集合場所に、、ハイネ、フレイ、俺。
集合時間を過ぎた。

・・・一人足りないままだ。










〔 DESTINATION −行く先− 〕
     〜第五話〜










「アスラン・ザラ?あぁ、ディセンベルグループの?それはどうも。姉が迷子にならないように専用のGPSでも用意してくれたんですか?」

の浴衣姿を楽しみに、の家を訪れた俺を出迎えたのは、キツーイ目をしたの弟。
俺の後ろにあるディセンベルグループの名前をまったく気にしないのは姉譲りだが。
・・・なんだかとは違う意味で気にしていないようだ。

「ごめんね、アスラン。少し遅れたね。」
出てきたの姿は、俺の期待以上で。

そんなに長くない髪を、浴衣に合わせてアップにしていて。
少しこぼれている後れ毛がまた、たまらない。

・・・って、だから俺はどうしたんだ。
この前からなんだかおかしい。


「髪型、いつもと違うから・・・。なんだか別人みたいだ。」
「そう?へん?」

変なものかっ!!

心の中で叫んでる俺。
「いや、いいんじゃないか?」
でも、口に出せるのはこんな言葉がせいいっぱい。

「よかった!アウルがやってくれたんだよ?」
「アウル?あー・・・。さっきの?」
「うん。弟。器用でしょ?」
「・・・男がこんなこともできるものなのか?」
ちなみに俺にはまったくできる気がしない。

「ねーちゃんをきれいにするのは俺の役目、って言ってる。」
「・・・・。」
それはどういう意味なんだ?

俺が返事に困っていると、がそんな俺を見てくすくす笑った。
「変わってる?私たち。」
まるで自分でもそう思っているかのような言い方だった。


















アウルと姉弟になったのは、つい最近。
ううん。
今だって、戸籍は別々。

一緒の戸籍にいることを「家族」って言うなら、私たちは家族にもなれない。

共通しているのは、私の父欄にある名前と、アウルの養父欄にある名前が一緒なだけ。
それでもアウルは、会ってすぐに私を「ねーちゃん」って、呼んでくれた。
居所をなくした私を、温かく迎えてくれた。


お父さんと、アウルと、私。
私の作る料理を、おいしいって食べてくれる二人。

私は、一緒にご飯を食べれるこの場所を、「家族」だと思ってる。





イザークも、アスランも、同じ目をしてるって思った。
私と同じ目。

寂しいことを、寂しいって言えなくて。
大切な場所が見つからなくて。


私にはアウルとお父さんがいてくれたけど、二人にはもう望めないのかな?
すごい家に育つって、孤独ってことなのかな?

それなら、私が返してあげられるかな?

家族とは違くても、同じような「家族」みたいな場所になれないかな?

















?」
アスランの声にハッとして我に返る。

いけない、いけない。
すぐに入りこんじゃうのは私の悪いクセ。

アスランが心配そうに私を見てる。
「ごめん!少し遅れてたんだよね?速く歩かなくちゃ!」
私は少しオーバーに腕を振った。
アスランが笑ってる。

うん。
よかった。
楽しそう。

「楽しみだね!花火大会。」
「あぁ。楽しみだよ。」

すごく上品にアスランが笑った。
見守ってくれる、っていう笑い方をするなって、思った。

もうお仕事をしてるアスランだから、大人の人との付き合いのほうが多いのはわかる。
そのくせちょっとボケてたりするんだけど、基本的には同級生の私を「見守ってる」。
でもそれは心地よかった。


いっぱい思い出残そうね。
アスランの心に。

初めての思い出を、いっぱい。












集合場所に着くと、ハイネとフレイがいた。
フレイは黒に白い蝶々の模様が入った浴衣で、それにフレイの髪の色の赤が映えて、すっごくキレイだった。
私の浴衣は紺色で、アジサイの模様が入っている定番のもの。
フレイと比べたら、・・・そうお子ちゃま。

でも仕方ない。
どうやっても私は童顔で、年以上に見られることなんてもちろん、年相応にも見られない。
その反面、フレイは顔のパーツがお人形さんみたい。
まるでモデルさんみたいだもん。

一緒のゼミだから、フレイと比べられることも多くなってきたけど、不思議。
それを嫌とは思わなかった。
ちょっと大人びた、フレイ。

どことなく、その大人びた様子が、イザークやアスランと似て見えた。







「・・・こないなぁ。」
ハイネが腕時計とにらめっこしながら言った。
「電話も出ない。・・・どうしたんだろ?」
私も、コール音ばかりが続くケータイにため息をついた。

なにかあったんだろうと思う。
イザークが待ち合わせの時間を過ぎても来ていない。


いつも仲間内に踏みこんでこない態度のイザークだけど、すっぽかすなんてことはしない人。
そういうところは一番真面目だと思っているし、信じてる。

態度とは別に、私たちを大切に思ってくれてるって、わかるから。



「これ以上のんびりしてっと、場所がなくなるな。・・・仕方ない、別れるか。」
最初っから混むこと気にしてたハイネが言った。
「じゃ、私待ってるよ。」
イザークにさっきから電話をかけて、着歴が残ってるだろから、なにかあったら一番に私に電話をくれると思う。

「そうね。待ち合わせ場所にいたほうが合流も早いでしょうしね。」
フレイがさりげなく言った。
私は、なんだか自分のことみたいに嬉しくなった。

フレイも、イザークが来ないと思ってない。
ちゃんと理由があって、これないんだって思ってくれてる。


確かにイザークの態度は、一見誤解を生みやすい。
けど、イザークの本質はそうじゃないって、一緒にいるとわかる。

だって、本当に他人に関心がない人は、目の前で人が転んでたって手を差し伸べたりしない。
そのまま、教室まで一緒に走ってくれたりしない。
私は、最初からイザークの本質に触れられたから、なにがあっても信じてる。
この遅刻に、イザークではどうしようもない理由があるって。





「あ、じゃあ俺もと残・・・。」
「アスラン。お前は場所とり。」
言葉を途中でさえぎって、ハイネがアスランの腕をつかんだ。

「だから混むんだって。三人分の場所、俺とフレイで確保しろってのかぁ?ムリムリ。」
混むことをずっと気にしてるハイネだけど、場所を妥協する気はないらしい。
すっごくハイネらしい。
やるとなったら、とことん。


「海も花火も見えなきゃ、この場所の意味ないだろ?ってーことで、イザークは任せたぜ?。」
「ナンパされたらシカトしてなさいよ?は律儀に答えそうで怖いわ。」
「なっ・・ナンパ?!それなら余計・・・!」
「はーやーくしろよッ!アスラーン?」

アスランはハイネに引きずられて行く。
まだこっちを見てくれているので、私はアスランに手を振った。



ひとりになったら、とたんに心細くなった。
ケータイをぎゅっと握りしめる。
今はこれだけが、イザークとのつながり。

なにがあったの?
イザーク。





イザークに限って、ケータイをどこかに忘れてるなんてことはなさそう。
それなら、連絡できない事情は?

仕事・・?

でも、いくら急な仕事でも、それならメールで連絡してくれるはず。


事故?


・・・そんなの、考えたくない。









不安な気持ちのまま、時間がすぎる。
私の周りにひとりでいたコたちに、次々に待ち合わせの相手がくる。

中には、浴衣同士になるカップルもいて、うらやましいような恥ずかしいような。
あからさまに私を見てから場所を動く人もいた。


・・・すっぽかされてる、とか思われてるのかな?


違うもん。
イザークはくるんだもの。




そしてついに、待ち望んだ電話が鳴った。








***






またポケットでケータイが鳴った。
鳴った、といっても俺のケータイは常にマナーモードで、音なんか鳴ったことはない。

着信があることを、静かに揺れて告げている。
相手が誰だかも、どんな要件かもわかっている。

「怒っている・・・、か。」
「なぁにぃ?」
「いや。・・・なんでもない。」

俺の両手はふさがっていた。
こうなる前に電話しておくべきだったと、後悔したところで遅い。
あとからでは、何を言っても言い訳だ。


怒っているなら、まだいいほうだ。
呆れられているかもしれない。

そっちのほうが、よっぽど辛い。





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