「すごいっ!これで名所じゃないなんて、みんなどうかしてる。」
待ち合わせをして、一緒にやってきた俺のお気に入りの場所。
今は秋で、とにかく紅葉が綺麗に染まっていた。
ここは新緑の頃も、ものすごくいい。
秋の山でこんなに喜んでもらえるなら、きっと初夏のころのこの場所も、きっと。
の笑顔につられるように、俺の顔にも笑みが浮かんだ。
〔 DESTINATION −行く先− 〕
〜第八話〜
最初に抱えていた俺の不安は、今やすっかり消し飛んでしまっていた。
山の上のほうへ、上のほうへと進んでくるうちに、の目がキラキラ輝き出した。
そしてついに俺の一番のお気に入りの場所に来ると、両手をあげてはしゃいでいた。
こんなに綺麗な秋は初めてだ、と。
「今日は本当にありがと、アスラン。秘密の場所、誰にも言わないからね。」
を家まで送る途中、おもむろにが言った。
俺はと言えば今日一日、本当にドキドキの連続で・・・。
よく考えてみたら、こうやって休日に二人きりで出かけることなんてなかったことに、ようやく思い当たる。
「。もしよかったら今度・・・・。」
また頭が考えるより先に言葉が出てきた。
けれど、幸か不幸か。
俺の言葉のその先は、にかかってきた電話にさえぎられた。
「あ。・・・ごめんね、アスラン。ちょっと・・・。」
が俺に断わりをいれてから電話をとる。
「もしもし、です。イザーク?」
電話中のをずっと見ているのは失礼だとか、そんな考えは吹っ飛んだ。
俺はかなり驚いた顔で、を見てしまっていたと思う。
なんで、イザークから、に電話が?
のことではいつものように頭がまわらなかった俺。
けれど、カタカタとまるで計算をするように早く、今までの分も動き出した。
電話越しで、顔は見えないはずなのに、ほころんでいくの表情。
さっきまで俺と話していた時だって、嬉しそうだったけれど、それとも違う、何か。
嫌な予感がした。
子供のころから、親を見るたびに感じてきたことと、同じような感覚。
――――あきらめる、ということ。
それは、どうして。
つまりそれは、がイザークを・・・・。
「アスラン?」
に呼ばれて、ハッとして気づく。
すでに電話を終えていたが、俺をのぞきこんでいた。
「ごめんね?電話終わったよ。」
「あ・・・、あぁ。そう・・みたいだな。」
「ね、アスラン。家族と仕事でつき合うって、どういう気持ちなのかな・・・。」
きっとは、イザークのことを言ってるんだろう。
イザークのことなのにどうして・・・・。
どうしてそんなにが、悲しげな顔をしているんだ。
どうして。
「普通の家族団らんとは、違うもの?やっぱり仕事のほうが大事って、なるのかな?それって寂しくないかな。」
「・・・・・そういう時期は、過ぎたかな。」
の真剣さにうたれて、俺は素直にそう言った。
「小さい頃は寂しいと思った。ずっと、家族よりも仕事が優先って言うのは、変わらない。
だから早くから仕事を手伝いだしたのかもしれないな。少しでも一緒にいたくて。
仕事をしていれば、一緒にいられるから。」
悲しげな表情を見せるに、笑ってやることはできなかった。
「・・・悲しいんだね。私が考えてたより、なんだかずっと・・・。」
「イザークのことなのか?」
またどうしてこんなことを勝手に・・・・。
もうそんな風には思わなかった。
考えることもしないで、自然に言葉が出てくるのは当然。
聞かなければ、わからない。
口にしなければ、伝わらない。
そうしてを知りたいと、俺がずっと思っていたから。
そしてそんな俺の気持ちは、今のと同じだ。
イザークのことをもっと知りたいと思っている、と同じだ。
「私が心配しても、・・・仕方ないことなんだけど。」
苦い笑みを漏らしながら、が言った。
「最近、すごく忙しいみたいなの、イザーク。だから学校では忘れられるように・・・、仕事だけじゃなくて。
楽しいこともたくさんあるって伝えたいんだけど・・・うまく、いかなくて。
・・・アスランが今日連れて行ってくれたところみたいに、イザークにも安らげる景色みたいなものがあればいいなぁって、思ったり。」
あぁ、そうか。
のあの表情は、俺といる今の景色を喜んでいるだけじゃなかったんだ。
イザークと一緒に見ることのできる景色を思っての表情でもあったのか。
「好きなんだな、イザークが。」
そんな言葉すら、すんなり出てきた。
は驚いた顔で俺を見たあとで、照れたように一度、大きくうなずいた。
***
「好きなんだな、イザークが。」
そうアスランに言われて、驚いたけど自然にうなずいていた。
それまでは「好き」っていう気持ちを、はっきりイザークに対してもっていたわけじゃないと思う。
でも、アスランに言われて「あ。そうかも。」と思った。
何をするのにも、イザークが気になる。
それはここにきて、一番に出会って、助けてもらったからだと思ってた。
一緒に出かけても、イザークは怒ってることが多くて。
でもときどき「今日はおもしろかった」とか、ぼそっと漏らしてくれることがあって。
それが嬉しかった。
初めてプラントに来たから、私は知らないところばっかりで。
けど、ずっとプラントで育ったイザークも、初めての場所がほとんどだった。
そうやってお互い初めてのところを探検するみたいで、いつもイザークと出かけるときはドキドキしてた。
それって初めてのところへ行くからだと思ってた。
でも、今日アスランに言われて、ドキドキの理由がすとんっ、と降りてきた。
好き。
・・・・・なんだろうと、思う。
イザークのこと。
自分がイザークに何かをしてほしいんじゃなくて、私がイザークに感情をあげたいって、思ってた。
周りから特別って言われて、でもそれに対する寂しさを見せることもなくて。
そんな姿を、逆に見ていたくなかった。
イザークが本当に笑ったら、どんな表情になるんだろう。
「本当に嬉しいことを嬉しいと感じたときの、イザークの笑顔が見たいな。」
アスランにそう言ったら、アスランは意外そうな顔で言った。
「はっきり言って俺は、がきてからイザークの笑った顔を見たけれど・・・。」
でも違うの。
イザークの笑った顔は見たことある。
でもそうじゃなくて。
うまく言えないけど、眉間にシワがないイザークの笑顔が見たいの。
今だって楽しいときは笑ってるけど、笑ってるイザークの中に、イザークの置かれている立場は見えてしまう。
明日の仕事を心配しているイザーク。
私の目の前にいるイザークと、もう一人のイザークがいる気がする。
それが消えるなんてこと、どうやってもないかもしれないけど、近づきたい。
ずっと思ってた。
それがアスランの言った「イザークが好き」ということになるなら、私はすんなりうなずける。
「俺とイザークは立場も似てるし、・・・・話を聞くくらいなら、役に立てる。」
別れ際、アスランが言った。
「何かあったら俺に言えばいい。の話は、俺が全部聞くから。」
暗くなるのが早くなったこの時期。
アスランの顔はよく見えなかった。
それでも、アスランの言葉が私には心強く響いた。
今日、秘密の場所へ連れて行ってくれたアスラン。
そんなアスランだから、自分の気持ちを隠すことなく打ち明けられたんだと思う。
「ありがとう、アスラン!これからもよろしくね?」
帰って行くアスランの後ろ姿にそう言うと、アスランはその足を止めて振り返った。
そのときにアスランが何か言った気がするんだけど、アスランの声は聞こえなかった。
きっといつもみたいに「じゃあ、また」って言ったんだろうな。
そう納得して、私もアスランに背を向けた。
「ただいまーっ!」
「遅いよ、ねーちゃん!早く夕食作るの手伝え。」
「手洗いうがいが先ー。」
「早くしろよっ!」
家の中では、アウルとのこんなやりとりがあったかい。
家族だからこそ流れる空気とか、時間があると思う。
プラントのこの家が、私にそれを教えてくれた。
私は、誰に何を与えてあげることができるのかな。
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【あとがき】
アスラン親友突入!
うといはずのアスランが一気に覚醒しました。
種がとんだようです。(笑)
さて、アスランは何て言ったのでしょうか。