〜 「浩之とあかり」超ウチワウケ番外編 〜


あたしはあたし 〜 「志保ちゃん情報from神戸」 〜






 昼間はまぶしい程の陽光を一杯に湛えていたこの海上も、日が落ちれば街の明りをクッキリと浮かび上がらせ、まさに漆黒の闇夜へとその姿を変えている。
 だがそれこそが、オレとって最も望むべきシチュエイションそのものだった。
 くさいセリフを許して貰えるなら、その景観はまるで闇夜の中に希望を灯す一本の掛け橋と言えるだろう。
 しかも、色とりどりの星星が集まって、一本の煌煌とした希望の橋を作り出していると言っても過言では無いのかもしれない。
 遠目に見えていたその姿がより近くなり、きらびやかな様子も手伝って、まるで自分を強く主張するかの様にこちらに迫ってくる。
 思わず身を引いてしまいそうなその迫力に、傍らに居るオレの片割れは、腕へのギュッとした力強い抱擁を伴いながら、心から驚きの言葉を発していた。

「浩之ちゃん凄いねー。本当に凄い。明石海峡大橋って、こんなにも大きな橋だったんだー」
「ああ。全長が3991メートルもある大きな吊り橋なんだ。まさに世界一さ」

 その言葉にさらにギュッとオレの腕を掴むと、まるで吸い寄せられる様に瞬きもせず、その光景に魅入られていく様子を、オレは黙って見つめていた。
 エンジンの振動が、後部デッキの手すりからリズム良く伝わってくる。
 船首が波を切り、それに伴う風切り音を、何か遠いものの様にオレは感じていた。

「凄い...本当に凄い...こんなに長くて、大きくて、そして、こんなにも奇麗な橋が人の手で作られたんだね...」

 今、まさにその大橋の下を潜ろうとするその時に、あかりは真上を見上げながら、感極まった様に潤んだ瞳を湛えていた。
 橋全体を彩る、七色のスポット。それはまさに、夜空に掛かった虹そのものだった。
 一つ一つの小さな虹の粒が集まって、その橋全体を素晴らしい景観と共に彩っている。
 そんな表現がまさにピッタリだと、オレは柄にも無く思っていた。

「...そうだな。そうした人一人一人の思いが、ここには込められているのかもしれねえな....」

 小さな声で「うん」と頷くあかり。
 潮風が、少し強くなる。
 それを心地良いものに感じながら、オレは、そんな様子のあかりを見つめ続けていた。
 そして、思っていた。
 良かった、一寸無理してでも連れてきて。一緒に来る事が出来て...

「...ありがとう。浩之ちゃん。私、とっても嬉しいよ....」

 今度は、オレが頷く番だった。
 こいつと、こうした時間を過ごせるという事。
 もう何回も、そして何度もその温かさを感じながら、それでも尚、そうした時間を持ち続けたいと思っている自分。

「お前が望むなら、これからだって何度もな....」

 オレは、寄り添うあかりのその表情にスッと顔を近づけた。
 その潤んだ目が、ゆっくりと閉じられていく。
 それに応える様に、オレは尚も顔を近づけていった。


「な〜に言ってんのよあかり。人の手でこーんな大きな橋が作れる訳無いでしょお?大半は機械が作ったのよ機械がね〜」

 その声にパッと反応して互いに離れると、思わず二人して振り向いていた。
 そして、同時にガクーっと肩を落とす。
 円卓のテーブル席に座りながら、口からはみ出るアタリメをクチャクチャしつつ缶ビールを下げ手に持ち、ジトーっとした目でこちらを見やっている酔っぱらい女!
 そう、こいつも一緒だった事を、すっかりと忘れていた。

「ねー、そんな所で二人で雰囲気に浸ってないでさあ、こっち来て一緒に飲もうよ〜。それでなくてもあと10分位で対岸に付くんだからさあ。こんなにお酒もおつまみも残ってんだから勿体ないでしょお?」

 すっかり出来上がったその様子に、オレとあかりは力無く近づいていった。

「....おい.....」
「まーったく、何が悲しくてこんな所で一人で飲んでなきゃなんないのよ。大体、この場所を教えてあげたのはアタシよ?このあたし。それだってのに勝手に二人だけの世界作っちゃってさ。あーあ、やってられないったらありゃしないわ」
「.....おい!....」
「そりゃまあ、私だって雅史でも連れてくれば良かったのかもしれないわよ?でもさあ、向こうは向こうで家族旅行って言うんじゃ、あたしもご一緒になんてズーズーしく申し出るなんて出来ないじゃないのよ。まあ雅史から誘われはしたけど、ああした雰囲気の中じゃあ一寸ねえ。それにしても雅史も雅史よね。大学生になっても相変わらず家族旅行なんかに嬉々としちゃってさあ。何でも結婚したお姉さんも子供と旦那連れて参加するらしいのよね。全く家族円満で微笑ましいったらありゃしないわ」
「....てめ!少しは人の話を聞きやがれ!」
「あらぁ?可愛い志保ちゃんに向かってテメエ呼ばわりぃ?随分と失礼じゃないのよぉ」

 バン!
 オレは円卓に両手を付くと、志保を睨み付けた。

「少しは気をきかせろってんだよ!場所の情報提供は感謝するけど、何だってお前まで一緒に付いてくるんだ!」
「だってぇ。宿で一人で居たってつまんないんだも〜ん。それにさあ、あんたたち待ってる間に、他のイイ男にナンパでもされちゃったらどうするつもりなのぉ?もし何か間違いでもあったら、あんた一生雅史に怨まれる事になるわよ?そっちの方がいい?」
「ざけんなぁ!そんな気もねえくせしやがって!結局はオレ達にちょっかい出したいだけじゃねーか!」
「まあまあ浩之ちゃん、もうよそうよ。折角の素晴らしい場所なんだもん。私は全然気にしていないから。ね?」

 相変わらず、こうやってあかりに納めて貰うパターンに情けなさを感じながらも、オレは怒りの矛先をどうにか納めていった。
 それにたとえ本気になった所で、この馬鹿はもう完全に酔いが回っている。その証拠に「いいから飲もうよ〜。時間無くなっちゃうよ〜?」と全く意に介す様子が無い。
 さすがにこっちも馬鹿馬鹿しくなって、オレはまだ開いていないビール缶のプルをプシュ!っと引くと、グイッとそれを煽る様に飲み干した。

「わぁお!ヒロ飲みっぷりいいじゃな〜い。これは拍手拍手〜」
「ひ、浩之ちゃん。そんなに一気に飲んじゃ身体に毒だよ?」
「わーってるよ。これ一本で止めとくって。それにどーせこのまま往復するんだ。少しアルコールを入れた方が夜景も違って見えるってもんだしな」
「もー、また何だかんだ言ってー。本当にそれ一本だけだよ。それと志保。志保も、もうその位にしておきなよ。二人が潰れちゃったら、私一人じゃ宿まで運んで行けないよ?」
「はいはい、あかりお母さーん。あんたってば相変わらず保護者よねぇ〜」

 そんな志保の様子を見て、こりゃあかりと二人で担いでいく様かなと思いながらビール缶を円卓に戻した。
 そのまま船の後方を見やると、先程潜った明石海峡大橋が遥か後方に長く伸びている。

 漆黒の闇の中に伸びる、希望の掛け橋........か。
 オレの方も、既に酔いが始まっているのかもしれないな.....

 そんな事を考えていると、風に乗ってふと、別の乗客の会話が聞こえてきた。

「...いやあ、感動しました凄く感動しました。M○○Aさんに連れてきて貰えなかったら、この感動は味わえませんでしたよ。本当にありがとう」
「本当に良かったです。私も岡山から出てきた甲斐がありました」
「私も大阪から車を飛ばしてきて本当良かった」
「先生から運転を頼まれた時は本当どんな企画になるのかと一寸だけ心配(笑)だったけど、まずは大成功!って所ですね」
「いえいえ。皆さんに喜んで貰えて本当に良かった。私も企画した甲斐があったというものですよハッハッハ(^^)」

....男同士で何の会話だ?

「いやー、これはもう電波来まくりましたからねー。今日のこの良き日は、いずれSSという形で実現させて貰いますよー。当然、シチュエイションとしては、あかりちゃんと浩之が船上でってことでですよね〜」
「おお〜〜!やんややんや〜(他の人全員)」

....あかりちゃんと浩之?...お、オレとあかりの事か?

「それも楽しみですけど、現在連載になっている方はどうなっています?」
「え?......あ、ああ、志保ちゃんSSですか?いやー、そろそろ完結に持っていかなければとは思っているんでけどねー。そうですねー、このゴールデンウィーク明けまでには何とかしたいんですよ。一寸友人と賭けをしてましてねえ。そこまでに完結出来なければ私、皆に奢らなければならんのですわ」
「ほお、それはまた豪儀な賭けを。中々に太っ腹ですなあハッハッハッ」

......志保の名まで。間違い無い。オレ達の事だ。こいつら一体何者だ?

「あ、そういう事ならTASMACさん。僕の方で志保ちゃん予告漫画っての描いちゃっていいですか?その方がより頑張れるでしょう?」
「おお!本当ですか?いやあ嬉しいなあ(^^)。そういう事でしたら是非是非お願いしますよ。いやあysnさんに描いて貰えるなんて最高だなあ(^^)」
「じゃあ、描いたら掲示板の方ででも発表しますから楽しみにしていてください」
「はーい(*^^*)。いやぁー、これは何としても頑張らねばなあー(*^^*)」
「その意気ですよその意気。さあ、そろそろ港に付く頃だ。今一度思い切り盛り上がりましょう!」
「オー!(全員)」

 志保ちゃん漫画?志保ちゃんSS??な、何なんだ一体こいつら?!
 オレはガバッとそちらに顔を向けた。するとそこには5人の若者が...いや、中年も混じっているか...が、円卓に座って何やら談笑している。
 素早く身をひるがえすと、オレはそいつらに向かってツカツカと歩み寄って行った。

「おい!さっきからオレ達の名が出てきているけど、お前ら何者なんだ?!」

 そう言った刹那!
 ゴウ!! という音がしたかと思うと.........
 そこには、飲み食いした痕跡のみを残す円卓の前で立ち尽くす、馬鹿みたいなオレが居るだけだった。

 今まで談笑していた男5人は、一体何処へ.....??

「一寸ヒロ〜。あんたそんな所へ行って何やってんのよ〜?」
「え?...あ、いや。今まで、ここに人が座って無かったか?」
「何言ってんのよあんたはもー。誰も居なかったわよ。大体そこのゴミの事で怒ってたのあんただったじゃないの。もう忘れたの〜?」

 そういえば....覚えている。
 乗って直に後部デッキへ上がってきた時、前の乗客の飲み食いしたゴミがそのままになっていて「事前の掃除もしねえのかこの船は!」と自分で文句を言ったっけ。
 じゃあ、あの連中は.....?

「浩之ちゃーん。そろそろ港に付くよ〜。往復乗船でも、一旦は全員降りなければならないんだって。そろそろ下に降りよ〜よ」

 相変わらずグデーっと座っている志保を尻目に片づけを始めているあかりの姿を見つめながら、そこに座って談笑していただろう連中は一体何者だったのかを、オレは何故だかボンヤリと連想していた。







                     −   了   −











あとがき


 TASMACです。まず初めに「なんじゃこれは〜?!」と思って下さったきっと多くの方々。先に素直に謝っちゃいます。どうもすみません(^^;)。
 それと関係者(笑)の方々。伏せ字も含め、かなりお話しを作ってしまってすみませーん。もしかしたら人格も相当作り込んでいるかと思うんですが、そこはどうか笑って許してやってくださいませ(^^;;;;;;
 なんだか謝ってばかりですが、そもそもこのSS....とも言えないシロモノは、ysnさんから無理言って頂いた「志保ちゃん情報from神戸」漫画への内輪ウケな添え物として、ごく短時間で書き上げたものです。
 そんな理由からも、さらに訳が分からない内容となってしまったかもしれませんね(^^;)。
 それでも「訳分かんなかったけど、まあ結構楽しめたよ」ともし感じて頂けたのであれば幸いです(^^ゞ。

 今回、自分の作品に対する予告漫画というものを初めて書いて貰った訳ですが、私が初めてあかりちゃんの絵を頂いた時とはまた違った嬉しさがありました。具体的には「よりプレッシャーを伴った感動」という表現がピッタリでしょうか(笑)。
 当然これは好意的感想で、実際に「あたしはあたし」のエピローグへ向けての書き込みでかなり苦しんでいた頃に、この漫画を拝見出来たのは大きな幸運だったと思っています。
 それが強い励みとなりましたし、そのおかげで、少し遅れはしましたがどうにか完結まで持っていく事が出来ましたから(^^)。
 今回、その記念漫画がそのまま過去のモノになってしまうのはあまりにも勿体ないと思いましたので、了解の上しっかりとゲットさせて頂きました。
 ysnさん、本当にありがとうございます(^^)。

 当然ではありますが、次作SSはもっとちゃんとしたものを発表していきます(笑)。
 それと、機会があれば、こうして神戸を旅をしている浩之とあかりのお話し(+志保?(^^;))も再度手がけられればと考えています。
 よろしければ、次回もご期待くださいませ(^^)。


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作者へのメール:tasmac@leaf.email.ne.jp (よろしければ感想を送ってください。お待ちしています(^^))