「はいはーい、キラでーす。ー?」
「・・・・すいません、代理です。」
思わず謝ってしまったシンだった。
あまりにもテンションが高かったので、からの電話を心待ちにしていたのだろうと思ったからだ。
「さんから頼まれて、カガリ・ユラ・アスハに電話したんですけど、キラに頼んでほしいと言われてかけました。」
「ふーん。で、なにを?」
「イザークを連れてきてほしいって言ってました。」
〔 今日が紡ぐ未来を 〜PHASE:06〜 〕
「許可は今すぐに私が取る!急いでくれ、シン!」
あっさりとシンに言ってのけたカガリ・ユラ・アスハは、さっさと電話を切った。
切る直前に、ちゃっかりシンに次の電話の相手を指示して。
イザークって、きっとさんの旦那だろ?
さんの旦那って、プラントにいるんだろ?
無理じゃねぇ?
と思いながらもシンはキラにカガリからの伝言を伝える。
ところがシンの予想は外れた。
「わかった。には僕が責任もって連れてくるからって、伝えて。」
キラは考えこむ様子もなく、さらっとそう言ってのけた。
「え・・あの、イザークって人、プラントにいるんじゃないんですか?大丈夫なんですか?」
伝えてしまってからがっかりされても、そこに居合わせるシンのほうがたまらない。
思わず問いかけてしまったシンだったが、電話の向こうのキラは平然として言った。
「うん。僕、最初からそのつもりでいたから。えーっと、シンって言ったけ?悪いけど僕も頼みごといいかな?」
なんだかさっきのカガリのときと同じ展開だった。
ぶつくさ文句を言いながら、(でも誰も聞いてないことが虚しくて)それでもシンはまた電話をかけていた。
「なんで俺こんなことしてるんだっけ?あぁっ!もう!」
怒りに任せて最後のボタンを押す。
と、コールしたかしないかの勢いで相手が出た。
「どうしたんだ、!!産まれるのかっ?!」
お前が父親かよ、とシンは思わずツッコミたくなった。
耳がキーンとなるほどの大声だったので、シンは電話を10センチ以上離した。
いいかげんうんざりしながらシンは答える。
「俺代理です。」
「代理?」
かなりキツイ言い方でアスランが聞き返してきた。
「誰だ、君は。の代理って、どんな関係なんだ?!」
シンは「コイツなんかやだ」と思いながら答えた。
「シンです。さんには・・・無理やり同行させられました。」
電話のむこうで「がそんなことするか!」と聞こえた。
本当なんだから仕方ない。
シンはあえて無視をした。
「今マッケンジー産婦人科にいて、さんは出産の準備に入りました。
頼まれたのはカガリ・ユラ・アスハ宛ての電話だけだったんですけど、そこからキラへの連絡を頼まれて、
またこっちへの連絡を頼まれたんです。」
追加で聞かれるのも気にくわないので、シンはとりあえず状況をすべて話した。
「産まれるのかっ?!」
当のアスランは自分が聞いたくせにそんなことをすっ飛ばして、また大声をあげた。
シンはまた電話を耳から離していなかった自分を恨んだ。
10センチ離した電話の先から、返事のないシンへの罵声が飛んでいる。
さっきから「シン、答えろ!」とか叫んでるけど、俺はアンタと親しくないぞ。
アンタこそさんとどんな関係なんだと、シンは心の中で毒づいた。
「診察から出てこないので、俺だってどうなってるのか知りませんよ。」
シンが投げやり気味に答える。
「それならすぐそっちへ向かう。にはすぐにつくから安心しろと伝えてくれ!」
聞こえてくる通話終了のコールに、シンはやっと終わったと待合室の椅子にこしかけた。
と、診察室のドアが開いた。
反射的にシンは立ちあがってドアを見た。
***
簡易的な服に着替えて、点滴を押しながら出て行くとシンがこちらを見ていた。
「ごめんねー、シン。ばたばたして。」
「本当ですよ。伝言ゲームじゃないんだから。」
シンの言葉に何があったのかと首をかしげる。
シンはカガリからキラ、アスランにまで電話をしたことを教えてくれた。
本当だ、それは伝言ゲームだね。
話を聞いて、思わず苦笑いになった。
「ごめんねー。両親が生きてればそこだけの連絡ですんだんだろうけど。」
何気なく言ったつもりだったが、衝撃を受けたのはシンのほうだった。
「え、さんも・・・?」
「うん。シンと同じ。両親とも前の戦争で。」
「そんな話は歩きながらしろ。」
後ろから蹴るぐらいの勢いでナスティが言った。
診察の結果、現在の兆候は破水だけ。
赤ちゃんが出てくる子宮口も、まだ1センチほどしか開いていなかった。
子宮口は10センチ開かないとお産にならない。
このまま陣痛が始まっても、痛みに耐えなきゃいけないだけで赤ちゃんの出口がない。
「このお産の場合、いきみ逃がしほどツライものはないぞ。」
脅しじゃないから。と、ナスティはそのあとに付け足した。
そのために「歩け。」と。
外への扉を開くと、うっすらと日が傾きだしていた。
くだらない話をナスティとしながら歩いた。
シンはときどき会話に参加させられながら、相変わらず不機嫌そうな顔は崩さなかった。
微弱な痛みを感じ始めたとき、一台のスポーツカーが病院に着いた。
「!」
飛び出してきた幼なじみに、私は大きく手を振った。
「アスラーン!」
とたんに隣りにいたシンの顔がさらに不機嫌になったのは、どうしてだろう。
「どうなんだ、。寝てなくていいのか?!ナスティ、大丈夫なのか?!」
かなり慌てた様子のアスランに苦笑いを浮かべつつ、これで事故を起こさずによく到着したなぁと感心した。
「破水した量が多いのは気になったけど、許容範囲。今日中に産まれれば問題ねぇよ。」
「今日中に産まれなかったら危ないのか?!」
「産まれるから落ち着けよ。」
「アンタさっきからウザイ。」
シンがぼそっとこぼした言葉が、アスランの耳に届いていなくて良かったと思う。
私にだけ聞こえたその言葉に、シンにむかって苦笑いを返した。
「アスランとはきょうだいみたいなものなんだ。甥っ子か姪っ子が産まれる気分なんだよ。」
「へー。・・・大変ですね。」
「普段はすっごく落ち着いた人なんだけどねぇ。」
ナスティになおも「大丈夫か?!」を繰り返しているアスランを横目に、私はシンに言った。
今言ってもあんまり説得力なさそう。
最後にはナスティにまでキレられて、投げられていたアスランだった。
***
「お前たちのしていることは、職権乱用だぞ。」
「僕じゃなくて、ちゃんとラクスとカガリに言ってよね。」
背中でイザークのぼやきを聞いて、キラがさらりと返した。
「の親友に、たまたまプラントとオーブのトップがいるってだけだよ。」
平然と会話しながら、片手で大気圏突入のプロセスを始めたキラ。
そのキラを後ろから横目で確認して、イザークはさらに不機嫌になった。
あんなに早くキーボード打つヤツは初めて見た。
「すごいことだと思わない?」
「あ?」
不機嫌な気持ちを延長したままでイザークが返事する。
が、キラはイザークの不機嫌なんてまるで気にしていなかった。
「が、子供を産むんだよ。」
そのキラの言葉が、ものすごく重くイザークに響いてきた。
さっきまでのキラへの嫉妬など、いっぺんに吹き飛んでしまった。
キラの表情に、苦しいほどの暗い過去が現れていた。
「こんな機体に乗って、僕たちは戦ってきた。
僕はいつも、自分の力が嫌だった。僕に求められたものは、人を殺す力だったから。
・・・・でも今日は、この機体での助けになれるんだ。
殺すだけの力だと思っていた僕の力が、産まれてくる子供のところへ、イザークを連れて行けるんだ。
とイザークは、僕に新しい役目を与えてくれた。感謝してるんだよ。」
イザークは一瞬垣間見たキラの表情に、何も言うことができなかった。
けれど今度はそんな表情はどこへやら。
キラはすがすがしい表情で顔をあげた。
「産まれてくるのは、僕たちの未来だ。」
「イザーク。僕にも未来があるんだって、教えてくれてありがとう。」
「お前・・・・。」
本気で感動したイザークだったが、すぐに次のキラの言葉に打ち負かされた。
「あのとき本当にイザークを殺さなくてよかったよ。」
「キー〜〜〜ラあぁぁっっ!!きさまぁっっ!!」
満面の笑みを浮かべて言ってのけたキラに悪気はない。
だから、なんでイザークはそんなに怒るんだろうと本気で不思議に思ったキラだった。
本当に怒りんぼだなぁ、なんてのんきに考えながら、キラは大気圏に突入した。
フリーダムで大気圏に突入するのは二回目だ。
初めてこうして地球に降りたとき、それがあの日のアラスカの出来事。
あの日の大気圏突入は、ビリビリするほど心が痛くて苦しかった。
こうしてモビルスーツに乗らなければ、何もできないのだと悟った日。
けれど今日は違う。
こんなにもわくわくして、早くたどり着きたくて、心が弾む。
コレに乗っていても、アラートは鳴らない。
剣を振りかざす必要もない。
銃を構える必要もない。
ただキラは、イザークをのところに運ぶために、もう一度フリーダムに乗った。
――――僕がこうしてこの機体に乗ったことにも、意味があったんだね、。
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