結局キラを討ったのはアスランだった。
けれど私もアスランも、キラが死んだと思って泣いた。
失って初めて、キラは敵じゃないとわかった。
キラは変わらない、私たちの大切な幼なじみ。
私たち幼なじみを引き裂いたものは、戦争。
他人をねたむ気持ちと、自分にはないものを望んだ結果。
そして大切な人を奪われたという、憎しみの連鎖がさらなる悲劇を生み出す。
気づいていながら、気づかないフリをする。
その戦争行為に、終わりなんてないことを。
〔 今日が紡ぐ未来を 〜PHASE:04〜 〕
「シン。仮に、もしもまた戦争が起きて、シンがモビルスーツに乗ってるとする。
敵だと思って撃ち落した相手にも、家族がいて、シンと同じ思いをする人がいるよ。」
「そんなこと・・・。だって、戦争なんだし。」
「そう。その考えがシンの家族を殺したの。」
戦争だから、仕方ない。
核ミサイルを撃たれて、ザフトに入って。
ナチュラルを憎むことで、母を失った心をなぐさめた。
ザラ家の身代わりで、暗殺者として育てられて。
アスランと同じ道を進むことが、私の使命だった。
けど、戦って、キラと話をして。
オーブにきて、コーディネーターである自分を否定するエリカさんと出会った。
自分で自分の生き方を選んでもいいのだと思ったときに、初めて戦争というものがなんなのかを知った。
戦争は、なにも生みださない。
戦争で解決される運命なんて、なにもない。
「シン、私が撃ってきたのは敵じゃない。仲間を、家族を殺してきたのは、自分自身。」
「さん・・・。」
「だからシン、私はシンにも間違えてほしくない。シンのその気持ちは、いつかシン自身を殺す。」
「でも・・・。でも、俺は忘れない!虫けらみたいに俺の家族を殺した・・・!」
「それは私。」
「なっ?!」
「私もあのとき、そこにいた。ザフトだったけど、あのときはオーブを守りたくて、ここで戦っていたよ。」
ウズミ様の意思を、守りたかった。
かたくなに中立の立場を示し続けた、ウズミ様の意思を守りたかった。
大切なことをたくさん教えてくれた、この国を守りたかった。
キラとアスランが、歩み寄れたのもこの国だったから。
でも。
あのとき、守ろうとしたあの一撃も、やっぱり誰かを犠牲にした。
攻めてきた連合の兵士も、シンの家族も。
「ねぇ、シン。私を殺したらシンの気持ちは安らぐ?家族は帰ってくる?」
「じゃあ俺はどうしたらいいんだよ?!今でも夢に見るんだ!マユの・・・っ!ちぎれた腕・・・!!」
悲鳴のように言い放ったシンは、そのまま頭を抑えてうつむいた。
簡単に消せないことなんてわかってる。
ここにたどり着くまでに、私たちは大切な幼なじみにでさえ銃を向けた。
それでも、断ち切りたかった。
シンの、憎しみの連鎖を。
***
ぱしゃ、・・・と音が聞こえた。
と、同時に下腹部に奇妙なダルさを感じる。
「え?」
生暖かい感触を感じて下を見ると、足元にはすでに水たまりができている。
・・・・え?
私ってば、漏らしちゃったの?!
と、驚いたけど、いやいやそれはサスガにない。
これは、そう。アレだ。
「破水しちゃった。」
「はあっ?!」
ものすごく冷静な自分が少し怖い。
初めてだから、もっと慌てたりびっくりしたりするものだと思ってた。
でも気持ち的には問題ない。
大丈夫。
シンの方がよっぽど驚いてるし。
って、当たり前か。
「ごめん、シン。ちょっと電話する。」
もしかしたら破水の意味もよくわかっていないだろうシンに一言告げる。
そして私はナスティに電話をかけた。
「もしもーし、ナスティ?」
「かぁ?おっせーよ、帰ってくるの。アイツに仕事押しつけられたかぁ?」
ほかの妊婦さんの検診中でなかったようで、ナスティ本人がすぐに電話に出た。
「仕事じゃなくて、先生の繋がりで知り合った子と話してた。」
「何の話してたんだよ。」
「昔話。」
「はぁ?」
いつものようなテンポで話をしていたけど、これじゃダメなんだった。
ちゃんと自分の状況、伝えなくちゃ。
「それでねー、ナスティ。私、破水しちゃった。」
えへへー、と続けて笑った私。
もちろんナスティの罵声に吹き飛ばされた。
「ばっ・・!もっと慌てろよ、初産婦!」
「えー、慌てちゃダメだって、ナスティが教えてくれたんだよー。」
屁理屈を返してみたが、それはますますナスティを怒らせるだけだった。
でもナスティ。さっき「ばか」って言いかけたな?
「とにかく!早く帰って来い!オレは他の患者がいるから迎えには行けない。迎えは業者に頼むからな。」
「うん。ごめんね。お願いします。」
「ところでドコにいるんだよ。もう孤児院にはいないんだろ?」
「あー・・・、うん。ワケあって・・・えっと、・・・ここに。」
ナスティには言いづらくて視線を泳がすと、困ったような怒ったような顔のシンと目が合った。
そのシンを見ながら、私はナスティに答えた。
「ニコルが、死んだ場所。」
一瞬、ナスティが息を呑んだのがわかった。
けれどすぐにナスティは、いつもの声で言った。
「わかった。オレは準備して待ってる。気をつけて帰ってこいよ。」
「うん。ありがと、ナスティ。」
私が電話を切ったのを見て、シンが口を開いた。
「さん。身体・・・平気、なの・・・かよ。」
なんだか私以上に驚いてる。
さっきまでのシンの勢いはなんだったの?って感じだ。
「うん、平気。ごめん、びっくりさせて。」
とりあえず安心してもらうために、私は笑顔で答えた。
「破水って言ってね、赤ちゃんの産まれる準備が始まったってこと。」
「産まれる?!」
まるで今すぐにでも産まれるのかと驚いているシン。
私は動けないままで、ぎこちない姿のまま答えた。
「今すぐには産まれない。平気。ただ・・・ちょっと手伝ってほしいかな。」
私が手を出すと、シンは迷わずにその手をとってくれた。
破水してしまったことで羊水が流れてしまっている。
足元はごつごつした岩場だ。
足を滑らせてしまうことが怖かった。
「岩場には座れないな。寄りかかろうかな。」
さっきまではなんともなかったから座り込んで話してたけど、今も少量ながら破水は続いてる。
直接座るのはよくないと思った。
「いいよ、俺のこれ使えば。」
シンはそう言うと、着ていた自分のジャケットを脱いで、それを岩場の上に広げた。
「この上になら座れるだろ?」
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