〔 俺が隊長 〕
−act.11:誕生日の悪夢−
「何だ、これは。」
突如ボルテールへ搬入されてきたのは、人がひとり眠れるようなカプセル。
赤いビロードのベッドに、ガラスのふたが組み合わされている。
「こんなモノが納品されるなんて聞いてないぞ! オイ、誰からの命令だ?」
イザークが声をとばしても、誰も何も反応しない。
「イザーク。ちょっと来てください。」
ニコルが品物のそばで、商品の説明書を見つけた。
取扱説明書を開くイザークを、全員がのぞきこむ。(キツイぞ。)
「なになに・・・・?」
「ちょっと! 押さないでくださいよ、アスランさんっっ」
「シンこそ避けてくれ。・・・・・のとなりは俺だ。」(フェイス)
「・・・うっ・・。・・くそっ・・・・。」
イザークの後ろでくり広げられる低レベルな争いは、またしてもフェイスの勝ち。
そんなことに特権使うな、アスラン・ザラ。
以下、取扱説明書より抜粋。
商品名:ゆりかご(睡眠補助装置)
使用効果:ストレス緩和・精神安定・負の除去
製造者:青い秋桜
販売者:アズネット・アズラエル
「なんか・・・。販売者、ぱくり・・・?」
が言えば、
「それよりも、製作者の名称に聞き覚えが・・・・。」
レイも言い、
「ストレス緩和。・・・・・ねぇ」
ディアッカの言葉に、使用者決定。
「イザークですね。」
ニコルの言葉に辞退不可能。
「なんっで、そうなる?! どこからきたのかもわからないんだぞ?!」
イザークの言葉がそれ以上続けば、ボルテールが沈む。
ニコルからおどろおどろしい空気が伝わってきた。
ほほ笑み続けるニコルと、反論したことの重大さに固まるイザーク。
二人を残して、ボルテールに乗艦しているパイロットクルーは、
見事なチームワークで“ゆりかご”をイザークの部屋に運びこんだ。
―――そして9月1日の朝がきた。
「うぎゃあぁぁぁぁあああっっ!!」
艦内の空気を切り裂いて、シンの悲鳴が朝から響き渡る。
優秀なるボルテールのパイロットたちは、我先にと事態の確認に廊下へとび出した。
ディアッカは隊長室から一目散にとび出したシンを確認して、
とルナマリア(同室)は、目にいっぱいの涙をためて通り過ぎていくシンを確認。
ニコルはフフフ・・・・と、笑みをもらして、
レイは自室で布団をかぶるシンのそばで、ただ立っていた。
アスランは・・・・。
枕を抱きしめて寝ていました。
「シン、レイ。朝からゴメン、入っていい?」
廊下からが、部屋の中に声をかける。
「どうぞ。」
シンの意見も聞かずに、レイがドアを開けて招き入れる。
部屋に入ってきたのは、とルナマリアとニコルだった。
「レイ。・・・・シン、どうしたの?」
声をひそめてルナマリアが聞いても、レイは顔色ひとつ変えずに「さあ」と答える。
だってこの人、シンに声かけてませんから。
「シン、どうしたの?」
が優しく声をかけ近づくと、シンはバっと布団をはねのけた。
「さん! 俺を心配してきてくれたんですか?!」
さっきまでは涙に揺れていた赤い瞳が、燃えるような赤に変わる。
「そりゃあ朝からあんな悲鳴が聞こえたら心配するよ。・・・あ、誕生日おめでとう。」
実は前日まで散々誕生日をアピールされていた。
のその一言で、さっきまでの悪夢が消え去った。
どうして男って、こんなに現金な生き物なんだろう。
「みんなが心配しているぞ、シン。何があったんだ?」
おそらく二番目に心配していないレイが(一番はアスラン)、当たり前のように聞く。
その言葉に、やっぱり思い出してしまった悪夢。
シンは部屋にいる全員の顔を見回して、ため息まじりに話し出した。
「俺は今日も、いつものように―――・・・・。」
俺は今日も、いつものようにジュール隊長の部屋へ行った。
シュミレーションで負けた方が、朝一番にマッサージをする罰ゲームのせいだ。
毎日毎日毎日・・・・!
あの人、絶対隠しコマンドとか知ってるんだぜ、ザクの。
じゃなきゃ、Nジャマーキャンセラー搭載して核で動いてんだろ、あのザク!
しかも今日は俺の誕生日だぞ?
どうしてその日一番に会う人間が隊長なんだよ。
俺の中では、朝一番にはさんに会って、
「シン、お誕生日おめでとう」とかって、笑顔で言われたかったのにっ!!
イラつきながら俺は、ジュール隊長の部屋に入った。
隊長は、昨日のワケわかんないゆりかごの中で寝てた。
「・・・・おはようございます、隊長。今日はどうするでありますか?」
人がせっかく来てやったっていうのに、まだ寝てる隊長にさらにイラついた。
・・・・よく考えれば、それがもうおかしなことだったんだ。
俺が訪ねていって、隊長が起きてない日なんて、なかったんだから。
隊長はいつも完璧に身支度を終らせていて、ふんぞり返って、俺が来るのを待ってる。
「あーもう! なんでまだ寝てんだよっ」
はっきり言って俺は、朝がニガテなんだ。
だからいっつも頭はぼさぼさで、隊長の部屋に来るためになんか、身支度もしちゃいない。
マッサージなんてさっさと終らせて、早く身支度したいんだよっ
「えーっと、どうやったら開くんだ? コレ。・・・・あ? このボタンか?」
ポチッとな。
ゆりかごは、ゆっくりとガラスのふたを開かせる。
その中で寝ていた人物も、ようやくゆっくりと起き上がる。
「遅いですよ、ジュール隊長。」
そんなことを言えば、怒鳴られるのはわかっていた。
でもしょうがない。
コレが俺なんだ。
さあ、きっと今日も朝から大音量で罵声がとんでくる。
誕生日だってのに、ツイてない。
・・・と、思ったのに。
「悪かった、シン。マッサージに来てくれたのか? 本当に俺は、お前になんてことをさせていたんだ。」
「はいぃ?!」
俺の頭の中は真っ白だ。
謝った?
今、謝ったよな?
「えっ・・・。あの・・・。ええ?!」
混乱した俺に、隊長はなおも言った。
「そういえばお前は今日、誕生日だな。おめでとう。」
「○△□・・・・・。」(←意識が飛びかけている。)
「いままでもいろいろと悪いことをしたと思っているんだ。・・・シン、許してもらえるか?」
そう言われて、追い討ちをかけるように「シン?」とかうかがうように名前呼ばれて―――・・・。
「俺は泣きながら、部屋をとび出すことしかできませんでしたよ。」
悪夢をみた俺は、もう一度寝ます。
そう言ってシンはまた、ベッドに潜りこんでスヤスヤと寝息をたてだした。
ただ二度寝したかっただけじゃ・・・?
残された四人には、同じ疑問が浮かんでいた。
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【あとがき】
シンちゃん、誕生日おめでとう!・・って、ゼンゼン祝ってないよ。
でも睡眠って、今のライナに一番欲しいプレゼントなんですー!
当然「ゆりかご」はエクステンデット用のブツです。
全員生存設定なので、アズラエルも生きてるんですよ。
ちなみに購入したのはニコルです。