「蜘蛛女のキス」登場人物

オーロラ/蜘蛛女
モリーナの語る映画に出てくる女優。モリーナの憧れの、大ファンの女優である。蜘蛛女はオーロラが演じた役名のひとつ。蜘蛛女は物語の中では死を象徴した女として描かれているのでモリーナはずっと彼女を恐れていた。(大好きなオーロラの演じた役の中で唯一嫌いだったのが蜘蛛女だった)

ルイス・アルベルト・モリーナ
囚人番号57884。年齢37歳。未成年者に対する不道徳行為で逮捕されたゲイ。刑期8年、服役3年目。
幼い頃に父親を亡くし、母親と二人暮らしだった。(モリーナが一番慕っていたのは母親)小さい頃に見たオーロラの映画と出会い、すっかりオーロラの虜となってしまう。映画の話をするのが大好き。ところが、ゲイであったためにあまり人との付き合いがなく、寂しさを感じていた。職業はモントーヤ本店の、ウインドーの装飾係。マジメで努力家のモリーナだったので、マネキンを着飾る腕は店でも一流だった。店には同じ系統の友達がいたが、なんだかやりきれないような気持ちをどこかでいつも抱いていた。そんなとき、レストランのウェイター、ガブリエルに好意を寄せるが、モリーナの望むような仲にはなれなかった。そしてしばらく経ったある日、喫茶店でにっこり笑われた未成年の少年に心を許してしまい逮捕されてしまう。(どんなことをしてしまったのだろうか・・・(^^;))
いつも一緒に暮らしていけるような本当の友達を求めていたモリーナは、ヴァレンティンの強さに惹かれどんなにすげなくされても彼を慕い続けた。。ヴァレンティンがモリーナに心を開き始めたのは、彼の優しさに触れたからだろう。しかし、最後にヴァレンティンが呟くのはマルタだったため、いつも辛い想いをしていた。死の間際にヴァレンティンに愛を告白。死を賭けたモリーナの愛は、きっとヴァレンティンに届いていたに違いない。

ヴァレンティン・アレギ・パース
囚人番号16115。年齢27歳。逃亡中の政治犯にパスポート類を渡した罪で現行犯逮捕される。
家はダンボールを重ねたトタンの屋根・・・と、ものすごく貧乏だった。母親、妹と3人で細々暮らしていたが、食糧不足から母親はやがて30歳で死亡。その後妹と物乞いの生活を繰り返していたが、あるときゴリザールの演説と歌声を聞き心揺さぶられて革命に参加することを決意。集会に参加した時、私服警官による大虐殺を目の当たりにし、革命決起にくわわる。(ところで、妹はどうなってしまったのだろうか・・・いつも気になったんですけど(^^;))
そのかたわら、ゴリザールが憎めという階級の女マルタと出会い、彼女を愛してしまう。監房ではいつもマルタのことを想いながら拷問に耐えてきていた。(他の男と寝ていたら2人とも殺してやりたいというほど・・!)しかしながら、マルタは本当にヴァレンティンを愛していたのか不明である。それを考えると、本当に気の毒で寂しい人だったのかも(;_;)。はじめはずっと嫌ってきたモリーナを、腹痛で倒れた時の介抱を機に心を開いていくことになる。本当は、強くて心根の優しいヴァレンティン。(モリーナが去る前に「絶対に自分を辱めないと約束してくれ」と言うところに彼の優しさを感じた・・)モリーナはそんな彼を見抜いていたのかもしれない。しかし、モリーナが撃たれる直前まで彼を本当に愛することはなかった。モリーナが死んだ後、ヴァレンティンがどうなってしまったのか、考えるだけでもなんだか辛い・・・。

刑務所長
白状させるためには拷問すらいとわない冷酷非常な男。スーツはずいぶん立派なものを着ていて一見紳士なのだが、やることはかなり過激。人道からおおいに外れた拷問を囚人達に与えて、脱獄者は何の躊躇もなく殺してしまう。ヴァレンティンの女に注目(政治犯の鍵を握っていると思い込んでいる)してモリーナに探るよう命じていた。でも結局・・・・彼女は運動参加者じゃなかった(^^;;)から、彼の努力は無駄だった気がする(笑)

モリーナの母
モリーナが幼い頃に夫を亡くしていらい、映画館の案内係をして家計を支えていた。モリーナが小さかったために、いつも映画館にはモリーナを連れていっていた。(ここでモリーナがオーロラに夢中になる)モリーナがホモだったために近所からは白い目で見られていたが、いつも息子を優しい眼差しで見守り続けていた。(本当に強く、優しい母親だった・・。モリーナが監房で支えにしているのが母親だというのがよくわかる(;_;))
モリーナが逮捕された後、無理がたたって病にかかってしまう。モリーナが出所後、彼を温かく向かいいれるが貯金を全部渡された時に自分の息子が危ないことをしようとしていることを知る。しかし、危険を承知で息子を信じ、「しなきゃならないことをおし。」と、送出す。これがモリーナとの最後の別れとなった(涙)強く、優しい、理想の母親だった。

マルタ
ヴァレンティンが愛し続けた女性。ブルジョワシー階級で、赤いベンツを乗り回しゴルフの趣味もあった。敷石の道にある建物の3階に住んでいたらしい。ヴァレンティンとは身分も階級もまったく違っていた。(モリーナが弟がいたらつきあいたいと思ってしまったほど(笑))刑務所長は革命の鍵の人物と睨んでいたが、実は革命に参加してはいなかった。モリーナからヴァレンティンの伝言の電話を受けた時に激しく動揺。「関わり合いになりたくないのよ」と言っているところをみると、彼女は本当にヴァレンティンを愛していたのかちょっと疑問である。もしかしたら、ヴァレンティンが想っているほどマルタは想っていなかったのかもしれない。気の毒だなあ・・・ヴァレンティン(;_;)

ガブリエル
モリーナが愛した男性。レストランでウェイターの仕事をしている。モリーナはよくガブリエルを訪れ、彼の友達になろうとしたが、ガブリエルはゲイではなかったし、家には妻と子供が一人いたためモリーナとの付き合いに戸惑いを感じていた。そのため、モリーナの誘いにはほとんど乗ることはなかった。モリーナが逮捕された後、モリーナは毎回ガブリエルに手紙を送り続けていたが、その返事を書くことがなかった上に、半分以上はその手紙に目を通すこともなかった。出所してきたモリーナに「もう来ないでくれないか」と別れを告げる。(モリーナがかわいそうすぎる・・・それでも愛してたんだよねえ、ガブリエルを)

看守・マルコス
刑務所長の忠実な部下。髭を貯えてる(日本版)のがなんだかちょっとかわいかった・・(^^;)でも、その性格はかなり狂暴。モリーナを侮辱する方法もかなり陰湿。かなり凄みがあった・・。

看守・エステバン
マルコスとコンビを組む刑務所長の忠実な部下。背は高く、二の腕がかなり立派(日本版)。囚人が脱獄しようとした時に、ライトで照らしていたのはエステバンである。マルコスの後輩のようだが、その口調からはかなり対等の関係のように思えた(^^;)


「蜘蛛女のキス」(ミュージカル版)のストーリー


南米のファシズムが台頭していたある国の刑務所がこの話の舞台。

1幕

囚人番号16115と付けられたヴァレンティン・アレギ・パースが、荒々しく刑務所に連行されてくる。彼は政治犯でテロリスト集団の鍵を握る人物として激しい拷問を受ける。意識を失ったヴァレンティンが放り込まれた監房にいたのはルイス・アルベルト・モリーナ。少年に対する不道徳行為で逮捕され、刑期8年のうち服役3年目を迎えていた。モリーナはひどくいたぶられ気を失ったヴァレンティンを恐れ、大好きな映画の世界へと逃げ込んでしまうその世界の中で華々しく踊るのはモリーナの憧れの女優オーロラだった。現実逃避していたモリーナだったが、ヴァレンティンのうめき声で我に返り、拷問で痛めつけられ意識のないヴァレンティンを2日間介抱し続ける。

意識を取り戻したヴァレンティンに大好きな映画の世界を語り始めるモリーナ。しかし、どんなにモリーナが語り掛けても、革命に燃えるヴァレンティンはモリーナの語る夢物語を一向に受け入れようとしなかった。うるさそうにマルクス全集を読みふけるヴァレンティン。どんなにモリーナがかまってもらおうとしても、それは彼の無駄な努力でしかならなかった。境界線を引かれ、自分の場所に絶対踏み込むなと怒鳴られたモリーナは監房の中でふざけてしまい、結果的に看守マルコスエステバンを監房の中に呼び入れてしまう。二人の看守に侮辱を受けるモリーナとヴァレンティン。「こんなのといたら頭が変になる」と精神を乱すヴァレンティンにモリーナは大事な人のことを考えろと諭す。ヴァレンティンは恋人マルタを、そしてモリーナは大事なを絶望感の中で悲しく想うのだった。

しばらく時が経った後、ヴァレンティンがモリーナの話に少し反応を示すようになった。家が金持ちだとヴァレンティンが言ったことに対して激しく抗議するモリーナ。彼はヴァレンティンに自分の生い立ちを語るのだった。話の途中で聞こえてくる囚人の拷問に対する叫び声に身を震わせて脅えるヴァレンティンにまたオーロラの話をはじめるモリーナ。その映画の世界の中でオーロラは「現実を見るから傷つく。見なければいい」と歌うのだった。ところがヴァレンティンは映画の世界に入ることができず、拷問にあった仲間を目の前に突き出されて恐怖と絶望に身を震わせるのだった。

アムネスティインターナショナルという人権組織から刑務所に査察が入るが、所長はうまく切り抜けてしまう。そのころ、モリーナとヴァレンティンの監房に囚人が息ができないほどたくさん詰め込まれていた。その中で3日間立たされっぱなしの拷問に遭い死者までがでてしまう。他の囚人から責め立てられるヴァレンティンを「この人はなにも知らないのよ」と周りをなだめるモリーナ。そんな絶望的な状況の中でヴァレンティンは恋人マルタを想い悲しく歌うのだった。

所長がモリーナを呼び出し、ヴァレンティンの地下活動を探るよう言いつける。しかし、ヴァレンティンを裏切ることができないモリーナはなかなかヴァレンティンのことを語ろうとしなかった。そのたびに見せしめで囚人の拷問を見せられるモリーナ。一向に語ろうとしないモリーナに所長が突きつけたのは彼の愛する母親の病気のことだった。激しく動揺するモリーナ・・・。蜘蛛女のキスを受けて絶命する拷問を受けた囚人を目の当たりにしたヴァレンティン。激しい拷問にあい意識を失ったヴァレンティンは他の囚人達の前につれ回される。脅え叫ぶ囚人達・・。

またも激しく拷問されて気を失ったヴァレンティンを見たモリーナは、オーロラを呼び「なぜあんなに強くなれるの」と尋ねると、オーロラは「愛よ」と答える。オーロラに誘われるまま、ヴァレンティンを恐る恐る介抱するモリーナ。しかし、苦しみの中でヴァレンティンが呟いた名前は彼の愛するマルタであり、モリーナはもどかしい思いを抱くのだった。

しばらく時が経ち、二人は食事時を迎えている。彼らの前にはカラフルなナプキンやテーブルクロスが用意してあった。モリーナは母の差し入れだと言うが、本当は所長に求めた代償だった。運ばれてきた食事はひとつが大盛りで、ひとつが少ないもの。多いほうには毒が盛られていた。いぶかしがるヴァレンティンはモリーナが勧めるのも聞かずに少ないほうを食べ、モリーナは毒入りの大盛りのものを食べてしまった。食べ終った後、モリーナに好きな相手はいないのか尋ねるヴァレンティン。モリーナは自分の愛していたウェイター、ガブリエルのことを語り始める。その話を聞きながら、自分の初めての女の体験を思い出すヴァレンティン。ガブリエルのことを語っている途中、モリーナのお腹に激痛が走り所内の診療所に運ばれてしまう。

診療所でモルヒネを打たれたモリーナは母親の幻想を見る。幻想の中の母親はとても優しく、自分のせいで辛いめにあっていることを詫びるモリーナに「恥はしないよ。息子はわたしの誇りだよ」と語るのだった。母親の幻想が去った後に現われたのはモリーナが一番恐れていた蜘蛛女だった。「いつかわたしにキスをする。でもまだ今じゃない」と言い残して去っていく蜘蛛女。モリーナはただ脅え震えるだけだった。

モリーナの体力が回復し、監房に戻ってくるとヴァレンティンが3日ぶりに差し出された食事をむさぼるように食べていた。「頭が狂ってきたんだ」と笑うヴァレンティンは以前よりも態度が軟化し、モリーナの話を受け入れるようになっていた。自分がいなくて寂しくなかったか尋ねるモリーナに「正直言って寂しかった」と呟くヴァレンティン。彼はモリーナに徐々に心を開き、恋人マルタのこと、マルタが革命に参加していないこと、自分が革命に携わったいきさつなどを語り出した。しかし、所長からヴァレンティンの動向を探る様命令されているモリーナは関わり合いになることを恐れ、ヴァレンティンの革命の話をどうしても聞くことができなかった。と、話の途中で突然ヴァレンティンに激しい腹痛が襲う。差し出された食事に毒が盛られていたのだ。苦しみもがき、ついに我慢しきれずにズボンを汚してしまい恥ずかしさと、惨めさと、悔しさでうずくまるヴァレンティン。しかしモリーナは、嫌な顔一つせずに優しく後始末をしてやる。そんなモリーナに苦しみ意識が遠のく中で「おまえは親切だよ、モリーナ」と心を開くヴァレンティン。しかし、最後に口にしたのはやはり彼の恋人マルタの名前だった。自分が女でないことを嘆き、「もしも彼女になれたら」と悲しく歌うモリーナ。

所長から強く協力を要請されたモリーナは、「政治には関心がない」と逃げようとするが母親が重病であることを言われると、どうしようもならなかった。あまりの痛さに診療所へ連れていって欲しいと懇願するヴァレンティンに「モルヒネを使われたら、全部白状してしまう」と必死に励まし続けるモリーナ。彼はヴァレンティンに「オーロラを見て」と映画の話を一生懸命語り出す。それは愛する男を裏切れずに逃亡に手を貸す恋する女の物語「極楽鳥」だった。話の途中で看守が様子を見に来るが、必死にごまかし通すふたり。危機を脱したモリーナとヴァレンティン。気を失いかけたヴァレンティンはついにモリーナの映画の世界へと入っていくのだった。

2幕

しばらく時が経ち、すっかり打ち解けたモリーナとヴァレンティン。豪勢な食事を前にご機嫌なヴァレンティンだったが、この食事もモリーナの母からと偽った所長の代償物だった。すっかり映画の話が気に入ったヴァレンティンは、モリーナに映画の話を求める。半分ヴァレンティンを茶化しながらも、映画の話をはじめるモリーナ。それは、ロシア革命前夜、恋人を救うためタチアーナ(オーロラの役名)が愛してもいない男と結婚の約束をするという「セント・ペテルブルグの炎」だった。愛する人が殺される危険にあると知ったタチアーナは馬車を飛ばし、彼を見つけて駆け寄るがその瞬間に身代わりとして射殺されてしまう。「愛のためにすべてを投げ打つ危険はもっと甘美なもの」と最後は愛する人の腕に抱かれてこの世を去るタチアーナ。

その話をじっと聞いていたヴァレンティンも「自分にも映画はある」と語り出す。しかし、彼の映画は着飾った幻想の美しい世界ではなく、辛く苦しかった自分の生い立ちといつの日か必ず勝つと誓った革命の日々・・・つまり厳しい現実の世界だった。そこへまた拷問に遭った囚人を見せられたヴァレンティンは再び恐怖に脅え、「自分の時は早く死なせてくれ」と震える。そんなヴァレンティンを懸命に励ますモリーナ。

一月後、再び所長に呼び出され「もう少しも時間はやれない」と脅されるモリーナ。そして電話口で病の母の声を聞かされたモリーナは所長の命令から逃れられない絶望感にかられる。「もしも話さなかったら」というモリーナに「明朝釈放になると言え。そして外に出たらやることはないか聞け」と言い放つのだった。

最後の夜に豪勢な食事を終えたモリーナとヴァレンティン。モリーナは自分が明朝釈放になることをヴァレンティンに打ち明けると、「寂しくなるな」とヴァレンティンは本音を明かす。しかし、モリーナが外へ出られることを知ったヴァレンティンは「外へ出たら電話をかけて欲しい」と頼み込む。関わりあいになるのが恐いモリーナは必死に耳を塞ぐが、反面そのことでヴァレンティンを失ってしまうことも恐れて、彼のためなら何でもしたいと想いを募らせる。また、ヴァレンティンは今晩モリーナを抱けば、自分のために電話してくれるのではないかと考える。ふたりのそれぞれの想いが交錯する。それをまるで操っているかのような蜘蛛女。その夜、ヴァレンティンへの想いが溢れるモリーナは、ヴァレンティンが本当に自分を愛していないことを知りながら彼に抱かれるのだった。

モリーナが出所する朝、もう一度電話をしてくれるように頼むヴァレンティンだったが恐怖心が募るモリーナはやはり聞き入れることができない。そんなモリーナに伝言を諦めたヴァレンティンは「あんたが望む男になれなくてごめんね」と悲しく呟くモリーナに「もう二度と他の人に自分を辱めないと約束して欲しい」と諭し、キスをするのだった。そのヴァレンティンの言葉に心打たれたモリーナは、ついに彼の頼みを聞きいれる決心をする。伝言を聞いたモリーナは「今まで愛した人は2人だけ。あんたに会うまでは」と言い残し監房を去っていく。モリーナの後ろ姿を見て強く生きて欲しいと願うヴァレンティン。

出所前に所長に報告する名前を残したモリーナだったが、それは全部でたらめの情報だった。このことを知った所長はモリーナに24時間体勢の見張りを付ける。出所したモリーナは母親の元に戻り、再会を喜び合う。しかし、仕事場へ行ってもかつての友人だったホモダチと接することにためらいを感じていたモリーナは、「もうこういうことはできない」と言ってその場から逃げ出してしまう。また、かつて愛したガブリエルにはもはやモリーナの入り込む場所はなかった。何通も手紙を出していたモリーナだったが、ガブリエルはついに一通も手紙を出してはくれなかったのだ。冷たく別れを宣告されるモリーナ。そして、愛する母親に貯金を全部託したモリーナはついに電話ボックスからマルタにヴァレンティンの伝言を伝える。ヴァレンティンが元気であることをマルタに告げたモリーナだったが、マルタは「関わりあいになりたくない」と訴えるのだった。その行動を一部終始みていたのは刑務所長と、それを操っているがごとくの蜘蛛女だった。

刑務所で尋問されていたヴァレンティンの前に差し出されたのは、拷問でぼろぼろになったモリーナだった。無残な姿のモリーナを目の当たりにしたヴァレンティンは、「俺はなんてことをしたんだ」と激しい罪の意識を感じる。どんなにいたぶられても、決して電話の相手の名前を言わないモリーナに所長は「3つ数えるうちに言わないと頭を飛ばす」と脅す。それでも、口を割らなかったモリーナが撃たれる寸前にヴァレンティンに残した言葉は「愛してる」のひとことだった。その瞬間、ヴァレンティンはモリーナの深い愛を知り激しく慟哭するのだった。

映画の世界にその死の瞬間を映し出すモリーナ。客席にはヴァレンティンをはじめ彼と関わったすべての人々、そして蜘蛛女がいる。スクリーンの主役として華々しく歌い踊るモリーナ。客席からヴァレンティンを呼び入れ、映画の世界でヴァレンティンとの最後の別れをしたモリーナは蜘蛛女とラストタンゴを踊る。そして、ついに、いつも恐れていた蜘蛛女のキスを受け入れるモリーナ。愛のために命をささげたモリーナの最期だった。そのモリーナをヴァレンティンをはじめとした観客は大きな歓声と拍手で称えるのだった。