ハロー・グッバイ

 台風が過ぎ、ようやく空がコバルトに輝く季節がやってきました。
 秋の気配が万物にしみこむような昨今です。
 私はあいかわらず元気です。無意味なくらいに。
 そして寒くなったというのに、あなたと旅行に行ったときのTシャツを着て暮らしています。

 寒くなった朝は、やはり紅茶がいいですね。
 私はあまり詳しくないので、ダージリンでもセイロンでもかまいません。
 ポットに紅茶を匙で入れます。
 ひとつは私に、ひとつはポットのために。そして最後のひと匙は、あなたのために。
 熱湯をすこし冷ました湯を注ぎます。
 そして数分待ちます。
 あなたは紅茶が好きなくせに、この待つことが苦手でしたね。
 薄い紅茶を飲んで顔をしかめるあなたを、よく笑ったものでした。
 いまにして思うと、残り少ない時間を失うことが嫌だったのですね。
 いま、時間はたっぷりありますよね。

 ポットからティーカップに紅茶をそそぎます。
 香りがあたりにふりそそぎます。
 いつもならそのままいただくのですが、今日はあなたのことを想い出して、蜂蜜を入れてみましょう。
 あなたならクッキーやスコーンやチョコレートがないと我慢できないのでしょうが、それは省略、ということで。
 お菓子がなくては我慢できないあなたのブーイングが聞こえるような気がします。
 今となってはそのブーイングも、懐かしい想い出です。

 ほろ苦いお茶がささくれた心にしみこむようです。
 紅茶はあなたへの香華。
 ところでまだ、あなたは、この香りを感じることができますか。
 私はいま、そんな心配をしています。


紅茶を格好良く見せよう雑文祭(歳果て:10月16日)


戻る          次へ