嫌いだったのね。だからだわ。だからなんだわ。疲れたとか年だとか言い訳ばっかりして」
 ぶつぶつと呟きながら妻は、涙をこぼす。

 その晩もそうだった。私が断ると妻は
「もうあたしを愛してないのね。あの子のことも愛してないのね。あの子がひとりぼっちで、どこか寒いところでこごえていてもいいのね。そうなのね。そうなんだわ」
 と、ぶつぶつ呟きながら涙をこぼした。
 私は妻を放っておいて眼をつぶった。とにかく疲れていた。眠りたかった。

 ふと目がさめたとき、首すじの後ろあたりに、なにかひんやりとしたものを感じた。
 目をあけると妻が私の上にしゃがみこんでいた。眠っているうちに、勝手に性行為をはじめていた。妻は私の首の後ろに手を回していた。私が首をねじ曲げて斜め後ろへ視線を送ると、妻の手には刃物があり、それは私の首に刃先をつきつけていた。
 妻は甘えた鼻声で、亡くした子供にいいきかせるように語りかけてきた。
「あなた、いろいろ考えるから疲れるんだわ。いろいろ考えて疲れるから、できなくなっちゃうんだわ。いろいろ考えるのはおよしなさい。そしたらできるから。いろいろ考えるところをとっちゃえば、またできるようになるわ、ね」
 私ののしかかって性行為を強制しながら首を刈ろうとする妻は、巨大な牝蟷螂の化身だった。
(首斬り妻、狂……)
 そこまで思った瞬間、首筋の冷たい感触が突然、真っ赤に焼けた金火箸を押しあてられたかのような熱さに変わった。それと同時に私は射精し、妻のなかにおびただしい精液を放出した。


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