布哇よいとこ

「ご隠居、久しぶり」
「おおどうした熊さん、ちょっと見ないと思ったら、秋というのに真っ黒に日焼けして」
「へへっ、ちょっくら休みをもらいましてね、ハワイってとこへ行ってきたんでさぁ」
「ほほう、それはよかったなあ。海がきれいだったろう」
「そりゃもう、こうばーっと水平線が見えましてね、その向こうから虹がばーっとこちとらに向かってきまして、波がこうばーっと」
「なんだかばーっばっかりじゃな。まあいい。あの島も日本にゆかりのあるところじゃからな」
「ゆかりってえと、あの、パールハーバー?」
「いやいやもっと昔の話じゃ。九郎判官、牛若丸こと源義経が、あの島に渡ったのじゃ」
「ご隠居の話はうさんくさいなあ。義経がジンギスカンになってモンゴルに渡ったってぇのは聞いたことあるが、ハワイってのは」
「いやいや本当の話じゃ。そもそも源氏は南が好きでな、義経の伯父さんにあたる源為朝という人も、沖縄や八丈島に渡ったことがある。だから言うじゃろう。昔は南の島の住民を土人と言ったが、いまではゲンジ人と」
「そりゃ現地人だと思いますよ」
「義経も兄の頼朝に追われてな、日本は危ないというので、一念発起、ハワイに逃げた。そこでカメハメハ大王と名乗ってハワイを征服した」
「ああ、あの雨が降ったらお休みの人」
「それはハメハメハ大王じゃ。カメハメハといえば武勇にすぐれた立派な人。南洋の土人にはできんことじゃ。やはりこれは日本人」
「なんか人種差別の匂いがぷんぷんしますぜ」
「義経といえば美形だと思っている人が多いようじゃが、実際はちんちくりんで反っ歯だったという。小柄だが歯だけは大きい、歯はいい、ということで島の名前がハワイになった」
「どうも信じられませんな」
「義経と一緒に弁慶も渡ってきた。万が一、頼朝の刺客が渡ってきたばあい、ここで防ごうとハワイの北の島に住みつき、ここを守ろうとマモリ島と名付けた。これがいつかしら訛ってマウイ島と」
「ますます信じられなくなってきやした」
「義経の愛人、静御前も義経を慕ってやってきた。これを義経は北の島に住まわせ、『流され者のわしと行動を共にするとは、可愛い奴じゃのう』と島の名前をカウアイ島」
「もう勝手にしてくだせえ」
「木曽義仲の愛人、巴御前もやってきた。巴といえば女だてらに強弓を引き太刀をふるう女丈夫。女のもののふじゃ。それで島についた名前が女もののふ島、だんだんと訛ってオアフ島」
「ううむ、そうきたか」
「巴御前は最後まで、木曽義仲もハワイに来ることを信じていた。信じます、信じますと言いながら毎日見つめていた港が真珠湾に」
「そりゃ変ですね。巴御前が来て、なんで木曽義仲は来られなかったんですかい?」
「なんでも木曽義仲はな、最期は泥田におあしを取られて、ハワイに行く金がなくなってしもうたそうじゃ」


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