ちくちくと、刺すような痛み。
敦盛は感じたことのない想いに襲われていた。
なぜだろう・・・?
の笑顔を見ることが、とても好きだったのに。
将臣と笑うを見るときに感じる、この胸の痛みは――――。
〔 そして約束の運命へ −第六話− 〕
ぽつん、とひとり残されていた敦盛は、意を決して聞いてみたいことがあった。
が将臣に抱きついてから、自分の胸に刺さる痛みの原因を。
「・・・・二人は、恋仲なのだろうか?」
会話が途切れたとき、思わずそれを口にしてしまって敦盛は慌てた。
声に出して聞いてしまうほど、自分は気にしていたのかと顔がほてった。
が、将臣とは一瞬きょとんとした後で、大声で笑い出した。
「じょーだんだろ?敦盛。」
「ヤダよ、将臣なんて。」
ケタケタと笑う二人に、呆気にとられる敦盛。
再会したとき、二人はただ嬉しくて・・・。
それまでの心細さも手伝って、あんな形になった。
けれど、元の世界での二人は、どちらかというとケンカ友達に近かった。
「言ったじゃん、幼なじみだって。オニイチャンっていう感じにも似てるかな。」
「お、いいな。それ。そう呼べよ。」
「いやだよ、オニーチャン。」
そうしてまた二人はバカみたいに笑った。
こんな風に、元の世界に触れられることが嬉しかった。
『もう帰れないかもしれない。』
そう思って、この世界で自分を知る者は誰もいないと孤独を感じていた。
には将臣。
将臣には。
自分を知る者の存在が、心をとても楽にしてくれたことは間違いなかった。
笑い合う二人を見て、敦盛はほっと胸をなでおろした。
二人がただの幼なじみだと言われて、ざわめいていた気持ちが少しだけ治まった。
その気持ちが何なのか、自覚することができないままではあったけれど。
***
刀と刀が激しくぶつかる。
ふたつが接近するたびに、は思わず目を閉じた。
「二人とも剣の使い方は長けている。怪我などしないと思う。」
の隣で敦盛が言うと、は恐る恐る目をあけた。
将臣がきてからというもの、剣の稽古は知盛、将臣、の三人で行うようになっていた。
将臣の剣の腕はみるみる上達し、二刀流の知盛とも互角に戦えるようになっていた。
帰宅部だったクセに。とは思う。
けれど将臣という人間は、昔からそうだった。
なんでもそつなく、要領よくこなすことができる天才肌。
「なあ。今日は真剣、使ってやろうぜ。」
いつものようにかるーく提案した将臣は、今こうして知盛と剣を交えている。
「そりゃあああぁっ!」
「・・・・まだ、まだだ・・・・。」
知盛の細い剣が、将臣の首に吸い寄せられる。
いつもと同じ知盛の勝ちだと思われたとき、将臣の剣が知盛の剣を弾き飛ばした。
将臣の剣からは、ゆらりと木気が立ち昇る。
「相克・・・。が、ものともせず、か・・・・。」
剣を一本弾かれた知盛は、そこで戦いを止めた。
「なんで剣をおろすんだよ。まだ一本残ってるだろ?」
「ふ・・・言ってくれる。二刀流が一本の剣で戦えるか。」
知盛はにやりと笑う。
「俺の負け。・・・だ。」
こだわっているんだかこだわっていないんだか、知盛はつかみ所がない。
「もーちょっと執着しろよ、お前。」
将臣も「やーめた」と言わんばかりに剣をおろした。
「お前、俺とやるときととやるときで顔が全然違うぞ。」
知盛はを見ながら答えた。
「お前は、見たことがある・・・か?剣を握るアイツは、獣・・・だ。」
酔ったように言う知盛の頭を、将臣が小突く。
「ばーか。」
敦盛と楽しげに別の会話をしていたは、この二人の会話を聞いてはいなかった。
将臣との手合わせでは、稽古の域を出ないのが事実。
少しでも手を抜けば本当に斬ってくる知盛とは、顔つきも変わる。
の本気の目を見たことがあるのは、知盛だけだった。
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