「落ちついたか?」
アスランの部屋に案内され、ひとしきり声をあげて泣いたは、
アスランの言葉にうなずいた。
は、ニコルの楽譜を抱きしめたまま、
遠いどこか別の場所を見ているようだった。
「君の歌って・・・、その・・・・良ければ。」
アスランの言葉に、はそっと話を始めた。
「声楽を、学んでいたの、私。
でも、・・・父も母も戦争で亡くして、夢は叶わなかった。
こんな時代だもの、夢の続きも、戦争の中でみることはできないでしょ?」
アスランは、以前ニコルが言っていたことを思い出していた。
短い休暇でプラントに戻ったとき、アスランはニコルのピアノを聴きに行った。
後日感想を聞かれたときに、
「もっとちゃんとしたのをやりたいんですけどね、本当は。」
と、ニコルは言っていた。
それから戦艦の中でたびたび、楽譜にむかうニコルの姿を、
アスランは多く見かけるようになった。
あれが・・・?
「ニコルとも、良く話した。
好きな曲、好きなフレーズ。
・・・合わせてみたいって、言ったの、最後に。
あの出撃のとき、帰ってきたら見てもらいたいものがあるって。
ニコル・・・・。この楽譜のことだったのね・・・。」
ほんの少しだったが、
の顔にほほ笑みが浮かんだように見えた。
その表情に、アスランは引かれた。
悲しみの中に見つけた、はかない喜び。
そこへ。
アスランの部屋の通信機が鳴った。
に目をやりつつも、アスランはスイッチを押して交信した。
「アスラン・ザラです。」
<連絡は早い方が良いかと思ってね。>
交信相手はカーペンタリアの医師だった。
<意識不明の重体だったニコル・アマルフィだが、先ほどこちらの呼びかけに反応したよ。
安心は出来ない状態に変わりはないが、・・・一応の山は越えた。>
嬉しさと、驚きと、安堵に、思いが言葉にならない。
「ありがとう・・・ございます・・・。」
通信機の先に頭を下げ、アスランは拳を握りしめた。
「ニコル・・・・助かったの?」
背中に問いかけられてアスランは、ハッとしてふりかえり笑顔を返した。
「あぁ。まだ安心はできないようだが・・・。一応な。」
「アスランッ ありがとう!」
突然抱きつかれて、アスランは慌てた。
「貴方がニコルを連れて帰ってくれたから助かったのよ!
パワー切れだったイージスでも、何とかブリッツのコックピットを連れて帰ってくれたから・・・っ」
本当にありがとう、と、くり返されても、アスランは返す言葉が見つからなかった。
ウデの中に感じるの温かさに、不謹慎だと思いながらも心が動いた。
そっとウデをまわして、アスランはを包んでいた。
「・・・あの・・・」
「いけない!!」
「は?」
そこから先に用意していた甘い囁きをかき消されて、アスランはあっけにとられた。
はそんなアスランに気づくこともなく・・・。
「ニコルがいつ帰ってきてもいいように、ブリッツ修理しとかないと!
爆発でヒドイことになってるから、どこか基地のドッグに入れてもらって・・・。
私も艦降りる準備だわ! アスラン!!」
「はい!」
ピシッと指を示されて、思わず姿勢を正すアスラン。
「楽譜、預かっていきますね。いろいろとありがとう。」
さっきまで、あんなに絶望的に、涙を流していたというのに。
頭を下げられ、軽い足取りで部屋を後にするを、アスランは呆然と見送ると、
「まったく、タフだな。」
と言って笑った。
「生きててくれて・・・よかった。ニコル。」
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