〔 俺が隊長 〕
−act.05:恋人はモビルスーツ−
ボルテールの朝は、優雅なピアノの生演奏で始まる。
士官室を二つぶち抜いてつくられている、グランドピアノルーム。
所有者はもちろん、ニコル・アマルフィ。
ミネルバのルーキーがきてから、生演奏は連弾になった。
ルーキーのひとり、レイ・ザ・バレルが加わったのだ。
「戦艦でピアノが弾けるとは、思ってもいませんでした。」
そりゃ、誰も思いません。
ここにニコル・アマルフィがいる。
ピアノがある理由は、それだけです。
「弾いていないとウデが落ちますからね。僕がミネルバの艦長に進言しておきます。」
「ありがとうございます!」
もともとラクス・クラインの艦だ。
ボイストレーニングができるとか、理由はいくらでもつけられる。
ここにレイ・ザ・バレルがいる。
ピアノがある理由が、そうなる日も近い。
「おはよう、ニコル、レイ。今日もいい演奏だったよ。」
の言葉に、ぱあっと顔を明るくするレイ。
普段はとても大人っぽいのに、ピアノの話となると子供っぽくかわいらしい。
「レイの音はとてもキレイですよね。できればこのまま残ってほしいくらいですよ。」
ニコルの言葉にも、レイは嬉しそうに顔を輝かせた。
この優雅さが、いつまでも続けばいいのに。
食堂にいた誰もがそう思ったとき、誰もがそう上手くはいかないと知る。
優雅、という言葉とは程遠い言い争いをしながら、イザークとシンが来た。
「今日のシュミレーションも、死なない程度に相手してやる! 感謝しろ。」
「その言葉、よーく覚えていてくださいよ!」
本来シュミレーションとは訓練室で行うものだが、この二人の場合、実機に乗り宇宙でやる。
あんな口をたたいているが、シンはイザークに一度も勝てたことがない。
機体の性能は段違いにインパルスの方が上。
なのに、イザークの駆るザクに、かすり傷ひとつ、つけられないのだ。
パイロットで負けている事実を、シンは受け入れられない。
「おはよー、イザークにシン。今日はあんまり機体破損させないでね。整備の子たち、泣いてるわよ。」
当初はシン君、ルナちゃん、レイ君、と読んでいただったが、
シンに「子ども扱いしないでください。」と言われ、呼び方を改めていた。
「おはよう。ルナマリアの調子はどうだ?」
「朝から元気よ。今日は射撃。」
押し付けられたような任務だったが、シンをイザークが、ルナをが、レイをニコルが担当した。
ちなみにディアッカは、先頭二人の後始末に追われている。
今日一日の訓練規定を終え、パイロットたちはレクルームで談笑していた。
「そういえばさんて、恋人いらっしゃるんですか?」
何気ないルナの一言に、これから恐ろしい事態がまき起こる。
「いないいない。軍にいたらいき遅れるって、怒られてるよ。」
「安心しろ。は俺がもらってやる。」
イザークがふんぞり返って言っていても、全員軽くシカトしている。
ちなみには「メイドなんて嫌」としか思っていない。
「俺、さんには年下が合うと思うな。面倒見イイし。」
シンがすかさず自分を売り込む。
「ありえーん! には年上の包みこむ男が似合う!」
バチバチと火花を散らしながら、シンとイザークは「俺だ俺だ」と譲らない。
「・・・・ピアノの弾ける男はどうでしょう。」
レイの言葉に、シンとイザークの暴言の吐きあいがとまる。
レイ・・・お前もか。
「ピアノなら僕も弾けますよ。」
ニコルの言葉に、レイは顔色も変えずに「しまった」と思う。
外見は何も変わらないので、誰もレイがあせっているとは思わない。
「俺でいーじゃん! 俺にしとけよ。」
「い・や!」
ディアッカ並みにストレートなのも考えものだ。
「それじゃ、今一番大切な人って誰ですか?」
ルナマリアはこの状況が面白くて仕方ない。
アカデミーであれほど騒がれていた“赤服のヒロイン”が、こんなに天然だとは思わなかった。
「うー・・ん。人じゃないけどォー・・・。」
の言葉に、全員が耳をすませた。
「やっぱり私のザクかなっ!」
back / next
【あとがき】
大切ですよ、愛機ですもの。
たとえ量産型でも。(しつこい)