Genesis y:11 第42次中間報告
"COMPENSATION"


眼下のスクリーンは LCL で水浸しになった地域が映し出されている。
洗浄などの処理に追われる技術部の様子をゲンドウ、冬月は眺めていた。
建造されていたエヴァ全てがこれでゼーレの手から離れたことになる。

「いよいよ、か」
「そうだ」
「しかし、そんなことができるのかね」
「我々に手がだせなくなればそれでいい」

冬月は手元の、プリントアウトされた第42次中間報告書を眺めた。

「42番目の中間報告。初めはおおむね一年ごとに。 使徒がくるようになってだいたい使徒ごとに。 いつのまにか、42 冊にもなったのだな‥‥」
「ああ。そしてキール議長が受け取る最後の報告書でもある」
「で、委員会はいつになるのかね」
「明日だ。早い方がいい。証人が消されないうちに、な」


「碇君。我々はさきほど君の提出した第42次中間報告を読ませてもらったよ。 いままでの報告書とはだいぶ趣が違うな?」
「そうです。我々は補完計画の遂行にあたって、 補完計画関係予算およびその他のゼーレによる私物化を見過ごすわけにはいきませんでした」

ゲンドウは両手を顔の前に組んでいたが、 組んでいた腕を外して自分の腕時計を見るふりをする。
細かい時刻はどうでもいいことだったから。

「今から 15 分前、 この報告書の適当だと思われる箇所を抜粋して各委員の本国に配らさせていただきました。 次回の委員会の会合にて、あなたがたの誰が、まだここに席があるのでしょうな?」

あまりに挑戦的なもの言いに鼻白む委員を後目にゲンドウは立ち上がった。
キール議長が止めるのも聞かず退席。
会議室を出る瞬間、ゲンドウはかすかに嘲った。 議長に見えるように。
ふ。キール議長。あなたの席はないでしょうな‥‥


アスカの頭をくしゃくしゃにしながらレイはささやいた。
一応学校の中ではあるので。

「昨日、大変だったんだからね。 二人で五体のエヴァを相手にしたんだから」
「だから謝ってるじゃない。ミサトが悪いの。ミサトが。 使徒がきたんならさっさと呼べばいいのよ。 妙なとここだわっちゃってさ」
「そうね。人手が足りないんだからそんな余裕はないわ。 アスカも余計なことして人手減らさないでよ」

余計? アスカの目が真剣になり、レイの手が止まる。

「あんたどこまで知ってるの?」
「私がユイさんと仲良しだってこと忘れたの? だいたいのことはきいてるわ」
「ってシンジ撃ったことも?」
「そんなことまでしたの? 葛城三佐、怒るのも当然ね ‥‥ 呼ばなかったのはあたりまえよ ‥‥ 頭冷やせってことでしょ ‥‥」
「あんた、かまかけたわね!」
「今のはひっかかる方が悪いわ。 碇君に怪我の様子なかったけど、外れたの?」

レイは瞬間、目をシンジに向けるも、 シンジが特に怪我した様子がないようなので訊いてみた。

「悪かったわね、下手で ‥‥」

本当のことを言う気はないが、自分の腕を誤解されるのも腹がたつ。 しかし仕方がない。レイの首にまわした腕に力がはいる。
怪我のことは言えないものね ‥‥
アスカが横目でシンジを見ると、何かシンジの沈んだ顔が目に止まった。

「どうしたのアスカ ‥‥ ちょっと腕きついわよ」

素直に外すアスカ。

「なんかシンジおかしいわよ」
「ん。なんか考え込んでる」
「いっつもわかりきってること考えつづけてるのよねぇ」

アスカがひとり頷くのを見て、レイは微笑んだ。

「あなたじゃないもの」
「あんただって、私不幸です、って顔で泣いてたくせに」

そういうレイをアスカが睨む。

「アスカだって ‥‥‥‥ こういうの、やめない?」
「何かどんどん不幸になっていく気がするわね。やめよう」

いまさら終ったことをつつきあってみても。 過去はかえようがない ‥‥‥


ゲンドウが退席したあと、会議室はしばらく静寂を保った。
まず中国代表が口火を切る。 中国は槍回収計画に関与しておらず、槍のことは聞かされていなかった。

「他のことはともかく、槍の回収に金をつぎこむとはどういうことかね、議長?」
「碇はゼーレを裏切った。補完計画をも裏切るやも知れん。 奴の軍事力は強大だ。槍なくして奴をおさえることはできん。 これは必要経費なのだよ」

キールは代表を見据えて平然と答えた。

「しかし、‥‥ 月軌道にロケットを打ち上げる力は今のアメリカにもヨーロッパにもないはずだぞ。 ましてやその軌道上の槍をもちかえるなぞ。 新規に開発するつもりなのかね。 そんな金がどこにある。 ネルフにつぎこむだけで青息吐息の国がいくつあると思っている!」

カナダ代表が口を添えた。回収計画そのものは知っていたが、 計画に反対し続ける力はない。話が出たことをちょうど良い機会として捉える。

「我々には時間が無い。槍の回収にまで金をつぎこむ余裕はないし、 本国の説得も難しい。補完委員会はゼーレの支援なくしては機能しないが、 しかし、もはやゼーレは各国の支持を得られまい?」

カナダ代表はゼーレの息のかかったと思われる委員達を見回した。
ドイツ代表が反論する。

「諸君。この報告書が正しい、と誰が決めたのかね。 今までにさえ碇は情報操作をし、あったはずの使徒襲来をごまかしてきた。 そのような男の報告を、 いつのまに諸君はそのまま鵜呑みにするようになったのか?」
「では、これは事実に反する、というのか? 碇が我々の本国に配ったというのなら、 当然、その証拠、証人くらいは用意してあるのではないか?
‥‥ よしんばそれが捏造であるにしても」
「そうだ。それに槍のことは事実なのだろう? 議長が先程そうおっしゃっていた」
「槍のことは事実だ、が他のことについての証人はいないはずだな」

キール議長は言い切った。

「明日、この件について再び協議する」

しかし、議長を除くゼーレ関係者の間では次の議長が誰になるのか、 の綱引きが視線で行なわれていた。
この件を通してゼーレの補完委員会の支配力は確実に低下する。 すでに非ゼーレの委員である中国、カナダが大きな声で主張する所に、 影響力の低下が見て取れる。
この責任をすべてキール議長にかぶせることが暗黙の了解事項となっていたから。


「その節はご迷惑をおかけしまして ‥‥」
「はい」
「いえ、そのようなことは」
「そんな ‥‥ そうですか。はい」
「では、失礼します」

ユイは電話を切った。頭の中を電話の声が反芻する。

‥‥‥‥ しかし証人は消させてもらうよ ‥‥‥‥

せっかく助かった加持リョウジさん。消すなんて ‥‥
ミサトに連絡してみる。彼の現状をどのくらい知っているのだろうか?

「‥‥ 加持リョウジさんから最後に連絡があったのはいつごろ?」
「‥‥ 3,4 ヶ月前になるんじゃないかな」
「連絡とりたいんだけど居場所想像つく?」
「彼、亡くなったわ。どうしたの?」
「そう。それなら、いいわ。お手数かけてごめんなさい」

知らせなくていい、かな ‥‥
あの人達がこの手のことで失敗するはずないし ‥‥
生きてること知らないなら言わなくていいかしら ‥‥
悲しみが二度になるだけね ‥‥
しばらく天を仰いでいたが、ゲンドウにも連絡を入れておく。
ただ、ゼーレのやることはお互いにだいたい分かっていることであったから、
彼が消されるのは当然のこと、
という計画になっているのだろうことは想像がついた。

「そうか。問題無い」

ユイは一応反論してみる。

「おおありです! 隠れてもらわないと。 すくなくとも新市に居てくれないと守り切れません ‥‥」
「ゼーレ内部でも議長への批判が高まっている。彼の役割はもう終った」

冬月が電話を代った。

「ユイ君。しかし君が動くわけにはいかんだろう。 君までゼーレからはっきり睨まれては我々も困る。 まだまだゼーレとのパイプは残しておきたいからな。 彼については私がなんとかしよう」

電話を切った後、ユイは力なく椅子に腰を降ろした。
自宅の留守番電話にいれておく。

「しばらく研究所に泊り込みます。だから ‥‥」

ゼーレの力が弱まる代償に、ネルフは加持リョウジを失う。
事がそれだけで終るとは思っていないユイは、 話がそこで止まるよう、いつでも動けるようにしておかねばならなかった。


カチャ

「はい葛城です」
「俺だ」
「加持! あんた、あんた ‥‥ 生きてたんだ ‥‥」
「死んだと思ってたのか? それは悪いことしたな ‥‥ もう隠れてる必要なくなったから、連絡いれたんだが ‥‥」
「どういうこと?」
「ネルフがゼーレと訣別したからな。俺は司令の裏切りの象徴だ。 いままでは隠れてないとちょっとまずかったから。 ゼーレとは訣別してもネルフは委員会とは訣別するわけにはいかないからなあ。 予算は委員会から出ている訳だし。
司令は委員会からゼーレをパージするつもりでいるらしい。 今回、委員会に提出された報告書はゼーレを告発する内容らしいぞ。 補完委員会にも反ゼーレな委員は居るし、そいつらのための俺は証人さ。
証人が居る、ことだけはアピールしなきゃならんのでな、 生きてることだけはもういいだろう、となったわけだ」
「じゃ、あんた、命狙われるんじゃないの?」
「前ん時も今回も司令は見捨てるつもりだったそうだがな、 副司令と取り引きしてな。こうしてまだ生きているわけ。保安局の護衛つきだ。 VIP 待遇だぞ。いいもんだなあ、命の心配しなくていいというのは。
でな、うっ、‥‥」
「加持君?」

かすかにガラスの割れる音が電話線を伝わる。

「すまん葛城。あの言葉言えそうにない ‥‥‥ ごめん、な ‥‥‥
シンジ君に、‥‥ 畑のこと頼んでおいてくれないか ‥‥‥」
「加持君? 加持君! 加持君!! 加持君 ‥‥」

ツー

電話が下に落ちた音、は電話線を伝わらなかった。すでに切れていたので。


綾波は言う。
父さんは、僕を大事にしていた、と。

父さんは、僕を呼びつけ、いきなりエヴァにのせ、
トウジを傷つけさせた。

綾波、レイ。父さんが綾波を大切にしたのは、母さんのクローンで、
母さんの再生に必要だったから?
もし今も綾波を大切にしているのでなければ ‥‥
綾波はそれでも、父さんを信じるのだろうか?
いや、信じていたい?
父さんのことは、信じなくていい?

父さんは帰って来ない。
母さんは教えてくれない。
ミサトさんは冷たい。
綾波は父さんを信じろ、と言い、
アスカは断言して突き放す。
‥‥ 誰も僕を大事にしてくれない。
恐いの我慢して、嫌なの我慢して、苦しいの我慢して戦った。
‥‥ どうして僕を大事にしてくれないの?

僕は死にたくない、誰も死なせたくない、誰にも死んで欲しくない。
‥‥ でもカヲル君を殺した。

僕はなぜエヴァから降りたの? ‥‥ トウジを傷つけたから。
僕はどうしてまたエヴァに乗ったの?
‥‥ 誰も傷ついて欲しくなかったから。
じゃあ、僕はどうしてカヲル君を殺したの?
‥‥ カヲル君は使徒だった。殺さないとみんな死んじゃうから。
じゃあ。トウジを傷つけたのは正しかったの ‥‥ そうしなければみんな死んでいた。
袋小路。

・・・

いっつも思うんだけど。よくそんなに安らかに寝てられるわね。
静かなシンジの部屋にそろりと入りながらアスカは感心した。

「んー、今日はちょっと違うな。
うなされるような夢でもみてる時はさっさと起こした方がいいわね」

いずれにしても、さっさと起こすのではあるけれど、適当に理由をつけてみる。
持ってきた銃を取り出してアスカはちゃんと照準をつけて引金を引いた。
布団に当てるのはちょっとまずいからね ‥‥

「わあ、‥‥ なんだ ‥‥ アスカ ‥‥」

とりあえず悪夢からは醒めたように見える。

「起き、なさい」

アスカは言葉を区切りながら、シンジの顔に向けて再び水鉄砲の引金を引いた。

「な、なんだよ、アスカ、冷たいじゃないか ‥‥」
「どう? 起きた? 本物よりいいでしょ?」

瞬間、二人とも顔色がかわる。空気が重くなり、アスカはうなだれた。
もっとも、このために持ってきたおもちゃではあった。

「ごめん。まだ、シンジには謝ってなかったね ‥‥」
「いいよ」

顔をそむけてシンジも答えた。ちょっとしたことを思いついたシンジ、 起き上がりながら声をかけつつ、水鉄砲をアスカの手から奪い、

「あ」

アスカの顔にむけて水をかける。

「きゃ!」
「これで、あいこ。じゃ、起きるから」
「何すんのよ! この、バカシンジ!」
「‥‥」
「シ、シンジ?」

布団のシンジの腹らしきところめがけて全体重を乗せて落したアスカの肘は、 見事に、あざやかに、みぞ落ちに決まっていた。


アスカに水をかけた時点で、 本当にあいこのつもりでいたシンジは抗議の声をあげ続けていた。

「いったー ‥‥」
「だから、悪かった、っていってるでしょうが。
こうして朝食の用意までして。いつまでも痛がってるふりしてるんじゃないの!」
「いちいちつっかかるなあ ‥‥」
「で、何みてんのよ」
「アスカって料理できるんじゃないか」

ぼそっとつぶやくシンジ。
アスカは作りかけの目玉焼きのフライパンをほおりだしてシンジの所へ。 テーブルを叩く。

「あんた、あたしのことバカにしてるの! 普段、夕食どうしてると思ってるのよ?」
「だっていっつも朝こっちに食べにくるじゃないか!」
「それはシンジを叩き起こした瞬間の顔がおもしろいからよ」
「しかも僕が作ってるし」
「ここはあんたん家。勝手に触るわけいかないでしょう」
「今やってるじゃないか。いっつも僕がやってんだし、
たまにはやってくれたっていいじゃないかぁ ‥‥」
「だから今やってんでしょうが」

なんとなく論理がおかしいように思うシンジだが勢いに負けた。

「‥‥ で、フライパンいいの?」

もどってフライパンの中を覗く ‥‥ アスカは顔をしかめた。

「‥‥ よくないわ ‥‥ これあんたの分ね」

反論の間も与えず、 フライパンの中から取り出して皿に入れ、シンジに渡した。
シンジに渡した分で朝食の準備は全部おわり。二人は席につく。
シンジが目の前の皿を眺めていると、

「‥‥ それ、ダメ?」

アスカが尋ねた。すこし心配げな様子はシンジにも伝わる。

「ちゃんとかたゆでの目玉焼きになってるよ」
「‥‥ 半熟にするつもりでやってたのよ」

みればアスカの分はきれいな半熟目玉焼きになっていた。

「‥‥ 僕はこっちの方が好きだな」
「‥‥ 無理しなくていいわよ。 手を放した方をあんたに渡したあたしも悪いんだから。 そういうことを言ってると、次から全部かたゆでにするわよ」
「‥‥」
「そう」
「えーと。あ、そうだ、こんなに上手いんなら、 なんでミサトさん家に居た時にやってくんなかったんだよ」
「ミサトが当番の時はあたしがやろうかとも思ったわよ」
「やってくれれば良かったのに。ペンペンなんか一回失神したんだし」
「あの女にはたまにはやらせないと、ほんとに進歩がなくなるじゃないの。 そんなこともわかんないの?」

ミサトさんは結局ほとんどレトルトだったじゃないか ‥‥
口にはださないシンジ、かわりに。

「アスカのは進歩しなくていいの?」
「あたしは上手いからいいの! それに今やってるし。 ミサトはぜったい今はコンビニのレトルトしか食べてないわよ。かけてもいいわ」
「そうだね ‥‥ でも僕の担当の時にすこし代ってくれてもよかったじゃないか」
「あんたの担当の時って要するにほとんど全部でしょうが。 そうね ‥‥ シンジがやるって分かってる時にわざわざ、かわりに作ろう、 とは思わなかったわね ‥‥」
「?」

シンジは首を傾げた。

「褒めてんのよ。一応」

そっぽを向いたアスカを見てシンジは微笑む。

「‥‥ 今日、母さん帰ってこないから、夕飯は自分で作ることになってるんだけど、 ストライキするっていったら作ってくれる?」
「何よそれ?」
「ひとりじゃ淋しいから、
夕食いっしょに食べよう?
って言ってるんだけど」
「さっきの言い方からすると、あたしに作れって言ってるようね」
「だめ?」
「誰があんたなんかのために!?」

シンジが上目使いに訊くと、アスカはテーブルに両手をついて即答した。

「あ、肩が痛いな」

シンジが痛そうに左肩を押えてつぶやいてみせると、 アスカは呆れた表情を作った。

「‥‥ わかったわよ。そんな下手な演技、みせられる方がたまんないわ。
私ん家にくるわけね? 7 時でいい?」
「こっちじゃだめなの?」
「調味料の位置も分かんないわよ」
「そうか。うん。わかった」

シンジの笑顔。朝の寝顔と比べれば段違い。アスカは口の中でつぶやいた。

「ま、いいか」

夕食をひとにつくったげたことはないな... と、すこし怯んではいたのだけれど、
そんなことを口に出すアスカではなかった。


先に食べ終ったアスカは頬肘ついてシンジを見つめていた。 またシンジの顔がすこし陰っている。

「シンジ」
「ん」

シンジはパンをくわえたままアスカを見た。

「ま、いいわ。あんたから言うでしょ」
「なんだよ。そういうのやめてよね。気になるじゃないか」

むりやりパンを飲み込んでシンジは抗議する。

「あんたが言う気にならなきゃどうしようもないわ。
ほら、食べたんなら学校行くわよ」

抗議を軽くいなし、 アスカは立ち上がってシンジの脇を通った時におもいっきりシンジの背中をたたいた。

「‥‥ どうでもいいけど、‥‥ 痛いなあ ‥‥」

二人が外へ出てみれば、珍しく涼しい。 おだやかな朝だが、シンジの心は若干沈んでいた。昨日から。

「アスカ」
「ん?」

アスカはようやく喋る気になったらしいシンジの顔を覗き込んだ。

「ひとつ訊いていい?」
「何?」

アスカの何故か嬉しげな様子にシンジは少し赤くなる。かわいい。

「あ、いや」

顔色を見られないようシンジは顔を背ける。

「なによ、それこそ気になるじゃないの」

シンジの正面に回り込むアスカ。シンジは仕方なしに言葉を継ぐ。

「えーと、アスカが言う気にならなきゃどうしようもない、んだっけ?」
「あたしは別に話はないわよ! あんたがあるの!」

ごまかし方が下手! アスカは呆れつつ決めつけた。
人さし指をシンジの鼻先に突き付けて。


委員会で妥協が成立する。
ゼーレ内部の支持を失ったキール議長の辞職。
委員会ではなおゼーレ過半数を維持するも、 議長に非ゼーレのカナダ代表が就任。かわりに槍の予算が通る。

「ゼーレにさえはむかう碇を、ゼーレなき補完委員会がおさえられるわけがない。 槍の予算は承認しよう。碇を手中にすれば、ゼーレを、 ひいては世界をおさえることができる」
「皮肉なものだ。このところネルフには金があまりかかっていない。 だからこそ、槍に金がまわせるわけだ」

これが金がないと言い続けていたカナダと中国の最初の発言だった。


「もう使徒はこない。使徒を殲滅し、お父さんのかたきはとった。 ネルフにいる必要はない」

ミサトはあらためて形見となった加持の銃をとりあげた。

「補完計画。加持の遺志をつぐの。 そう決心してたはずよ。 新市を見せつけられてあたしも呆然としていたのね」


「証人が殺されました」
「保安局の護衛は何やってたの!」
「全員、死亡しました。‥‥ 残念です。
彼はその時、葛城三佐に電話していたようですが、」

ユイは電話を取り落とした。最悪のケース。
加持リョウジさん ‥‥ あなた、なんでそんなタイミングで電話なんかしてたんです ‥‥
内心で叫ぶ。
わざわざ死ぬ直前に葛城さんに連絡いれて、なにも彼女をたきつけなくても ‥‥
もう一つの方だけでも彼女は走り出すかもしれないのに ‥‥

ユイは研究所の奥へ目を移し、
‥‥ あなた。葛城さんなしでネルフはやっていけますか?
旧市に向かって問いかけた。
確かに作戦部の仕事はほどんどおわりを告げていたのだけれど。


次回予告 緊急避難! 人類補完計画は何を何処まで許されるのか? ミサトがネルフから離反する。 次回、カルネアデスの舟
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