〔 ときの音色 〕





「アスラン! よけてッ!」
ニコルのブリッツが、キラのストライクにむかっていく。

アスランの目は、かすんでよく見えない。

よく見えないはずだったのに、恐ろしく悲しいあの光景だけは、
“忘れるな”と言わんばかりに鮮明に、アスランの中に飛び込んできた。

「ニコルーーーーーーッ!!!!」

アスランの叫びは、ブリッツの爆発する轟音にかき消された。



「クソッ、クソッ、クッソォォォ!!!」
「やめろイザーク!」
「どうしてだ! どうしてだよ?! 何でアイツが・・・ッ! アスラン!」
取り乱して当り散らすイザークに、
やはり感情を抑えきれないアスランが、珍しく突っかかった。

「言えよ! 言えばいいだろ?! 俺のせいだって!
 ・・・俺をかばってニコルは・・・っ!」
取っ組み合った2人を、ディアッカが止める。
「やめろ! イザークもアスランも。憎むべきは、ストライクだろ?!」

ここではもう感情のやり場がなくなったイザークは、ロッカールームを飛び出した。
ディアッカもそれに続き、独りアスランが取り残された。

「・・・・・ニコル・・・・・」

イザークがロッカーに当り散らしてくれたおかげで、ニコルのロッカーが開いてしまっていた。
震える手でその軍服に触れると、服の中からバサバサッと紙の束が落ちてきて、床に散乱した。

それが楽譜だったことは、すぐにわかった。

手書きの楽譜。
今ここにいない持ち主の、人柄がにじみ出ているかのような
戦場に似つかわしくはない、もう一つの命。

「ニコルぅ〜〜〜っ!」
搾り出すように名前を呼ぶ。

楽譜を集めて胸に抱き、アスランもロッカールームを後にした。



「貴方は、泣かないでください。」

声をかけられるまで、そこに人がいるとは思わなかった。
アスランが顔を上げると、
そこには壁に背を預けてこちらを見ている、整備士がいた。

知った顔だった。
女性ながらもブリッツの担当責任者だった、だ。

「アスラン、貴方が泣くなんておかしい。
 ・・・そんなんじゃ、ニコルが助けた意味がないじゃない。」

よく見れば、の目は赤く腫れていた。
涙の跡が、いくすじも頬に残っていた。
ぬぐう力も、気力もなかったのだと、物語っていた。

、君は・・・。」
「私が悪いの。ブリッツをまとめきれてなかったんだわ。
 ニコルなら、かわせないはずないもの。きっと・・・・接続が悪くて。
 ・・・動けなくなって・・・。」

アスランは知っていた。
ニコルとは、まるで姉弟のように仲が良かった。
うらやましくも思えたほどに、スムーズに機体を作り上げていた。
ニコルの要望を、は即座に整備してみせていた。
ブリッツは、2人の手でいつもパーフェクト、といえる状態だった。
だから、が言ったことはありえない。

「ありえないさ。
 君の仕事はいつだってパーフェクトだ。
 ・・・俺のせいだ。」
「戦況は聞いたわ。
 でも・・・ニコルがナチュラルに討たれるなんて、ありえないじゃない。」

アスランは言葉に詰まる。
ストライクに乗っていたのは、キラ。
コーディネーターだ、とは、言えるはずもなく・・・。

と、はアスランが大切そうにかかえている紙に目をとめた。
「それ・・・?」
「あ・・あぁ。ニコルの・・・ロッカーに。」

に楽譜を手渡すと、サッとその表情が変わり、アスランはの顔を覗きこんだ。
楽譜を持つの手も震えていた。

「これ・・っ、・・・こ・・・・れ・・。ニコルッ!」

楽譜を抱きしめて、その場に崩れ落ちたを、アスランはとっさに抱きとめた。

「私の・・・・う・・・た・・。」

涙がかれるほど泣いたはずなのに、
の目にはまた、押さえきれないほどの涙がこみ上げてきた。



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