8888Hit記念 〜 「浩之とあかり」番外編 〜


木漏れ日の下で





 この前までは綺麗で清楚な花一色だった桜の木々も、まぶしい程の緑をたたえた若い葉をいっぱいに生い茂げらせてすっかり衣替えを完了させている。
 これから夏に向けてどんどん暖かく、暑くなっていく予感。何だか嬉しくて小躍りしたくなる気分。
 私はこの季節が一番好きだ。桜の花咲く季節も好きだけど、それまでモノトーンに近かった周りの風景が一変して若々しい雰囲気に変わっていくのを見ていると、自分の中が新たな希望と喜びで満たされる感じがする。
 この季節は笑顔で迎えたい。毎年思う事。そして今年も...ううん、今年はそれ以上。
 去年は悲しい事があった。あの時は胸が張り裂けそうだった。私はここで考え続ける事しか出来なかった。もう駄目なのかなって本気で思った。でもそれはほんの少しの間だけ。私に与えられたつかのまの試練。そして今は...
 私は桜の若葉から漏れる光に手をかざしてみた。もう夕刻近くなのに日の光は相変わらず力強い。キラキラと木の葉からこぼれる様な光のまぶしさが何だかとっても嬉しい。
 かざした手に感じる暖かさと輝きが何だかとっても楽しくて、私はいつまでもそうしていたい気分だった。

「おーい、何やってんだ?置いていくぞ」

 その声でふと我にかえる。浩之ちゃん。私の大切な人。私を選んでくれた人。
 学生カバンを小脇に抱えて両手一杯にスーパーの袋を下げている。そういう私も浩之ちゃん程じゃないけど、同じスーパーの袋を下げたお揃いの姿。二人とも学生服姿だから一寸恥ずかしいかなとも思うけど、浩之ちゃんは全然気にしないでお買い物に付き合ってくれるから凄く助かる。
 今日だって明日の祝日を利用したハイキングに必要な買い物だけの予定が「どうせなら不足している日用品も全部買っちまおうぜ」って率先して荷物運びまでしてくれる。
 でも、浩之ちゃんはこういうの恥ずかしくないのかな?いつも堂々としているから何となく聞けないでいるけれど。でも、そんな事は考えなくていいのかもしれない。だって、浩之ちゃんと一緒なら嬉しい気持ちの方が強いもの。

「うん、もう一寸だけ」

 私は少し我が儘を言った。何で今日はこんなにも木漏れ日が気になるんだろう。普段と特に変わらない、いつもの通学路、いつもの公園、いつもの風景、そして、いつも一緒に居る大切な人。
 そうか、もう一年経つんだね。私と浩之ちゃんが結ばれて一年目の同じ季節。いつも側に居ながら気持ちを伝える事が出来なくて、凄く悩んでいた去年の今頃。
 あの時、何で私は待つだけだったんだろう。なんで私の方から浩之ちゃんに自分の気持ちを伝えなかったんだろう。もし浩之ちゃんが私を選んでくれなかったら、今の私はどうなっていたんだろう。

「何か見えるのか?」

 浩之ちゃんが側に寄ってきた。そして私の肩に手を回して顔を横に並べる様にくっついてくる。浩之ちゃん少し大胆。思わず自分の顔が赤くなっていくのが分かる。

「何も見えねえぞ。何か居るんじゃないのか?」
「え、ううん。そうじゃないの。木漏れ日が何だか嬉しくて」
「木漏れ日が?」

 スッと私から離れると、浩之ちゃん不思議そうな顔をしている。何か変な事言っちゃったかな?でも嬉しかったのは本当の事。明日のハイキングが楽しみだからかな。それとも浩之ちゃんとの大切な日々を一年間過ごせる事が出来たからかな。きっと、そういう事全て含めてそうなんだと思う。
 浩之ちゃんはどう思っているんだろう。私たち、もう一年経つんだよ?浩之ちゃんにとって今の私ってどんな存在なんだろう?
 聞きたくても何となくもどかしくて、浩之ちゃんの方から言ってくれないかななんて思ってしまう。いけない、いけない。これってさっき私が反省した事。ちゃんと言葉で伝えなければ。
 そう思っていると、浩之ちゃんは私の手からスーパーの袋と鞄を取り上げた。

「浩之ちゃん?」
「何だかよくわかんねーけどよ、ゆっくり見てていいぜ。そこのベンチに荷物置いとくからよ」

 一瞬ニコッとすると、そのままスタスタとベンチの方に歩いて行った。両手に一杯の荷物からはみ出ている長ネギが歩く度にピョコピョコ揺れて何となくユーモラスに見える。
 あ!そのベンチって昨年私が座っていた...浩之ちゃん、わざと?ううん、そうじゃないよね。偶然だよね。やだ、何で今日に限ってこんなにも色々と気になるんだろう。
 やっぱり一年経つからかな?なんだか不思議。自分の事なのに、自分で分からないなんて。
 そんな事を考えていると、浩之ちゃんが急に大声を上げた。

「あかりー、何が飲みたいー?」
「え?え?」
「ジュースだジュース。いつものミルクティーでいいな?小さい奴」
「う、うん、それでいいよ」
「よっしゃ、買ってくるから一寸待ってろ」

 そう言うと少し離れた自販機まで早足で向かう浩之ちゃん。クスッ。あんなに大声出さなくても聞こえるのに。
 そんな姿を見送りながら、私はもう一度木漏れ日を見上げた。相変わらずそれはまぶしく光り輝いている。
 これって、自分にとって何かの節目なのかな...
 手をかざしながらまるで木漏れ日に語りかける様に、私はそんな事を思っていた。



◇      ◇      ◇



「なんだ、もういいのか?」
「うん、もう十分見たからいいの。急に立ち止まったりしてごめんね」
「別に謝る事じゃねえよ。でも、それならこれ買ってくるまでも無かったな。まあいいや、ほれ」
「あ、ありがとう」

 あれから浩之ちゃんが戻る前にベンチに腰かけていた私は、この位置からも見える違う桜の木漏れ日をボーっと眺め続けていた。そういえばあの日、そうした景色すら目に入らなかったっけ。どんなに奇麗な景色であっても、そんなものは私にとって何の意味も持たなかった。ただ、夕日の赤い色が強い印象として残っているだけ。それすら後僅かのうちには沈んでしまう。そんな、はかないものだった。

「座っていいか?」
「うん」

 浩之ちゃんは私の隣に寄り添う様にして腰を降ろすと、背もたれながら足を組んだ格好でブラックの缶コーヒーを飲みだした。私もミルクティーをカコッと開けて口を付ける。
 つかの間の静寂。浩之ちゃんも私も黙ったまましばらくズズッとしている。
 ちらと見ると、浩之ちゃんはすっかりリラックスした感じでぴったりと私の横にくっついてる。その部分から浩之ちゃんの温もりが伝わってくる。いつもの事だけど、やっぱり嬉しいな。
 他の人から見たら、やっぱり私たちって恋人同士に見えるのかな?友達だったらこんなにピッタリくっついていないものね。もし自慢していいんなら「この人、私の恋人なんです」なんて言ってみたい。でも、やっぱりそんな事恥ずかしくて言えないけど。

「お前、今日なんか変にボーっとしているけど、何かあったのか?」

 いきなりでビックりした。自慢したいなんて考えていたのが分かっちゃったのかな?そんな訳無いと思うけど。でも、浩之ちゃん変な所で勘が鋭いし。こんな事知られたら「何考えてんだお前は!」なんて言われた後にペン!ってされちゃうものね。

「ううん、特に何も....というか、もう一年経つんだなあって思ったの」

 さっき思った事。そして、浩之ちゃんに聞いてみたかった事。やっぱり質問は出来なかったけど、私はそんな事考えているんだよって遠まわしに伝えてみる。一寸ずるいかな?

「一年...そうか。もうそんなになるんだな」

 そう言いながら浩之ちゃんは足を元に戻すと深く座り直して背中を丸めた。缶コーヒーを両手に持ちながら何か考えているみたい。
 ..なんだか神妙な面持ち。どうしちゃったの?どんな事を考えているの?

「...あかり...お前..今、幸せか?」

 ..え?..ええ?今幸せかって言った?浩之ちゃんそう言ったの?
 それって、私が幸せかって事だよね?

「い、いや何でもねえ。大した事じゃねえんだ。何となくな。別にただ何となく言ってみたかっただけでな。だからいいから忘れてくれ」

 慌てる様に向こうを向いてしまった浩之ちゃん。クスクス、なんだかおかしい。そんなに気にする事無いのに。でも、浩之ちゃんは浩之ちゃんなりにこの一年間、色々考えてくれたんだよね。その事が今の一言で凄くよく分かる。ごめんなさい。遠まわしにこんな事聞いちゃって。

「幸せだよ」
「え?」
「私、幸せだよ。この一年、浩之ちゃんにこんなに愛して貰えて、すごく幸せ」
「そ、そうか。そりゃあ良かったな...」

 ずっと向こうを向いたままの浩之ちゃん。クスクスクス。今浩之ちゃんの顔を覗きに行ったら怒るだろうな。それでも何だかそうしたい気持ちが沸き起こる。
 でも、これ以上はやめておこう。浩之ちゃんのそうした気持ちがはっきり聞けただけで嬉しいもの。これ以上困らせる訳にはいかないものね。
 私は話しを逸らす事にした。

「浩之ちゃん、お話しは変わるけど、これジュースのお金ね。はい」

 そう言ってお金を渡そうとすると、浩之ちゃんはようやくこちらを振り向いてくれた。そして私のその手を軽く押し戻す。

「いいって。奢りだ奢り」
「え、でもいつもじゃ悪いよ」
「いいんだよ。小遣いだってお前から貰っている様なものじゃねえか。この位は大した額じゃねえよ。いいから取っとけって」
「う、うん」

 確かにそうなんだけど...浩之ちゃん、お小遣い足りてるのかな?
 私が浩之ちゃんに月々のお小遣いを手渡す様になってからもう半年になる。経緯は色々あったんだけど、私が浩之ちゃんのお夕食を毎日作りに行く様になってから、そうした月々の生活費は全て私の方で管理する事になった。

「あかり、お前に全て任す」

 そう言って、はじめは凄く渋い顔をしていた浩之ちゃん。
 それまでは材料費という事でそのつど浩之ちゃんから貰っていたんだけど、月末になると次第に足りなくなって私のおこづかいから補充する事が何回かあった。私はそれでも全然構わなかったけど、浩之ちゃんがそれを凄く嫌がって結局は今の様な形になった。
 実は浩之ちゃんのお母さんから頼まれたっていうのもあるんだけど。
 そうして引き受けたはいいけれど、事は結構責任重大。私は浩之ちゃんが不便しない様に出来るだけ材料費を切り詰めて月々自由になる金額が多くなる様に努力した。そうした事は私の得意技。スーパーでの特売を狙って安くて良質な材料を多く仕入れ、一気に作り置いて冷凍パックにしたり、出来合いのものはなるべく買わない様にして、作る手間を惜しまない様にしたり、そうやって毎日の食費を出来るだけ切り詰めながらも栄養価の高いメニューをこしらえていく。
 それを一ヶ月やって大体の食費が分かったから、次の月からはその分だけ引いて残りの全額を浩之ちゃんに渡した。その時の驚いた様な顔、今でもよく覚えている。

「おい、こんなに貰って後は大丈夫なのか?」
「うん、平気。大丈夫だよ。これだけあれば後は何とかなるもの」

 思わず「やったー」って感じと誇らしい気分で、ニコニコしているのが自分で分かった。
 そうした私の顔をじっと見ていた浩之ちゃん。黙って私の渡したお金の中からいくらか差し出してきた。

「バイト代だ」
「え?いいよそんなの。そんなつもりじゃないもの」
「いいから取っとけよ」

 そうやって私の手にねじりこむ様にして渡してくれたそのお金、今は密かに私の『へそくり』になっている。もちろん、それは何か必要になった時の浩之ちゃんの為のお金。それでもあれから浩之ちゃん無駄使い減ったみたいだし、毎月バイト代と称して渡してくれるお金も順調に貯まっているから出番は今の所無さそう。
 出来れば、ある程度まとまったら浩之ちゃんと二人っきりの旅行資金にしたいな〜なんて、一寸贅沢かな?
 それにしても、私って結婚もしていないのにもう『へそくり』なんかしてるんだよね。なんだか本当に奥さんになったみたい。奥さんかあ。そうなれたらいいなあ。でも、私はどんな奥さんになりたいんだろう。旦那さんの帰りをじっと待っている専業主婦としての奥さん?それとも共働きとしての奥さん?浩之ちゃんだったら専業主婦に徹しろって言うかな....

 そんな時、ある事が私の脳裏を過った。それは今の私にとって凄く大切な..
 そうか、ようやく分かった...ずっと引っかかっていた事...自分が知りたいと思っていた本当の事が。

「なーに考えているんだ?お前は」

 ビク!
 気付いたら目の前に浩之ちゃんの顔がドアップ。び、びっくりしたー。
 心臓が一瞬にしてドキドキいってる。私ったらまたボーっとしちゃったんだ。

「本当に変だなお前。熱でもあるんじゃねえか?」

 そうやって私の額にピタッと手を当てる。ゴツゴツしているけど温かい、浩之ちゃんの手。やっぱり大きいな。ガバッとされたら、私の顔なんて全部隠れちゃうんじゃないかな。
 そんな状況に思わずポーっとしてしまう。

「別に熱があるって訳でもねえなあ。まあ、いつもの事か」

 そう言って浩之ちゃんは私から手を放した。
 そう、少し前まではやはりいつもの事だったんだと思う。今日に限って何でこんなにも木漏れ日に見入ったり、浩之ちゃんの事がいつも以上に気になったりしたのか、自分では全然分からなかったもの。
 でも、今、ようやく分かったの。これってやっぱり節目だったんだ。よかった、その事に気付けて。浩之ちゃんが居る、今この場所で。

「さてと、そろそろ行くか。今日の夕食もうまいもの頼むな」

 そう言って浩之ちゃんは腰を上げた。お尻の所をパンパンとする浩之ちゃんの手が目に入る。さっき私の額に当ててくれた手だ。
 私はそれを両手で包む様にして、そっと掴んだ。

「おいおい、何やってんだよ?」
「もう少しだけ...ここでお話ししてもいいかな?」

 私は浩之ちゃんを見上げながらそう言った。先程よりより夕刻が近くなり、日差しも次第に赤みを増している。
 そんな中、浩之ちゃんの「どうしたんだ?」という表情も赤く染まり始めている。何だかそれが凄く印象的に見えた。



◇      ◇      ◇



「で、話しって?どうせオレの家に帰ってからもまだ一緒なんだぜ?ここでなきゃいけない話なのか?」
「う、うん、出来ればここの方がいいの」
「ふーん。まあ、確かにここは景色もいいし、ムードとしては最高だ。で、何なんだ?こうした場所で、オレに愛でも語ってくれるのか?」

 そう言って笑う浩之ちゃん。ねえ、もう忘れちゃったの?去年の今ごろ、浩之ちゃんがここで言ってくれた事。あれ、凄く嬉しかったんだよ。だからここに居たかったの。そして、色々聞きたかったの。私にとっては忘れる事の出来ないこの場所で。

「浩之ちゃん、あのね...私たち、もう三年生だよね?」
「あ?ああ、そうだな」
「それでね、浩之ちゃんは高校を卒業したらどうするの?進学?就職?」
「高校卒業?うーん、まあ進学だろうなあ。親から大学位は行けって言われるだろうしな。まあ、行くとしたら近くの総合大学じゃねえか?一寸頑張れば隣街の方がレベルは高いけどな。何だ、三年生になったから早速進路の相談か?」
「ううん、そうじゃないけど...やっぱり、そうなのかな..」
「はあ?」

 浩之ちゃん、あきれた顔してる。このままだとまた「帰るぞ」って言われるかな。でも、やっぱり今聞いておきたい。こうした事って、時期を逃すとまた聞けなくなっちゃうもの。

「で、でね。浩之ちゃん、大学を卒業をしたらどうするの?」
「ええ?お前、大学は普通の学部だと四年間あるんだぜ?今からそんなの決められるかよ。大体入った大学によっても就職先なんて変ってくるじゃねえか。大学の専攻すら決めてねえのにそんなの分かる訳ねえよ」
「そ、そうだよね...」
「何だ何だ、どうしちゃったんだよ?もしかして、そんなに色々聞くって事はお前の方で何かしら進路を決めたからじゃねえのか?それなら聞いてやるぜ。ほれ、言ってみな?」
「う、うん....」

 私は言葉を続けようとして思いとどまった。その前に、もう一つ浩之ちゃんに聞きておきたい事があるの。これは浩之ちゃんにとってきっと大事な事。そしてそれは私にも...

「その前にもう一つだけ教えて。浩之ちゃんの夢ってなに?」
「夢?夢ねえ。普通免許が欲しいとか車が欲しいとか、そういう事でもいいのか?」
「ううん、そういう事じゃなくて、将来の夢。こうなりたいとか、こういう職業につきたいとか、そうした夢」
「うーん、そうした夢ねえ....」

 浩之ちゃん考えている。でも、そんなに考えなければ出て来ないものなの?浩之ちゃんは自分の将来に対する夢って持っていないの?
 やがて、あっさりした口調で浩之ちゃんは言った。

「わかんね。ガキの頃はあったかもしれねえけど、忘れちまった。まあ雅史ならJリーグのサッカー選手になりたいとかだろうけどな」
「そ、そう...それなら、子供の頃の夢って?」
「あのなー、もういいだろう?大学だ何だってんなら身近な問題だから気持ちは分かるけどよ、オレのガキの頃の夢なんて聞いたってしょうがねーだろうがよ。もういいから帰ろうぜ?聞きたけりゃ夕食の時にでも...」
「お願い!今教えて。浩之ちゃんの夢の話し、今聞きたいの」

 いきなり言葉を遮って、浩之ちゃん明らかにムッとしている。何なんだよって顔している。ごめんなさい。でも、でも本当に聞きたいの。今、浩之ちゃんの口から聞きたいの。
 深いため息と共に、浩之ちゃんは再び考えてくれた。まるで遠くを見つめるかの様に、さっきまで私が見ていた木漏れ日に顔を向けている。
 私は黙ってその横顔を見つめるだけ。それはかすかな不安と共に、それを上まわる期待を持って彼の言葉を待っている。
 やがて、ゆっくりと浩之ちゃんは口を開いた。

「...オレは..ガキの頃、パイロットになりたいと思っていた」
「パイロット?飛行機を操縦する人の事?」
「ああ、そうだ、オレはそのパイロットになりたかったんだ」

 浩之ちゃん、ようやく思い出したって顔で、まるで子供の様な笑みを浮かべている。そんな表情のまま言葉は続いた。

「パイロットと言っても旅客機とかのじゃない。オレは零戦のパイロットになりたかったんだよ」
「レイセン?レイセンって何?」
「知らないのか?零式艦上戦闘機。第二次世界大戦の時、日本海軍の主力だった一人乗りの戦闘機さ。今でも結構有名だろ?」
「あ、もしかしてゼロ戦の事?」
「ゼロ戦というのは戦後の誤った呼び方さ。正式には零戦と言うんだ。紀元2600年である昭和15年に正式採用されたんだけど、紀元末尾のゼロ(0)を取って零式と名付けられたんだ」
「ふーん」
「全装備で約2,600Kg、最高速度約560Km/h、胴体に約500リットルと、増槽という機体外に付ける補助タンクが約300リットルの計800リットルの航空燃料を搭載出来て航続距離は3,000kmを越える性能だったそうだ。何よりも旋回性能に優れていて、開戦当時は熟練搭乗員との組み合わせもあって世界でも無敵の強さを誇る戦闘機だったと言われている」
「......」
「オレはその話しをお袋のじいさんから聞いて知っていたんだ。搭乗員じゃなかったけど航空機の整備士だったとかで、繰り返し繰り返しその話しをしてくれたよ。零戦を写した写真も持っていて、それを見たオレは『いつかは乗ってみたい!』なんて本気で考えていた。今の世じゃかなう訳無いのにな。その影響からか、ガキの頃は仲間との間で戦闘機ゴッコなんてやっていたっけ。お前、覚えていないか?」

 そういえば覚えている。男の子の間だけの遊びだったから私は入れさせて貰えなかったけど、「敵機発見!ダダダダ」なんて両手を広げながらグルグルと回っているだけの他愛ない遊びだった。正直、何が面白いんだろうって思っていた。そうか、その当時から浩之ちゃんはそんな事を考えていたんだね。
 私の返事を待たないで、浩之ちゃんは話しを続けた。

「けどな、そんな他愛ない遊びもやがて一人欠け、二人欠けしていった。やろうと言っても「怒られるから」って言うんだ。何でだろうと思っているうちに、そうした遊びは全面的に禁止になっちまった。オレもお袋に怒られたよ。いけませんってな。不思議に思ってオレはじいさんに聞いてみた。お袋に怒られてしまったけど、何でだ?ってな」
「...それって、もしかして...特攻?」
「やはりお前も知ってるのか。ああ、その通りだ。零戦は始めの頃こそ性能的にも華々しかったけど、やがてその性能を上回る敵戦闘機が現れたり、熟練した搭乗員が多数失われたり、圧倒的な物量の差から次第に日本が負けてくると、最後には特攻機として使われる様になった。そうした悲劇の思いが当事者じゃなくてもそれぞれの親たちにはあったんだろうな。それはオレのじいさんが詳しく教えてくれたよ。わざと話さないようにしていたが、そういう事なら聞かせてやろうってな。オレは思わず姿勢を正してその話しに聞き入っていた」
「.......」
「そして...それを聞き終わった時、オレは泣いていた。想像以上に悲惨な話しだったからな。そういう事は二度と繰り返してはならんって、じいさんも泣いていたよ。それからオレはそうした遊びは止めた。だけど、それでもその飛行機に乗ってみたいという思いは残った。そうした悲しい過去を持つ戦闘機だけど、純国産で当時としては世界的に見てもずば抜けた性能を持った戦闘機であったという事に純粋に興味が沸いたんだ」
「.......」
「それからオレは零戦について色々調べた。年代毎の型や、当時どの様な作戦に投入され、活用されたのかなどを。じいさんが持っていた膨大な資料を借りたり、時には両親には内緒でおこづかいを貰ってそうした本を買いに行ったり。今考えると、本当取り憑かれた様に調べまくっていたっけなあ」
「.......」
「そういう事を調べながらも、オレはいつでもその戦闘機に乗って大空を駆け巡っている自分を想像していた。高度4,000、プロペラを高ピッチへ、エンジン回転数、ブースト圧、機速全て異常無し、カウルフラップを閉へ。そうして目の前を見ると丸く浮き出た照準の先に青い空と海がどこまでも果てしなく続いている。その所々には雲が浮かび、下を見るといくつかの島と共に珊瑚礁のエメラルドグリーンの美しさが映え、その間を白い航跡が続いているのが見える。敵と戦う訳でも無く、そんな状況の中を巡航速度のままゆっくりと飛行しているんだ。戦闘機であっても戦う事が無ければ単なる飛行機だ。当時はそう思っていたのかもしれねえな。ははは、こうして言い並べるとまるで笑い話しだな」
「.......」
「まあ、そんな所だ。ガキの頃の他愛ない話しさ」
「そ、それでどうなったの?その後は?」

 思わずすがる様にして質問する私。そんな様子を驚いた様に浩之ちゃんは見ている。やがて頭を振る様にして話しは続いた。

「詳しく覚えている訳じゃないけどな。そんな夢を持ちつつも、次第にそうした事への興味が薄れていったんだと思う。それは過去にそうした悲しい出来事があったからじゃなくて、どう頑張ってもいまの世の中じゃ零戦に乗って大空を駆け回るなんて事は不可能なんだという事が頭で分かったからだろうな。それが理解出来たとたん、夢も萎んだのかもしれない。まあ、当たり前って言えば当たり前なんだけどな」

 零戦の話...事実じゃないかもしれないけれど、私も知ってる事がある。そして、それを知ってる上での私の決意。
 私は心を決めて浩之ちゃんに話す事にした。もしかしたら驚くかもしれない。「何考えているんだ!」と言われるかもしれない。でも、やっぱり話したい。それは、今の私の本心だもの。

「...浩之ちゃん、それなら、現在がその零戦が飛び回っている時代だとするよね」
「現在が?タイムスリップでもするのか?」
「う、うん、それでもいいんだけど、とにかくそういう時代だとして、浩之ちゃんは零戦のパイロットになっているの。そしてその中で一番に活躍しているの」
「なんだって?ああ、何だお前の想像の話しか?で、オレがエースパイロットだって?ははは、なんだかな」
「うん、でね、その頃には浩之ちゃんもお嫁さんを貰っているの。僅かな休暇の間に結婚式を挙げただけで殆ど会う事が出来ないんだけど、それでも休暇の度に会いに行ったり来りで、いつかは一緒にゆっくり暮らせる時代がきっと来るから頑張ろうって二人励まし合ってるの」
「あかり?それって?」
「そ、そ、それでね、そうして浩之ちゃんは毎日生き延びるべく頑張っているんだけど、ある日、浩之ちゃんの上官からこう言われるの。『今度、我が隊でも特別攻撃班を設立しなければならなくなった。申し訳無いが、お前、その飛行隊の編隊長として出撃してくれないか?』って」
「......」

 浩之ちゃん、急に厳しい顔になる。当然だよね。こんな話しすれば当たり前だよね。でも、でもやっぱり伝えなきゃ。

「それで、浩之ちゃんは結果としてその話しを受けざるを得なくなるの。そして、その出撃まであまり日が無いの。浩之ちゃんは最後に貰った休暇を使って自分の奥さんに会いに行くの。こっそりお別れをしに。だけど、その雰囲気を察した奥さんから強く詰め寄られて本当なら喋っちゃいけない特攻の事を結局話してしまうの。当然奥さんはビックリして『そんなのイヤです!』って浩之ちゃんにしがみつくの」
「......」
「そんな時、そんな時、浩之ちゃんだったらどうする?自分の奥さんに対して、浩之ちゃんならどんな事を言うの?どんな事を伝えるの?」

 残酷な質問かもしれない。私、浩之ちゃんの事試しているだけなのかもしれない。それが分かっていながらこうした質問をしてしまう私って何なの?
 やっぱり私は弱い人間なのだろうか。浩之ちゃんのそうした気持ちを確かめずにはいられない、弱いちっぽけな存在。それが今の私。
 やがて、浩之ちゃんは口を開いた。

「そうだな...お前は頑張って生き延びてくれ。オレだったらそう言うだ..」
「そんなのイヤ!」

 予想通りの答え。でも、でもそんなのいや。そんなのイヤだ!

「私が奥さんなら、きっとこう言う。『私もあなたの飛行機に乗せてください。一緒に連れていってください。あなたが私の知らない所で死ぬなんて耐えられません。生も死も共にと誓った仲ではありませんか。お願いします』って。きっとそう言う。そう言うに決まってる!」
「馬鹿な事言ってるな!」

 私の両肩をがっしり掴んで浩之ちゃんは自分の正面に向かせた。いつにない真剣な表情。そんな浩之ちゃんの表情が次第にぼやけてくる。私、泣いているの?

「一緒に死ぬとかおかしな事ばかり言ってるんじゃねーよ!今日のお前は何がどうしちまったんだ?さっきまでは明日のハイキングの事で浮かれていた俺たちじゃねーか!一体何があったって言うんだよ!」
「私も、私もさっきまではよく分からなかったの。でも、ここでこうして木漏れ日を見ていて分かったの、これから自分がどうしていきたいのか、何をして生きていきたいのか」
「...それがさっきの話しと関係ある事なのか?」
「うん、少なくとも私にとっては...」
「...分かった、話してみろ」

 浩之ちゃんは両手を放すと、改めて私の方を見た。真剣な表情はそのままだ。私は軽く深呼吸をすると、浩之ちゃんの目を見てはっきりと言った。

「私、浩之ちゃんと一緒の道を歩んでみたいの。浩之ちゃんがやりたい事、選択する事を私も選択してみたいの。どんな事があっても、例えそれが困難な道でも、完全にピッタリとは重ならなくても、互いが今何をやっていて何に頑張っているか、いつも同じかそれに近い場所に居て浩之ちゃんの事を見つめていたいの」
「......」
「そして、二人でそうした事を協力しあいたいの。一緒に泣いたり、怒ったり、そして笑いあったりしたいの。浩之ちゃんが何に怒り何に悲むのかが分からない状況は作りたくないの。そうして、そうやって、同じ道を共に歩んでいきたいの。だから、だから、浩之ちゃんが将来の事を決めているなら、その道を私も進んでみたいと思ったの...」
「......」

 言っちゃった。思い出の多いこの場所で。でも、何だかホッとした。我が儘かもしれない。浩之ちゃんはそんなのは駄目だと言うかもしれない。でも、これは私が自分で考えて決めた事だもの。ついさっき、ようやく気付けた気持ちだけれど。
 良かった、この事が伝えられて。一年経ったこの場所で。木漏れ日に教えられたこの場所で。

「なあ、あかり」

 ドキッ!
 そ、そういえば、浩之ちゃんからまだお返事貰っていなかったんだ。やだ、心臓がドキドキするよ。浩之ちゃんどんな事言うんだろう。私のいきなりの気持ちに、浩之ちゃんは何と言って応えてくれるんだろう?

「お前、さっきの話し、小説かドラマじゃねえか?」

 とたんに緊張していた私の身体から力が抜ける。た、確かにそうなんだけど、お返事はしてくれないの?
 そう思って浩之ちゃんの方を見ると、真剣な表情が消えて笑みが浮かんでいる。
 それでさらに安心した私は、浩之ちゃんに正直に話した。

「う、うん。以前志保から借りたTV映画のビデオテープに消し忘れで入っていたドラマなの。始めの方が消えちゃっていたから題名までは分からなかったけど」
「やっぱりな。なんか聞いた事があるなとは思ったんだ。で、そのドラマの結末はどうなるんだ?」
「え、えっとね...」

 私はその内容を浩之ちゃんに話した。詰め寄られ、懇願されたその特攻隊員は結果として奥さんの要望を受け入れ、望みをかなえようとする。軍や他の隊員には内緒でこっそりと同乗計画を練り、同級生だった整備士にその計画を打ち明け協力して貰う。かくて出撃当日にこっそりと零戦の胴体に潜り込んだ奥さんを乗せた特攻隊員の零戦は最後の飛行に飛び立つのだが、重量増加やエンジンの不調で速度が上がらず、編隊長でありながら編隊から脱落し、最後には一機だけとなってしまう。それでも突撃場所に向かうその特攻隊員は、奥さんに空の風景を見せようと胴体からコクピット内に身を乗り出させる。そうしてそれを見た奥さんの言葉が、私には凄く印象に残った。

「私、二十年間生きてきてこんなに素晴らしい景色を見たのは生まれて初めてです。あなたが飛行機に夢中になるのが分かる気がしますよ」

 そう言ってニッコリと笑うその笑顔は、自分の夫がどんな仕事に付き、何に夢中になっていたのかをようやく知る事が出来た妻としての笑顔だった。あと数時間後には確実に死が待っている筈の二人は、奥さんのそうした言葉で互いに笑い合う。
 創作なのかもしれないけれど、当時はそうした話しが生まれてもおかしく無い状況にあったんじゃないかなと、私には思えてならなかった。
 気がつくと、私は自分の話しで再び目が潤んでいた。浩之ちゃんは黙ったままじっと聞いてくれた。

「...オレだったら..」
「え?」
「オレだったなら、編隊から遅れた段階で、二人で生き延びる事を考えるだろうな。例え卑怯者だと言われても、自分の嫁さんを乗せて飛んでいるんだ。そのまま死地に向かうなんて事はオレには出来ねえよ」
「ひ、浩之ちゃん...」
「それよりも、そうする以前にきっと二人で生き延びる道を考えているだろうな。編隊長として部下を死なせたくは無いから、密かにそうした計画を伝えて皆で生き延びる道を模索しているかもしれない。だけど、どうしてもそれが難しいなら、逆にお前を夜中にこっそり同乗させて逃げるべく単機で飛びだしているさ。そうした行き先は不明だけど、きっとどこか知らない無人島かもな。脱走兵の立場で食料も水も分からない状況だけど、きっと何とかなる。いや、何とかするさ。なにしろオレはお前と一緒に居られるだけで勇気百倍なんだ。恐いものは何も無えよ」

 そう言って、浩之ちゃんは私の顔を見ながらニッコリと笑った。浩之ちゃん、いつしか自分の事として話してくれている。それが凄く嬉しくて、私はとたんに目頭が熱くなった。
 そんな私の目元に自分の指を添えてくれながら、浩之ちゃんは話し続けた。

「けどよ、あかり。今はそうした時代じゃねえだろ?。だから必要以上に思い込む事は無えのさ。まあ、こんな話しになったのもオレが零戦の話しなんかしたからだろうけどな。そんな訳だから、例えこの先どんな事があったとしても、オレはあくまでオレさ。何も変わらねえよ。だからお前も余計な心配はするな」
「うん。浩之ちゃん、ごめんなさい。私、試す様な事言っちゃって...」
「途中からお前の言いたい事は大体分かったけどな。思わず大声出しちまった。オレの方こそすまなかったな」
「ううん、そんな事...」

 そう言いかけた時、浩之ちゃんスッと私を自分の胸元に引き寄せてくれた。浩之ちゃんの温かさと優しい匂いが伝わってくる。ギュッと身体に回される浩之ちゃんの腕の力を感じながら、私は身体の全てを預けて自然と目を閉じた。

「なあ、あかり」
「なに?浩之ちゃん」
「オレさ、正直言って、これから先の事なぞ考えていなかった。これからオレが何をしたいのか、どういうやって生きていきたいのか。遅くなったけど、これからそれを考えていきたいと思うんだ」
「うん」
「だから、お前が共に付いてきてくれるなら、オレにとってはまさに勇気百倍だ。これからは二人でこの先の事を色々決めていこう。そして、お互いが本当に幸せになれる道をいろいろ模索していこう。これがお前に対するオレの答えだ。だから、これからもよろしくな」

 ....よかった。浩之ちゃんに伝えられて、本当に良かった。
 安心したら何だか泣きたくなって、私は浩之ちゃんに抱かれているのをいい事に思い切り泣いてしまった。
 そんな私に、浩之ちゃんはいつもの様に優しく頭をなでてくれた。いつもだけど、その事がとても嬉しい。こうして泣きたい時、私は浩之ちゃんの胸元で思い切り泣く事が出来るんだもの。
 ようやく落ち着いた私は、浩之ちゃんに聞いてみた。

「浩之ちゃん、もうパイロットになりたいとは思わないの?零戦は無理でも旅客機だってあるでしょ?私、浩之ちゃんには結構ぴったりの仕事だと思うんだけどな」
「オレがか?そして、お前も旅客機のパイロットになるって言うのか?」
「うん、浩之ちゃんがその道を選ぶなら」
「はははは、そんなに簡単になれれば苦労はしねえよ...でもまあ、そういう事も含めてこれから色々話し合っていこうぜ。案外、そうした事って悩むより色々とトライした方が早いかもしれねえものな」
「うん、そうだよ。何でもやってみなければ分からないもの」
「ああ、確かにそうだ」

 そう、やってみなければ分からない。一緒に同じ道を歩む事も、難しい職業に付く事も、手に手を取って絶望的な状況から生きる希望に向かって脱出出来るかも、全てはやってみなければ分からない事。
 そして、そこに共通するのは「自分はこうしたい」と思う心。そう思わなければどんな事も叶わない。逆に思い続けられれば、途中で挫折はあるかもしれないけれど、いつかは道が開けるんじゃないかなと思う。
 浩之ちゃんの胸に抱かれながら、私はそんな事を考えていた。

「あかり、お前に一つ約束したい事があるんだ。聞いてくれるか?」
「うん」
「さっきオレが話した夢は覚えているよな?いつになるかは分からないし、この先どんな職業に付くかもまだ分からないけど、いつかお前と二人だけで一緒に飛んでみたいと思っているんだ」
「.....」
「オレが操縦して、お前がその横に居て、晴れ渡った全てが見通せるかの様な大空と大海原の中をゆっくりと飛んでみたい。何よりも、お前にそうした素晴らしい景色を見せてやりたい。それがオレの一番の夢だ」
「本当?浩之ちゃん本当に?本当に見せてくれるの?」
「ああ、約束する。このベンチに誓ってもいいぜ」

 私はパッと顔を上げた。覚えていてくれたんだ。この場所で、去年の同じ季節に浩之ちゃんが私に言ってくれた事を。
 そうして見た浩之ちゃんの顔は、まるで一年前に戻ったかの様に、あの日と同じ夕焼けに染まっていた。思わずその時に戻ったかの様に、私の心臓が再び早鐘を打ち始める。
 私の顔にスッと手が伸びた。

「あかり、やっぱりオレ、お前の事が好きみたいだ」
「ひ、浩之ちゃん、浩之ちゃん...」

 私は自然と目を閉じた。浩之ちゃんの顔が近づいてくるのが分かる。
 そして、何度となく交わした浩之ちゃんとのキス。
 毎回違う嬉しさがあるけれど、今日のはいつも以上に嬉しい。
 きっと、浩之ちゃんが初めて私を乗っけて飛んでくれた時も、こんな風に感激出来るのかもしれない。
 そう考えると、凄く嬉しい気持ちになれる。
 優しいキスが続く中、今も照らし続けているだろう夕刻の木漏れ日に向かって、私は素直に感謝の気持ちを捧げていた。




                     −   完   −











あとがき


 どうも、作者のTASMACです。お待たせしました。8,888Hit記念として作った本作品ですが、中々カウンターにあわせて公開とはいかなかった様です。今回も遅れてしまった事をお詫び致します。
 さて、今回「浩之とあかり」番外編としてはかなり趣の異なったものに感じられるも知れません。私自身、こうしたテーマは読まれる方にどの様に受けとめて貰えるだろうかと少々心配しながら書いていたのですが、皆さんの感想は如何でしたでしょうか?
 自分の希望する人生を歩めている人は本当に幸せだと思いますが、例えそれが自分の望む道で無かったとしても、その中で精一杯生きる道を模索して前向きに進める心構えがいつの年代になっても必要なんだなと最近強く感じる様になりました。いつの年代になっても何かに一生懸命頑張れる人はやはり素晴らしいと思いますし、私もその中の一人でありたいと望んでいる最近です(^^)。
 話しは変って、今回初めて「あかり」の立場からのSSを作成してみました。書き始める前は結構難しいのではと予想していたのですが、思った以上にスムーズに表現する事が出来た様に思います。ただ、あくまで自己満足の世界かもしれませんので、表現等でもし「意義あり」という方がおられましたらメールで指摘して頂けると幸いです(^^ゞ。
 私が彼女に寄せるイメージは今回の作品で最もストレートに出せたかなと思っています。こうした面での強さを彼女は持っていると思いますし、そうした人生を歩んで貰いたいなと(勝手ではありますが)願っています(^^)。
 それと、今回「おまけ」を期待された方はごめんなさい。決して手抜いた訳では無く、こうした雰囲気にはそぐわないかなと思ったものですから今回は予定から外させて頂きました(誰のキャラの事かは分かりますよね?(^^;))。
 次回読み切りでは再び付けたいと考えていますので、どうぞお楽しみに(^^)。


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作者へのメール:tasmac@asahi-net.email.ne.jp (よろしければ感想を送ってください。お待ちしています(^^))