〔 過ぎる季節 〕
中等部に入ったときに、となりの席になったディアッカ・エルスマン。
お父さんがプラントの評議員だから、名前くらいは知っていたけど。
以来三年間腐れ縁は続いて、私たちは仲の良い友達。
でも。
入学したときは同じくらいの身長だったのに、今や私はディアッカに見下ろされるようになり。
ディアッカは、あんなにブカブカだった学ランが着れなくなっていて、今は先輩からもらった二代目を着用中。
私はただのスポーツバカとしか思ってなかったけど、後輩や一部の同級生からは憧れの存在で。
ずっと同じように成長していくものだと思ってたのに、
何だかディアッカのほうが先に大人になってしまった気がしていた。
誰にでも優しくて、気兼ねなく話すディアッカのまわりには、いつも女の子たちが輪を作るようになって。
そんな子たちと一緒にされたくなかったから、ディアッカとは距離を置くようになっていた。
「とディアッカって、つき合ってなかった?」
同じく腐れ縁のひとり、ラスティ・マッケンジーの言葉に、クラス中の視線が私に集まる。
今は昼休み。
相変わらずディアッカのまわりには女の子たちがたくさんいて、彼女たちの視線はどれも、友好的なものじゃない。
「何言ってんの、ラスティ。ね! バスケやろうよ。」
ディアッカのほうも見ないで、話をそらした。
「OK。」
マイボールを持って、ラスティと二人で教室を飛び出した。
「何であそこであんなこと言うのよ?」
ゴールもない屋上で、1on1をやりながら、私はラスティに不満を言った。
「ディアッカの取り巻きに、私殺されちゃうじゃない!」
「へぇー。やっぱり何かされたんだ?」
それが聞きたかったと、ラスティはドリブルしていた手を休めた。
遠くでお昼休み終了の鐘が鳴ってる。
ラスティは、最初からサポタージュする気だったらしい。
「最近、いやにディアッカのこと避けてると思ったら。」
そのまま地面に足を投げ出して座っている。
私も教室に戻るのをあきらめて、ラスティのとなりに座った。
「別に、そんなことがあったから避けてたわけじゃないよ。」
実際嫌がらせらしきことは、何度か受けたことがある。
でもそれはどれも低レベルなものだったから、逆に知らん顔をしてやった。
こういうことは、反応すればするだけ返ってくる。
「じゃー何? 最近まで俺が疎外感受けるほど、仲良かったクセに。」
ラスティとディアッカは、小さい頃からのそれこそ幼なじみ。
疎外感を感じていたのは、私の方こそ、だ。
二人は男の子で、どんどん成長して、私ばっかり成長しない。
「ディアッカの側にいて、あんな低レベルなことしかできない子たちと、一緒にされたくなかっただけ。」
「ふうん。ディアッカって、そんなモノ?」
ラスティの言い方は、私の神経を逆なでする。
「そう、そんなモノ! 悪い?!」
自分が卑屈になっているのはよくわかる。
男と女で、成長に違いがあるのも理解している。
でも、もどかしい。
「別に悪くないよ。うん、いいんじゃない? 俺にとっても。」
ラスティにとって?
「俺にしときなよ、。」
急に真面目な顔をつくって、ラスティはまっすぐ私を見ていた。
驚いた顔をしてラスティを見ているだけの私を、彼は抱きよせる。
「がすきだよ。」
告白と同時に、屋上のドアがドカっと蹴られて開いた。
「悪ィ、ジャマした?」
「うん。とってもじゃまー。」
苦々しい顔をして言ったディアッカに、満面の笑みで答えを返すラスティ。
本当に邪魔だと思ってるんだろうか・・・・。
「授業サボって、何やってんだか。」
「あ! 授業なんかより大切ですよ、コレは。」
「そんなことより! いーかげん離れろよ、ラスティ。」
ディアッカに言われて気づいた。
私、まだラスティに抱きしめられてたんだっけ。
それを忘れてしまうくらい、ディアッカの登場が衝撃的だった。
もしあのタイミングでディアッカが来なかったら、私はどうしていたんだろう・・・?
けどラスティは、今度は私に満面の笑みをむけて言った。
「離れたい? 。」
「「ラぁ〜スティ〜〜〜〜っっ!!」」
ディアッカとハモるのは久しぶり。
「じゃっ、俺は言うこと言ったし、帰るよ。」
「帰るの?!」
私、まだラスティに何も言ってないけど、・・・・いいの?
「答えはわかってる。今日が最後だったから、どーしても言いたかっただけだよ。」
それ以上聞く間も与えず、ラスティは屋上を後にした。
残されたのは、ディアッカと私。
でもラスティ。
“今日が最後”って、どういうイミ?
卒業までは、あと五ヶ月あるよ?
「転校? まっさかーぁ。ねえ?」
ポケットに両手を入れたまま立っているディアッカに投げかける。
てっきり笑って同意してくれると思っていたのに、彼の表情は切なげだった。
「なぁ、今日ヒマ?」
「今日? うーんと、放課後は・・・。」
「めんどくせーから、今からヒマにしろよ。」
ディアッカの物言いは、有無を言わせない態度だった。
メンドクサイとは何だ、めんどくさいとは。
結局私は、その日教室に戻らず、ディアッカのバイクにタンデムした。
ディアッカは、去年からバイクで学校に来ていた。
何度もタンデムさせてもらったバイクも、同じように乗るのは久しぶり。
つれていかれた先は、海だった。
海、とはいってもここはプラント。
当然それは、地球の海を真似ただけの人工物。
それでも、地球に行ったことのない私たちにはとっては、ここが本当の海。
波打ち際の砂の上に腰を下ろして、私はそのまま砂浜に寝転んだ。
back / next