〔 俺が隊長 〕
−act.01:ボルテールから愛をこめて−
ナスカ級ボルテールの艦内には、今日も隊長の怒鳴り声がこだましていた。
「ディアッカ! 貴様、報告書というものは報告する目的で書くものだろうが!
なんだこのクソ汚い字は?!」
「だってよー、イザーク。今さら手書きで出せなんてなしだぜー。」
なあ?とばかりにディアッカは、隣に立っている赤服の・に同意を求める。
「そうだよ、イザーク。仕上げる時間、倍どころじゃないよ3倍だよ?!」
「うるさい! 今月は手書き月間と決めたんだ! ちゃんと読めるように書き直せ!!」
筆跡には人柄が出るという。
書いたときの精神状態も影響するという。
個性を重んじる、というイザークの方針はわからなくもない。
けれど、今はパソコンが一人一台支給されている世の中だ。
ディアッカとには、時代錯誤の感が否めない。
だが、今や泣く子も黙る白服を、ザフト最年少にして袖を通したイザークに逆らえるはずもなく。
「「はーい。」」
2人は空返事をして隊長室を退室する。
「イザークの話、終りましたか?」
部屋の外では、ニコルが待っていた。
「うん。でもだめだったよ。やっぱり今月は手書きだって。」
の報告に、ニコルはチッと舌打ちした。
「ディアッカが役に立たないのはわかっていましたけど、まさかでも落とせないなんて。」
「おーい・・・・、ニコルー・・・・。」
「計算違いでしたね。」
“役に立たない”と言われた本人が声をかけても、ニコルはまだぶつぶつと考えこんでいる。
「仕方ありません。今回は見送りましょう。来月の目標は、ボクが手を打ちます。」
「うわーい、ニコル頼りになるぅ〜。」
来月も手書き月間なんぞにされてはたまらない。
は両手をあげて喜んだ。
「なぁニコル。お前は昇級試験受けねーの?」
ディアッカは、今も赤服を着る同僚に切り出した。
ちなみにディアッカは、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の折、
三隻同盟に所属してザフト軍と戦った行為の代償として、赤服から緑服へ降格処分されていた。
「それなら、だってそうでしょう?」
自分のことは答えずに、同じく赤を着ている同期のに話をふる。
「あたしー? ムリムリ。白服ってガラじゃないもん。」
まったくその気がないは、笑いながら答える。
「それに、赤の方がカワイイじゃん!」
カワイイ、が基準で軍服着るならスカートにしてくれ、とディアッカは思った。
トレーニング中にちらりと見た限り、は色白のキレイな足だった。
惜しげもなく出してくれてかまわないのに、はズボンしかはかない。
くっそー。
などと心の中で考えていたディアッカは、ニコルに一喝された。
「アホづらしてますよ、ディアッカ。」
ニコルの容赦ない言葉に、ディアッカはがっくりうなだれた。
言葉でどれだけ言っても勝てはしないのだ。このニコルには。
「ねーねー、ニコル。私もニコルは白服着られるレベルだと思うよ?」
「ありがとうございます、。」
の言葉に、今度はにっこり答えるニコル。
「でもボクは、ジュール隊でいいんです。何かあったら責任とるのはイザークですから。」
そのとき、隊長室にいたイザークの背中に、ぞくり、と嫌なものが走ったという・・・。
C.E.72。
第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦をもって、地球・プラント間の戦争は終結した。
その後ユニウス・セブンにおいて平和のための講和条約が締結された。
C.E.73。
プラントの新たなる指導者、ラクス・クライン。(←独裁者)
地球圏統一国オーブ元首、カガリ・ユラ・アスハ。(←支配者)
世界はこのダブル女帝の前にひざまずき、戦争は忘却の彼方へ追いやられた。
それでもプラントが国家としてザフトを所有するのは、ひとえにラクス・クラインの意思である。
コンサートの際はサクラになったり、花道をつくったりするのも、今は軍人の務めなのだ。
ラクス・クラインは指導者となった今も、アイドルの座を譲る気はないらしい。
デスクワークが主な仕事になりつつあるザフト軍人。
ほとんど毎日が訓練で終わる平和な世界。
ディアッカとニコルとで射撃を競っていたところに、イザークからの呼び出しがかかった。
時間にウルサイ隊長の機嫌を損ねないように、急いでブリーフィングルームへ向かう。
「なぁにー? イザーク。」
「軍本部より通信が入った。ボルテールはこれより、アーモリーワンへ向かう。」
アーモリーワン。
未だにモビルスーツを製作しているファクトリーがあるプラント。
「新しい機体のロールアウトかよ。もらえるのか?」
「ボクはブリッツ以外乗りませんよ。」
講和条約により破棄されたデュエルとバスター。
同じXナンバーのブリッツだけはなぜか、今なおニコルの愛機である。
「ちがーーーう!! ちゃんと話を聞け。」
イザークがモニターのスイッチを入れると、見たこともないような戦艦が映し出される。
「最新造艦のミネルバだ。明日、進水式が行われる。」
「すごーい! 乗りたーいっ」
大ハシャギのとは対照的に、ディアッカが冷めた口調で言う。
「今さら戦艦造ってどーすんだよ。誰が使うんだ、こんなの。」
「・・・・ラクス・クラインだ。」
イザークから答えが返ってくるとは、誰も思っていなかった。
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【あとがき】
隊長なのに、白服なのに、誰一人イザークを隊長と呼んでいません・・・。
イザークのデュエルは、ライナが初めてガンプラ作ったくらい好きな機体でした。
一番運命で不満だったのは、デュエルが出てこなかったことかもしれません。
デュエルよりザクの方が性能上って、ありえないような・・・。
きっと講和条約で破棄されたんだと思います。・・・悲しい。