〔 俺が隊長 〕
−act.03:アーモリーワン襲撃事件−
ジュール隊の隊長を含めた4人のパイロットたちは、それぞれ愛機のコックピットの中で進水式を見ていた。
ミネルバに乗艦する機体とクルーが次々に紹介され、進水式はまもなく終了する。
と、予期せぬ警報が耳をつんざいて鳴り響いた。
「何? 何? 何事なの? イザーク?!」
ジュール隊専用の通信回線を開いて、が叫んだ。
「あわてるな。まだ何もわからん!」
イザークの声と同時に、レーザー通信がその場にいた全てのモビルスーツに届く。
通信文を読みあげた誰もが青ざめた。
「6番ハンガーの新型が、奪取された?」
「どっかで聞いた話だな、こりゃ。」
(ガンダムの世界では常)
たいしてあわてた様子もなくディアッカが言い、開かれていた通信先のイザークからニラまれた。
「ボクの機体が前例ですよ。」
言うが早いか、ニコルはもうブリッツを現場へ向かわせていた。
今ここにあるモビルスーツのほとんどが、式典用装備をつけている。
だが戦闘において、それはまったく役に立たない。
ところがニコルのブリッツは、いつもと変わらぬ標準装備。
量産型でないスペシャル機なので、式典用装備なんぞつけなくても目立つからだ。
どうやらコレが役に立つ。
かといってニコルだけにやらせるわけにもいかず、ジュール隊はどこよりも早く6番ハンガーに集結していた。
爆音と共に姿を現した新型。
通信文よりそれが、カオス・アビス・ガイアの3機と認識する。
「スペシャル機?! ほしーーーい!」
の言葉が聞こえたのか、通信文は『倒した奴にあれをやる』と送信してきた。
強奪されている緊張感がまったくない。
「どれがいいんですか? 。」
「んーとねぇ、“アビス”?」
の答えを聞いて、イザークがニヤっと笑った。
自分の瞳と同じ色の機体が選ばれて、何か勘違いしたらしい。
「なら、俺がお前にくれてやる。」
「あ! ボクが先ですよ、イザーク!」
「俺なら花束もつけるぜ♪」
3機が一斉にアビスへ襲いかかった。
イザークとディアッカなど、式典用のサーベルしかないのに。
「あんまりキズものにしないでね。私のアビス。」
なんて戦いもしないで、もう自分のモノにしている。
ろくな装備も持たないというのに、さすが前大戦を生き抜いたエリート。
あっという間にアビスを戦闘不能にし、続くカオス・ガイアも難なく降伏させた。
「さすがですわね。勇敢なるザフト軍兵士のみなさま。」
戦闘が終了したと思われたとき、オープンにされた通信回線から、プラントの女帝の声が響いた。
つぶれた6番ハンガーから、新たにピンクのザクが立ち上がる。
そのザクの手の上には、2人のラクス・クラインがいた。
「え? ラクス様が2人?!」
続いてカオス・アビス・ガイアからも、パイロットが飛び出した。
「お楽しみいただけましたか? みなさん。これはわたくしの新しいユニット結成の余興でしたのよ?」
ポカンとしている軍人をよそに、ラクス様は上機嫌で続けた。
「ドラム担当、カオス搭乗スティング・オークレー。
ギター担当、アビス搭乗アウル・ニーダ。
ベース担当、ガイア搭乗ステラ・ルーシェ。
そして、わたくしとWボーカルを務める、ミーア・キャンベルさんですわ!」
事態はただのメンバー紹介に変わった。
ラクスにそっくりなミーアだけが、さん付けで紹介されるのは何故だろう。
しかも楽器担当組は、かつての地球軍らしき服を着ている。
ふざけているのか、本気なのか。
「余興?! じゃあアビスもらえないのー?!」
ががっかりと肩を落とした。
前大戦でももらえなかったスペシャル機。
やっぱり自分は量産型にしか乗れないのだと、コックピットの中で嘆いている。
戦場だったはずの場所は、そのままラクス・クラインのコンサート会場になった。
曲目は「Quiet Night C.E.73」
以前とは違ったアレンジに、ザフトの皆さんもノリノリだ。
その様子を尻目に、ジュール隊のメンバーは会場から離脱した。
これ以上はアホらしくて付き合いきれない。
「あーん! あたしのアビス〜〜〜〜!!」
スペシャル機をちょーだい!
と、ジュール隊の通信回線を開いたまま嘆き続けるに、言葉をかけるものはいなかった。
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【あとがき】
イザークより先にちゃんが壊れた。
ごめん、ちゃん。
次はジュールを壊します!