〔 ミゲルのお楽しみ 〕
「よう、クルーゼ隊諸君。元気だったかね?」
寮の食堂に明るい声が響いた。
「ミゲル?! 帰ってきたのか?」
「長い有給でしたね。ドコに行ってきたんですか?」
アスランとニコルの返答に、ミゲルは上機嫌で。
「ずいぶんな言い方だなー、アスラン。それに比べてニコルのかわいいこと。」
ぐしゃぐしゃっと上から押さえつけるようにアスランの頭を撫で、ぐるり、と見回すと。
「全員、隊長にはナイショだぞ?」
ニヤリと笑った。
「ではこれより、給仕当番を決める!」
意気揚々と語るミゲルに、全員頭に“?”を浮かべた。
「ちなみに予選通過者選んだのオレね?」
ミゲル、また笑ってるよ。
あの笑いは怪しいよな。
怪しいってより、ヤバイでしょ。
何かあったんでしょうかね?
知るか! そんなもん!
♪
心の中でされる会話に、ミゲルが気づくはずもなく。
「ね、ミゲル。給仕ってパイロットの仕事じゃないと思うんだけど。」
パイロットチームマスコットの・が言った。
「いいや、。これは男率割高のクルーゼ隊には、大切な大切な任務だ。」
どこの隊でも女性は希少だと思うが。
「だまってオレについてこい!」
何か嫌な予感・・・・。
ミゲルの部屋に入った一同は唖然とした。
「まずは・!」
「は?・・・あ、はい!」
「君に与えるのはこれだ。」
手渡されたモノ。
「メイド服?」
あの長期休暇の理由はこれか? これなのか?
行った先は・・・・アキハバラ・・・・?
行っちゃったのか、メイドカフェ。
おい、ミゲル・アイマン!
ミゲルの部屋には、に渡された分以外にもメイド服があった。
はいいだろう。
何よりかわいいから絶対似合う。
もちろん許す。
だが・・・残りは?
あれを着るのは・・・俺か?!
男全員の背中に悪寒が走る。
そんなことは露知らず、が歓声をあげる。
「うわー、あたし着てみたかったんだよねー。ミゲル、バスルーム借りるね!」
「おう。早く着替えてこいよ。」
ルンルン気分でバスルームに飛び込んでいくを見送りつつ、
ミゲル、変なカメラ仕掛けてないだろうな・・・。と疑いたくなる残された者たち。
「では次に、ニコル・アマルフィ。」
「えぇ〜〜〜っっ! 何で僕が女装しなきゃいけないんですか?! 嫌ですっ!!」
いや、大丈夫。
絶対似合う。
ニコル以外全員、自分が選ばれなかったことに胸をなでおろした。
ニコル、半泣き。
ミゲルとラスティ2人にムリヤリコスプレさせられているところに、が飛び出してきた。
「じゃーーーーん! どう? 似合う?」
スカート短め、エプロンフリフリ。まさにメイドカフェ。
「うん、いいねー。合格。」
何に合格?!
「グゥレイト! 、これから艦内はそれでいいんじゃねーの?」
「バカか貴様! もミゲルのノリにのっかるな!」
「なによぅ。・・・アスラン、かわいい?」
くるり、と回ってみせたにアスランはドギマギしながら
「いいんじゃないか。」
とかバカみたいに正直に答えて、イザークに殴られていた。
「はーい、こっち注目。こっちも完成!」
ラスティがうきうきと楽しそうに手をあげた。
そこには半泣きのニコルが、メイド服を着せられて、ペタンと座りこんでいた。
が着ているものと同じだったが、ニコルが着ると何だか別のアヤシサがあった。
「お! ニコルもいいねぇ。やっぱりオレの目に狂いはない!」
「何がいいんですか! 僕、こんなカッコさせられたの6歳のとき以来ですよ! う〜〜〜、お母様のばかっっ」
ニコル・・・遊ばれてたんだな。
そりゃ、今でこんなにかわいいんだから、子供の頃はさぞかし。
「ニコルのお母様、女の子が欲しかったって言ってたしね。」
がニコルの肩をポンポンっとたたいて、手をとり立ち上がらせた。
「メイドシスターズ♪」
ミゲルが満足そうに2人を見ていた。
「じゃ、最後は――――・・・。」
「まだやらせるのか? 犠牲はニコルで十分じゃないか。」
「アスラン。僕のことそんな風に売り渡したんですね?」
「だったら最後は貴様だ、アスラン。大笑いしてやる、早く着ろ!」
「グぅーレイト! 今度は俺も手伝うぜぇ。」
赤服がギャーギャー騒ぎ出したのをさらっと無視して、ミゲルはその名を読みあげた。
「イザーク・ジュール。」
・
・
・
♪
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・
「は?」
イザークに全員の視線が集中した。
「先輩命令は絶対でしょ、イザークちゃん?」
「おいラスティ。この作戦中はアイマン隊長と呼んでくれ。」
「「「ラジャー、隊長!!」」」
「やめろおぉぉぉ、貴様らあぁぁぁっっっ!!」
いくら力の強いイザークでも、同期の赤服たちにかかられて、勝てるはずもなく。
あっという間に3人になったメイドシスターズ。
「やっぱりイザークはロングスカートだな。」
ミゲルが満足そうにうなづいた。
それまでの2人と違って、ロングスカートバージョンのメイド服に身を包み、
怒りと屈辱に拳を握りしめているイザークがそこにいた。
「お・・・・ッまえらぁ・・・ッ!!」
「いや、何と言うか。・・・イザーク。」
「何が言いたい、ディアッカ!!」
「いや、萌。どころじゃないぜ、はげしく萌。」
「なんだその萌とは?!」
「イザーク、とっても良く似合ってますよ。」
ニコルは開き直ってしまったのだろう。
いつものようにニッコリ笑って。・・・まるで女の子だ。
「すごいなイザーク。負けたよ。」
「こんなので負けたとか言うなハゲ!!」
「でもイザーク、まんま女の子みたいだよ。あたしも負けたー。」
「・・・。貴様まで・・・ッ!」
楽しげに後輩たちの言い争いを見学していたミゲルが、声を張りあげた。
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