まだ待ち合わせ場所で待っていることを告げると、「すぐに行く」と言って電話は切れた。
それから、イザークは本当にすぐ来た。
なんでもなかったみたいに。
〔 DESTINATION −行く先− 〕
〜第六話〜
「みんなは?」
「先に場所取ってるって。ハイネのことだから、すっごくいい場所で待ってると思うよ?」
「そうか。ひとりで待たせて悪かった。行こう。」
「うん・・・。」
なにか遅れた理由を言ってくれるかと待っていたけど、イザークはどんどん先へ歩いていく。
人の波を歩くのが上手なんだな。
すいすい行っちゃう。
私はイザークの姿を見失わないように必死だった。
「あっ・・!イザーク・・・。」
なんとか隙間を見つけてついていっていたのに、やっぱりふさがれてしまった。
人の波がすごくて、前に進めない。
声に気がついてくれたイザークが、私のところへ戻ってくる。
「大丈夫か?」
「・・・・。」
なんだか泣きたくなってきた。
不安な気持ちで待っていた気持ち。
イザークに置いていかれた気持ち。
理由を話してくれないこと・・・。
そんなことが混ざり合ってぐちゃぐちゃだ。
私はちょうど手の高さにあったイザークのポロシャツの裾を、はしっと掴んだ。
「おい・・?!」
「う・・うぅ、えぇぇ〜っ・・!」
やっと傍にきてくれた安心感が溢れ出した。
「なにを泣いているんだ?」
私に掴まれたことで少しズレた肩のあたりを押さえながらイザークが言った。
「だって・・・、イザーク、・・電話つながんないし・・・。来ないし・・・。私ひとりで・・・。」
心細かった。
いろんな心配をしてたのに、まるでひとりで無駄な時間だったみたいに、イザークはなんでもなくて。
事故じゃなくて安心したけど、やっぱり理由が知りたかった。
なにもないのに、こうやって遅れてくる人じゃないから。
「遅れた理由も、話してくれない。・・・そんなに頼りない?」
自分で言ってて、その通り!と思ってしまった情けなさ。
確かに頼りないだろうけど・・・。
イザークは怒ってるみたいに眉をひそめて、私の手を引いて歩き出した。
と思ったら、ぴた、と立ち止まる。
「?」
どうしたの?と首を捻ると、言葉だけが返ってきた。
「・・・・意味はないぞ。」
「?」
「迷子になったら困るからだ。」
そう言ってまた歩き出す。
少し歩き出してから、ようやく意味がわかった。
イザークは私と繋いだ手のことを言ったんだって。
あいかわらず、それでも理由を言ってくれなかったけど、それだけでなんだかほっとした。
繋いだ手を見て、安心した。
ゲンキンだなぁ、私。
置いていかれることが悲しかっただけ?
うん。
いいや。
イザークはちゃんと来てくれたから。
そう思って、はぐれないようにしっかりイザークの手を握った。
そのとき。
「お兄ちゃん!」
高い子供の声がして、イザークが立ち止まった。
父親に肩車をされた男の子が、嬉しそうにイザークに手を振っている。
知り合い?
イザークの顔をのぞくと、その子供を見て笑みを浮かべていた。
隣にいた母親らしき人が、子供と少し話をして、イザークに頭を下げた。
「すみません。うちの子がご迷惑をおかけしました。」
「本当にありがとう。直接お礼が言えて嬉しいよ。」
「いえ、俺のほうこそ安心しました。ちゃんとご両親に会えたようで。」
どういうこと?
私はイザークの顔を見ているだけしかできない。
「きちんと両親に会えるまで立ち会う気でいたのですが、迷子センターの方で大丈夫とのお話でしたので。」
「起きたらお兄ちゃんがいなくてびっくりした!僕寝ちゃったの?」
「ああ。おんぶしていたらいつのまにか、な。よかったな。ちゃんとパパとママに会えて。」
「うん!お兄ちゃんがいてくれてよかった。」
イザーク、まさか遅刻の原因・・・。
会話の内容から推測している私に、母親が笑いかけてくる。
「ごめんなさいね。きっと約束の時間に遅れてこられたのでしょう?」
「えっ・・あ、ハイ。でも、あの・・・よかったデス。」
よかった。
子供がちゃんと両親の元へ帰れたこと。
よかった。
イザークの遅刻の理由がわかったこと。
でも、どうして?
ちゃんと理由があるのに、遅れてきた理由があるのに。
イザークはなんにも言ってくれなかったの?
「言い訳にしかならないだろうが。」
親子と別れてからなにがあったのかを聞かせてもらった。
どうしてそれを言ってくれなかったのか聞いた私に、イザークが言った。
「言い訳とは違うと思う。」
「遅れたことが結果だ。残るのは結果だろ。」
そう言い切るイザークに疑問を感じた。
「ねぇ、イザーク。私は言い訳でもいいよ。」
私が聞きたかった理由を、イザークが言い訳だというならそれでもいい。
でも。
「言い訳になってもいいから、理由を知りたいよ。」
前を歩いていたイザークが立ち止まって私を振り返る。
私もイザークの目を見て話を続けた。
「だって心配したもん。なにかあったのか、どうしたのか考えた。
無事にきてくれてよかったけど、もしかしたら遅れた問題を抱えたままかもしれない。
だから聞かせてほしいよ。なにがあって遅れたのか。」
「けれど俺は・・・。遅れたことに変わりない。」
「結果を求めるのって、仕事のクセ?」
学生なのに仕事をしてるイザークの大変さを私はわかってないかもしれない。
でも、混同しないでほしい。
もっと和らいでほしい。
「私たちは、イザークに結果を求めてない。ただイザークに何かあったんじゃないかって心配だった。
だから、そんな私たちを安心させてほしい。そういうのはダメかな?」
イザークは私の顔を見たままで、私もイザークの顔を見たままで答えを待った。
そのとき、あたりがワッとざわめいて、そのあとで人々の姿が光にきらめいた。
「始まっちゃった!」
人の目が海岸線にくぎ付けになる。
私も一瞬目が奪われた。
けど、急がなきゃ!
みんなが待ってる。
「急ぐぞ。」
低い声でそう言って、イザークはまた私の手を引いて歩き出す。
みんなが待っている場所は、もうすぐそこ。
「ねぇっ、イザーク?」
「・・・・努力する。」
「ん?」
「今までの俺の考えだ。すぐに変えられるかはわからんが努力する。」
怒ったような、早口の言葉。
私を振り向くこともなく、どんどん歩いていくイザーク。
揺れる銀の髪を後から見ながら、私には笑顔が湧きあがってきた。
「うん!」
大きくうなずいたとき、すぐ近くにハイネとフレイとアスランが見えた。
ハイネ、アスラン、フレイ、私、イザーク。
5人で並んで花火を見あげた。
キラキラの残像が、夜空にいくつも輝く。
それはまるで、星が落ちてくる様子と似ていた。
***
「すごいっ!星がたくさん落ちてくるっ!」
がとなりで感動の声をあげた。
思わず笑いがこみあげた。
あれから時間がどれだけ流れていても、やっぱりは同じことを言う。
花火が星、か。
確かに、そう見えなくもない。
「あのときは、本当の星だったぞ?」
花火の轟音で聞こえないことをいいことに、つぶやいた。
次々に打ちあがる花火。
すっかり心を奪われている。
繋いでいた手が、今も繋がれていることに気がつかないままで。
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【あとがき】
イザークしてやったり?(笑)
意図的に手を繋いだままです。罠です。(笑)
さぁ、ちゃんの送迎権を得るのはどっちだ?!