不思議な、存在。
君は、どうしてこんなにも、俺のほしかったものをくれるんだろう。
最初は、俺が君に必要とされた。
それはたわいのない、授業のことだったり、学校のことだったり。
それでも、そんなたわいのないことを俺に聞いてくれる存在なんていなかったから、俺には君が特別になった。
そして、いつしか俺が君を必要としていた。
家でもなく、仕事でもなく、学校でもなく。
。
君だけが、本当の俺を見てくれていた。
〔 DESTINATION −行く先− 〕
〜第四話〜
「アスラーン!」
「や、あ。。」
いつからだろう。
声が聞こえてくるだけで、ドキドキした。
名前を呼ばれたとなるともう、心臓が跳ねるほどで・・・。
につられるように、笑顔になる。
「この前の講義で出されたこの問題なんだけど、こっちの公式使っちゃだめなの?」
「あぁ、ここまでもっていっちゃったのか。確かにこれだと・・・。」
内容は笑顔になるようなことでもないけど。
それでも、俺には安らげる時間だった。
の声が聞けて。
の顔が見られて。
***
すっかり恒例となったゼミ仲間の飲み会。
初めての開催から誰一人欠けることなく続いている。
つまりイザークですら欠席したことがないということで。
俺は自分のことも含めて驚いてばかりだ。
いつも行く店の入り口に貼ってあったポスター。
がその前で立ち止まった。
「ねぇ、これ行きたいな!」
が指さしたポスターには『プラント花火大会』の文字と写真が躍っていた。
「毎年海岸でやってるやつかぁ、かなり混むぜ?」
ハイネがポスターをのぞきながら言った。
「わりぃ、。俺先約あるわ。」
「何人と?」
「・・・・なんだかずいぶんキツーくなってきましたね、ちゃん。」
「自分の行為の結果でしょ?」
とフレイの畳み掛けるような言葉に、冷や汗を流すしかないディアッカ。
この光景を見ることも多くなってきたな。
「あとはー?みんな行ける?」
行くことは決定らしい。
予定は・・・なんとかなるだろう。
俺はうなずく。
イザークはなにも態度を示さないが、「行かない」と言うことはない。
ハイネも「混むよなぁ。」とボヤきながらも拒否しない。
フレイも「行くわ」と快諾した。
・・・実はこんなイベントに出かけるなんて初めてだ。
花火か。
なにを着ていったらいいんだ・・・?
あとの飲み会では、花火のことばかり頭に浮かんで、上の空だった。
「じゃあ、また明日。」
が家の方向にむかい、その横に無言のままでイザークが立つ。
初めての飲み会から、恒例になった姿だ。
あのときは渋々といった様子でとタクシーに乗って帰ったイザーク。
けど、それからはハイネに言われずともイザークがを送るようになっていた。
反対方向へ帰る俺はなかなか言い出せずにいたけれど、今日はどうしても俺が送りたかった。
・・・・いや、本音を言えば毎回・・って、いまはそうじゃないだろ。
飲み物はたっぷり飲んだはずなのに、喉がやたら乾く。
仕事のときでさえこんな緊張はしたことがない。
「。・・と、イザーク。今日は、俺がを送りたいんだけど。その・・、に聞きたいことがあって。」
「別に俺が送らないといけない理由はない。そういうことなら、俺はこのまま帰らせてもらう。」
イザークはそう言うとスタスタと帰ってしまった。
残された俺とは顔を見合わせる。
「心配してもらって私は嬉しいんだけど、いいの?アスラン。」
が笑う。
いい、というより、むしろ送らせてほしい。
***
「花火大会のことなんだけど。」
二人で並んで歩き出して、俺はすぐに話を切り出した。
「うん。あ、アスランもだめだった?お仕事?」
「いや、そうじゃなくて。・・・そう、じゃないんだけど・・・。」
「?」
「・・・・初めて、なんだ。」
「ん?」
「花火大会、とかに行くのは。」
「そうなんだ?じゃあ近くでばーんって打ちあがるの見るの、初めて?!」
「あぁ。」
「すっごいよー。大迫力だよー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、が楽しそうに言う。
「それからね、屋台!これも楽しみなんだぁ。私、チョコバナナはぜったい食べる。」
「チョコバナナ・・・。」
まだ先のことなのに、もう明日あることのようには興奮して楽しそうに話している。
そんな姿を、見ているだけでも嬉しい。
「それで、なにを着ていったらいいのかわからなくて。」
「私とフレイは浴衣着ようねって約束したよ。ハイネは・・・うーん、混むこと気にしてたから、きっと普通の服じゃないかな。」
それを聞いて安心した。
「そうか、服が決まっているわけじゃないんだな。」
「決まってる?」
「あ、いや。パーティの席ではフォーマルな服装と決まっていたりするから、花火大会もそういうことがあるのかと。」
「ないない!自由だよ。」
俺がほっとした顔を見せたせいか、がそんな俺を見て笑った。
「男の人の浴衣もかっこいいと思うけど、着慣れてないとはだけちゃうし、下駄の鼻緒が痛いかも。いつもどおりの服で大丈夫だよ。」
は花火大会に行ったことがない俺を馬鹿にするのではなく、同じように楽しみにしてくれている様子で。
「私も海岸にあがる花火なんて初めて。楽しみだね。」
俺の初めてを、自分の初めてとあわせて話しをしてくれた。
俺と同じ目線で話してくれるに、俺は気持ちが押さえきれなくなった。
「迎えに行く。」
「え?」
言ってしまってから、固まる。
なにを言ってるんだ?俺は。
こんなふうに考えるより先に言葉が出てくるなんてこと、今までになかった。
いつもなら、どうやって言ったら相手がどう思うか考えて、俺は行動していたのに。
言ってしまってから、自分は何を言ったんだと、頭がぐるぐるまわった。
だって呆れて俺を見てるじゃないか。
家だって全然逆の方向だし、迎えにくる理由だって・・・特段ない気がする。
しまった。
自己嫌悪だ。
取り消そうとしても、取り消す理由もでてこない。
が困ってるじゃないか!
「はじめて行く場所だから、すごく助かる。」
「・・・・・・え?」
「わざわざ心配してくれてありがとう。今日のお礼のつもりならいいのに。」
「いや、そんなつもりでは・・・ない、ような・・・。」
急展開。
まさかこんな解釈で承諾がもらえるとは思わなかった。
考えてみれば、らしい解釈かもしれない。
「じゃ、お言葉に甘えます。よろしく。」
まだ、先のことなのに明日のことのように嬉しそうに・・・・。
のことを言えない。
俺のほうこそ、明日のことのように楽しみだ。
の家の前で手を振って別れる。
花火大会の日は、浴衣姿のを一番に見られて、一緒に行く。
まるで特別な関係の二人のようだ。
鼓動が早い。
・・・・って、俺はさっきからなにを!
そうじゃない、そうじゃないだろ。
は大切な仲間。
仲間だ。
がいるから、今のつながりがある。
恒例となった飲み会や、花火大会といったイベント。
俺が初めて体験することばかり。
そのきっかけをもたらしてくれたのが、。
・・・だから?
だから、・・・・大切。
特別。
そうか。
そういう、ことなんだろうな。
・・でも、まて。
さっき、特別な二人・・・って?
浴衣姿のを一番に見られて、一緒に行く。
そのことに喜んだ。
あれ?
なんだか、よくわからない。
どういうことなんだ・・・・・。
・・・・・わからない。
でも今、こんなにも俺は喜びにあふれている。
の笑顔があふれている。
back / next
【あとがき】
わかんないんです、アスラン(笑)
初恋だから。