薄井ゆうじの森
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 これは、映画公開時の、映画のあらすじです。

第15回 吉川英治文学賞新人賞 受賞作品

■映画:樹の上の草魚
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あらすじ

 池貝亘(西川忠志)は高校3年生、柔道部で日々練習に励んでいる。父(筒井康隆)は、町議会選挙があるたびに落選を続けているが、実直な性格の持ち主。母は既に亡くなっていて、長い間、父一人、子一人の生活を続けている。
 新緑が鮮やかな日、沼に立ち寄った亘は、草魚のウロコを拾った。日の光にウロコをかざす亘。その時、ウロコの向こう側に亘が見たのは、沼際に立つ一本の樹と、その枝に座っている少年・鳥井山比呂司(吉本多香美)だった。亘は比呂司に話しかけるが、比呂司の神経は、初対面の亘と接するには繊細すぎた……。比呂司の母・光枝(田村翔子)は重い病で、長い入院生活を強いられており、比呂司と光枝の面倒は、家政婦の武内しの(草村礼子)がみていた。幼い時より、沼の樹は、孤独な比呂司の唯一の話し相手だったのだ。
 翌日、亘は沼に出かけ、再び比呂司に出会う。亘が沼に釣り糸を垂らすと、糸にひきが起こった。「オレの魚だ!」。叫ぶ比呂司はナイフを手に、亘に飛びかかった。亘は得意の柔道で身を守るが、その拍子でナイフは比呂司の胸に突き刺さってしまった。
 病院に担ぎ込まれた比呂司は一命を取り留めたが、医師の影山(永島敏行)は、看護婦から、比呂司は両性具有で、その男性性器は排尿器官とはなっているが、輸精管にはつながっていないという報告を受けた。手術の必要を比呂司の母に説く影山だったが、母はそれを認めなかった。
 しかし、事はそれだけでは済まなかった。事故を知り、車で駆けつけようとした比呂司の父が事故に遭い死亡、やがて重病の母も亡くなった。そして亘の父は政治の道を断念し、亘自身も、精神的なショックにより性的不能となる。この事件により、比呂司も亘も大きな痛手を受けることとなった。
 その後、亘が比呂司に再会したのは、それから8年後のことだった。ぎこちない会話を交わす二人だったが、比呂司は自分の部屋に亘を迎え入れた。そこで亘が見たものは、比呂司の描いたたくさんの魚の絵と、そして庭に移植された、あの沼の樹だった。比呂司は痴呆症になった家政婦のしのと二人きりの生活を過ごしていたが、この日以来、比呂司と亘の間には友情が芽生えていった。
 亘の職場で働き始めた比呂司の前に、松浦夏恵(菊池則江)が現れる。夏恵こそ、8年前の事件の時、医師・影山に比呂司が両性具有であることを報告した看護婦だったのだ。夏恵は亘に、比呂司が両性具有であること、そしてすぐにでも女性になるための手術を受けなければ、比呂司の生命が危うくなることを告げる。「池貝さん。もし女になったら俺を嫌いになる?」。そう尋ねる比呂司に戸惑う亘だったが、比呂司の肉体は刻々と変化していき、遂に生理が始まる。もはや亘にはなす術が無かった……。
 夏恵の導きで、比呂美になった比呂司に会う亘だったが、目の前の事実を認めることができず、8年前のように、再び二人の距離は開いていった。
 比呂司から離れ、無為な日々を送っていた亘のもとに、夏恵が訪ねてきた。夏恵は、自分もまた、比呂司と同じように両性具有の体から女性になったこと、そして、女性になった時の孤独から、自分を救ってくれた人の存在を亘に告げる。
 比呂美/比呂司への自分の気持ちに気づいた亘は、比呂美のあとを追ってバイクを疾走させた……。

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