「未来を産む」
と、さんは俺に言った。

「出会って数時間しかたっていない人間を、分娩室にまで立ち会わせるヤツがいるかよ?!」
そう心の中では思っていたのに、結局俺は最後まで立ち会ってしまった。










〔 今日が紡ぐ未来を 〜PHASE:09〜 〕










「頭だいぶきたぞ。イキむの休め。次で出るから。」
「休まないー・・!」
「おいイザーク!」
「俺か?!」
「さぼってんじゃねぇよ!お前もちゃんと手伝ってこその立ち合い出産なんだからな。」
「手伝う?!」
の上半身持ちあげて、腹部に力入れさすんだよ!」
「んー・・・っ!!」
「よし!頭出た。、呼吸切り替えろ、呼吸!短く早く息して。」

赤ちゃんが出てくるときは、本当にあっという間だった。
「午後9時20分、男の子。・・・、おめでとさん。」
ナスティにそう言われて、ようやく深く息を吐いた。
さっきまでのあの陣痛は、ウソみたいに消えていた。

すぐに赤ちゃんの元気な泣き声も聞こえてきた。
「ほら、初抱っこ。」
胸の上に乗せられた小さな命が、精一杯に身体を震わせて泣いていた。

まだしわしわの、ちいさなちいさな顔。
私は人差し指で、壊してしまわないようにそっと、赤ちゃんの頬に触れてみた。
「生まれてくれて、ありがと。」
「俺のセリフだ、それは。」
イザークの手が、私の頬に触れた。

も、子供も、本当によくがんばってくれたな。・・・ありがとう・・・っ」
「イザーク・・・」
私はイザークの表情を見て、そして笑みを浮かべた。
あのイザークが、涙をこぼしていた。
気丈な表情は崩さないままで、それでもひとつだけ涙をこぼしていた。



***



「ずいぶんとがわがままを言ったな。礼を言う。」
ベランダで夜風にあたっていたシンに、イザークが言った。

あんたそれ本当に礼を言ってるつもりなのかよ、とシンは心の中でつっこんだ。
どうしてアスラン・ザラといい、イザーク・ジュールといい、さんの周りには一筋縄じゃいかないようなヤツラばっかりなんだ?
・・・・もしかして類友なのか?さん。

だんだん独りの会話が増えてきた。
虚しくなったシンは、思わず思ったままの言葉を口にした。


「かわってますね。」
「あ゛?」
少しドスが入ったような声で聞き返されて、シンは少しばかり慌てた。
「いや、だってなんかみんな家族みたいに・・・。」
シンが目を泳がせた先には、を囲んでワイワイ話しているキラやアスランがいた。
イザークはシンの目がなにを追っているのかを見ると、当たり前のように言った。

「あいつらは、またひとつの家族みたいなものだ。」
「そっか、さんも・・・戦争で・・・。」

――― うん。シンと同じ。両親とも前の戦争で ―――
そういえばはそう言っていた。

そしたら、幼なじみなんて最後の家族みたいなもんだよな。
そう納得したシンだったが、ここでようやくその爆弾に気がついてしまった。
なんで今まで気づかなかったのか。

さっきの場所で、からされた、あの話。
あの女性医師に「昔話」だと言った、あの話で・・・。

は言っていなかっただろうか。
大切な親友だった仲間が殺されたと。
殺したのが幼なじみの―――・・・。
「キラ・・・ヤマト・・・?」

呆然とキラを見ながらシンがつぶやく。
イザークはシンのその顔を見て、ことを察した。
「信じられない、か?あんな笑い合っているあいつらが、お互いに銃を向けて、殺し合いをしていたんだからな。」


イザークの言葉に、シンは何も言えなくなった。
今は、本当に本当に楽しそうにしているあの人たちが、殺し合いをしていた。
知らない相手でもなかったのに、相手が幼なじみだと知っていて、銃を向けていた。

大切な人を、殺されてなお―――。
「どうして・・笑えるんだよ。」
目の前にして、純粋に浮かぶ疑問だった。
イザークはそんなシンに対して、口元に笑みを浮かべた。

「あのとき、殺さなかったから。だろ?」
「そんなことわかってるよ!生きてなきゃ、笑えないことぐらい。」
死んでる人間が笑うもんか。
そんなこと子供だってわかる。

けれどイザークは、その口元の笑みを崩さずに言った。
「お前が言っている意味とは違う。」
「なにが違うんだよっ!・・あ、違うんで・・すか。」
怒りに口調がタメ口だった。
気づいたところで修正しても手遅れだ。
イザークはくっくっと笑った。

「俺たちはみんな、少なからず大切な奴らを殺されている。
 それでも、殺したやつを殺すことで終わりにしてやるとは思わなかったんだ。」
殺さなかった。
キラはイザークを。
はキラを。

憎むことは、確かに始まりだったかもしれない。
けれど、それで戦争がなくならないことを知った。
「俺たちは、殺すことで終わりにしなかった。守ることで、始めることを知ったんだ。」

殺すことでは終わらない。
ナチュラルと、コーディネーター。
殺すことでは、どちらかが滅びるしかなかった。


は、それをお前に見せたかったんだろう。殺してきた人間にも、守りたいものがあることを。」
「守りたい・・・もの・・・。」
「俺もたくさん殺した。ナチュラルを殺すことを、ためらうこともなかったころがある。
 だが、子供が生まれたときの喜びに、ナチュラルとコーディネーターの違いがあるか?
 あるわけがないだろう。それが同じだということを知った俺たちは、もう争う理由など持たない。」
だから誓える。
もう二度と、あんな戦争は起こさないと。


「シン。お前、ザフトにこい。」
「はっ?!」
イザークのその誘いは、あまりに唐突だった。
それは、シンがずっとずっと願っていたこと。
でも今その誘いは、決してシンが望んだ形ではない。
自分は復讐のために、ザフトへ行きたかったのだから。

「なんですか、それっ」
馬鹿にされているように感じて、シンは顔を背けた。
「シンがそんな奴でなきゃ、はそこまでお前に執着していない。」
俺のなにを知っているんだと、シンの目がとがる。

それでもイザークは見逃さない。
まっすぐで、おそらくガラスのようにもろくて、純真。
そんなシンを捻じ曲げてしまったものが、あの戦争だ。
その責任は、少なからず自分たちにあると。




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