さて、・・・・どうしよう?

編入試験のときに一度来てるっていうのに、私ったらすっかり忘れてる。
・・もっとよーっく、案内してもらえばよかった。
って、後悔してもいまさら遅い。

系列は一緒だっていうのにさすが本家・プラント大学。
キャンパスの広さはオーブ大学の比じゃない。



あぁ、講義開始40分前には大学に着いていたのに・・・。
すでに今、講義開始10分を切った。




広い広いキャンパスの中で、は途方にくれていた。










〔 DESTINATION −行く先− 〕
     〜第一話〜










こういうことを、なんていうんだろう。
偶然?
運命?
それなら、必然?

それをなんて呼ぶのかは、そのあとの自分次第。

そんな出来事が、に起こった。





「ほら。つかまれ。」
「・・・ありがとう、ございます。」

差し伸べられた手を握ると、予想以上に強い力で引っ張られた。
華奢な身体つきに見えるのに、やっぱり男の子なんだなぁ。
なんて、ちょっと場違いなことを思った。





迷子のにできたことは、きょろきょろとあたりを見回すことだった。
そうして後ずさりしていたら、少しの段差に引っかかってしまった。
ありえないくらい派手に転んだとき、すぐ近くに人がいた。


講義前の時間だから、中庭にはほとんど人がいなかったのに、本当についてない。

見事に典型的に転んだものだから、目撃した彼はあっけにとられたようにを見ていた。
恥ずかしさからすぐにでも立ちあがりたかったのに、あまりの痛さに起きあがれない。
辺りには彼しかいない状況に、使命感を感じたのか。
彼は散らばったの教科書を拾い集めて、なおかつに手を差し伸べてくれたのだ。



「じゃ。」
一通り役目を終えて立ち去ろうとした彼のジャケットを、は後から思いっきり引き止めた。
「なっ?!」
予期せぬ反撃に彼がのけぞる。


「ごめっ!・・ごめんなさいっ!」
とっさに手が出てしまったことには謝った。




優しくしてくれた人に、この仕打ち。
あぁ、またやっちゃった。私。




「なにをする?!」
振り向いた彼の目は、その色のように冷たかった。

美形だけに、にらみつけられると凄みが増すな。
なんて、また場違いなことを思う。


「あのっ、旧館B棟2階257って、どう行ったらいいの?」
とたんに彼から「は?」という声が返ってきた。
けど、ここでひるむわけにはいかない。
大切な講義開始時間が迫っている!



「えーと、・・・教室が、わからなくて。」
「あきれるな。入学の説明会のあとで1年の講義教室については案内があったはずだが?」
「うう・・・。私、三年生なの・・・。」
「は?なんでわからないんだ?!ますます疑問だが?」
「系列のオーブ大学から編入してきたの。・・あぁっ!もう絶対遅刻!」


教室の場所さえ聞ければよかったのに、ぽんぽんと続いてしまった会話。
会話が弾むのは嫌じゃないけど、これで教室の後から忍びこむことは決定みたい。
あ、だめだ。
出欠は最初にとるよね。

編入1日目から遅刻。
・・・かなり目立つんじゃないかな、コレ。




しゅん、と教科書を抱きしめていたら、くんっと腕を引かれた。

「はやくこい!連れて行ってやる。」
そうして彼はぐんぐんの手首を引いて歩き出した。
「うわっ!ちょっと・・!」
手首をつかまれているからバランスを崩した。
二歩三歩、慌てた足がふんばろうとせわしない。


彼が振り向いた。
バランスを崩す私を、驚いた顔で見てる。

うう・・。
どうせ私はとろいです。
急な展開にはついていけません・・・。


「悪かった。・・・その、遅刻だと言うから、少し慌てた。」


私からしたら、ちっとも慌ててなんかいない口ぶり。
むしろ冷静そのもの。
少しわけて欲しいくらい。


「平気です。お願いします!」

彼がつかんでいた私の手首を離したので、私はそのまま彼の手を握った。
「走ると思っていれば転ばないから。」

つかまれているより、手を繋いでいたほうが走りやすい。
私はしっかり彼の手を握って、反対の手で教科書を抱きこんだ。

突然手をつかまれてギョッとした彼だったが、すぐにそのまま私の手を引いて走り出した。



やっぱり手を繋いでいてよかった。
その後、走り出した彼の速いこと速いこと。

きっと手を繋いでいなかったら、私また迷子だった。


着いてみれば。
私の受ける授業は講師自身が遅刻で、まだ始まっていなくて。
あれだけ心配した失態も、さらさずにすむという幸運。


そして私は、彼がイザーク・ジュールという名前で、私と同じ学年、同じ学部だと知った。
「あとでお礼するからね!」

教室まで送り届けてくれた彼に、私は手を振った。
彼は「ふん」と、拒否とも合意ともとれる態度で去っていった。



***



「となり、いいですか?」
いくつかの学部が集まって受ける講義らしく、その場所は講堂並みの広さだった。
座っている子たちはきっと同じ学部同士で固まっているんだろうけど、まだ学部必須の講義を受けていない私。
誰が誰?
って感じでわからない。

あーあ、イザークもこの学科、とってくれてればよかったのに。



席はほとんど埋まっていて、空いていたのは最前列。
その人はまだ講義は始まってないのに、もう教科書とノートを開いている。

「え?あぁ、どうぞ。」
少しはみ出していた自分の荷物を片づけながら、彼はのために椅子まで引いてくれた。


いえいえ、そんなことまではお願いしてないですよ。


小さく「ごめんなさい」といろんなことに謝りをいれて席についた。
だってこれからいろいろ聞かせてもらいたいことがあるのだ。

「あのぉ・・・。」
続けて話し掛けたに、彼は嫌な顔もせずに向き合った。
「はい?」

「あの、この講義は去年の続きで、今年は教科書ここからスタート。で、間違いないですか?」
「あぁ、それで合ってる。・・・途中取得?めずらしいな。」
「いえ、編入してきました。オーブ大学から。去年までは、そっちで。」
「へぇ・・。やっぱりめずらしいな。」
「はい。よろしくお願いします。・・・よろしくついでに、いいですか?」

初対面の恥ずかしさがまだ残る中、はせっかくの機会なので自己紹介をすることにした。
です。今日からオーブ大学からプラント大学に編入してきました。学部は情報学部です。これからよろしくお願いします。」
一気に終えて、ぴょこん、と頭を下げる。
そこに。

「悪いな!今日のこの講義は講師急病、休講だ。」

大学の事務員がやってきて、教室中に大声を張りあげた。
それだけ告げるとさっさと出て行ってしまう。


がやがやと周りが騒がしくなって、生徒たちは次々に席を立ちあがった。
はあっけにとられてポカーンとして出遅れた。
編入1日目。
最初の授業が・・・・。これ?


事態の展開についていけず、まだ自分の席でポカンとしているに、笑いながら彼が言った。

「アスラン・ザラだ。よろしく。学部は君と同じ、情報学部。」





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【あとがき】
 さぁ、始まりました!
 ときメモGSの魅力にとり憑かれたライナが、種でときめきたくて。
 本当にあのゲームを種でつくってくれたら言うことなしなんですが。
 それはありえないので自分で。
 そういえば学園モノは初ですね、連載。