「お〜い〜つ〜め〜た〜で〜」
昼も過ぎ、街中にしては立派な公園とその中の森の端にある崖。 エリオルの後ろはもう切り立った崖だ。 外側の道路など幾つかの場所には追いかけ回す間に必要な符を貼ってあり、 陽一の結界を成している。 エリオルを封じこめるほどではないし、 破ろうとすれば簡単に破れるものではあるだろうが、 破る時に衝撃と痛みがエリオルを襲うはずだ。 腹も減ったことだし、とりあえずケリをつけたいと彼は思った。
エリオルのほうも足掛け 2 日も追いかけまわされてくたびれた様子を見せる。 身に纏う魔力の気配すら薄れ掛けている。 表情だけは余裕を崩していないが、そろそろ手品の種も品切れのはず。 いきなり日本まで超長距離を瞬間移動した大技には驚いたが、 大技すぎて陽一も巻き込んだのが敗因だ。
もっとも、陽一自身もそろそろ限界だ。やっぱり腹も減ったし、と彼は思う。
「観念せーや」
右手に気を集中させる。 光が弱い。森の中とて気の集まりは良いが、支える自分のほうが疲れているか。 しつこいようだが腹が減っているということはあるにせよ。
「いくで?」
ターゲットを見つめる。 と。突然エリオルがにっこりと笑って崖から飛び降りた。 飛び降りただけだ、飛び上がってはいない、 気の乱れはなく瞬間移動でもない。結界にかかってもいない。 エリオルの気配は崖の陰に留まったままだ。
「そういう力もないんか」
魔力すら使えない状況にまで追い込まれたらしいエリオルに
彼はむしろ同情の気分を味わう。
もともと力はエリオルのほうが遥かに上だ。
いきなりの大技と、それに続いて中途半端に手加減したりするから。
光を消し、崖から下を覗く ── 誰もいない。
「‥‥ どーやって逃げた」
まだ何かあったのかと警戒しつつ目を凝らすと紙が一枚、崖に引っかかっている。 エリオルの魔法陣が描かれている符だ。 陣から漂うのは幻影を見せる魔力の匂い。 引き寄せて裏を見ると ‥‥ 「すか」
「だーっ、何時の生まれやねんっ!」
脱力して頭を抱えた瞬間、足を滑べらせ崖から転落する。 符を手に持っていたため浮遊の力を集める拠り所なく地面に激突。
「いたひ ‥‥ やっぱりあいつ許さん」
決意を新たにする観月陽一だった。
「あかん。腹減った ‥‥」