〔 秋の夜 〕
「戦争が終わったら、正式に婚約しよう。」
ストライクを討ったときのキズも治らないまま、宇宙へとあがる彼は、確かにそう言ってくれた。
だからあたしはあのとき、別れの涙ではなく喜びの涙を流したのだ。
あのイザークとすらガッチリと握手を交わして、去っていく背中はりりしかった。
隊が別れ別れになるのは淋しかったけど、きっとすぐに会えると思った。
だってあたしのいるクルーゼ隊は任務遂行率ザフトトップワンだし、
アスランはエリートコースを順調に歩いてるし。
ところが。
それから数日後。
ジャスティスを失ってプラントへ戻ってきたアスランが、連行中に脱走したとウワサが流れた。
イザークに頼みこんでコネを使って調べてもらったら、ウワサでなくて真実だった。
あたしには、何の連絡もなかった。
そして終戦。
ヤキン・ドゥーエ攻防戦で、ジャスティスを見たという情報はもらった。
けど、ホーキンス隊に転属していたあたしに、ジャスティスと出会う機会はなかった。
あれから二年。
アスランからの連絡は、いまだに何もない。
「あ゛ーーーー、ばかだった。ほんっとにあたしはばかだった!」
テーブルにゴンッとグラスを打ちつけると、ワインが少しこぼれた。
「おい、。ロマネ・コンティだぞ? もっと丁寧にあつかえ。」
「あ〜あ、もったいない。ソレだけで何万円ってレベルだぜぇ?」
普段は、酔うと絡みグセのあるとは飲みたくない!と断言するイザークやディアッカが、
今日ばかりは広い心でつきあってくれている。
イザークなんて会議のあとだから、白い軍服を着たままだ。
「イザちゃまが軍服なら、あたしも軍服でよかったかもー。」
「だよなぁ。どうせこのまま出勤になりそうだしなぁー。」
「イザちゃまとか言うか?! それにディアッカ、シャワーは浴びろ!」
細かいことにもいちいち腹を立てながら、イザークが怒鳴っている。
こんなにもあたしたちは進歩がなくて、変わってない。
変わってない。・・・・・・・のに。
「どうしてっ・・・・・・アスラン・・・・。」
アスランは、あたしの傍にいないの?
「もういいかげんに忘れろ。」
イザークがいつものように言う。
「そんな簡単に忘れられたら、苦しまねーよなぁ?」
ディアッカがいつものようにフォローする。
アスランがオーブにいるんじゃないかってことは、ディアッカが言ってた。
行ってみたらどうだって、イザークに言われたこともあった。
でも、行けるはずがなかった。
だってあたしは、アスランから何も聞いてないんだもん。
「待っていろ」と言われてもなければ、軍を脱走した理由も知らない。
そんなあたしがノコノコ会いに行ったら、アスランはどうする?
こまる。
おこる。
お前なんて知らないと言われる。
もう終わったと言われる。
そんな言葉を聞くくらいなら、うやむやにしたままでいい。
あんな男もいたなぁって、いつか思い出になるように。
伝説のジャスティスのパイロットが、当時は彼氏でしたって、かっこいいじゃない?
「あーもう! 今日のお酒は涙腺にくるなぁ・・・・っ」
イザークが家から持ち寄ってくれた、ロマネ・コンティ。
飲みたかったワインナンバーワンだったけど、泣き上戸になるなら、もう飲まない。
・・・・・・飲む機会もないだろうけど。
強がりとは裏腹に、涙がこぼれた。
まだ涙の乾かない顔で、笑顔をつくる。
あたしの涙なんてキレイに無視して、イザークとディアッカが笑う。
「もー。やりなおし、しよ? もう一回、かんぱい。」
あたしの言葉に、三人同時にグラスを掲げた。
「フツー、一回だろ? 乾杯は。」
ディアッカが苦笑いをする。
「今日だけだからな? に付きあうのは。」
イザークが表情ひとつ変えないで言う。
だからあたしも、また、笑える。
「はいはーい。じゃ、いい?」
そしてあたしたちはグラスを合わせた。
「「「 アスランの誕生日に。 」」」
三人のグラスが、カチャンと音をたてた。
10月29日。
今日は、アスランの誕生日。
ひとりで過ごすには、淋しすぎる、秋の夜。
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【あとがき】
・・・・・・・・ごめんなさい、こんなアスラン夢で。
ってか、アスラン出てきてないし!アスランの誕生日夢なのに!
こんなの誕生日夢でアップしていいものか、ひじょーに葛藤。やっぱヨロシクナイ、よね?
というワケで、異例のアフターエピソードをつけてみました。
アスラン登場、ハッピーエンドご希望の方は、ぜひっ