これからのことについて、ゼミ仲間で話し合ううちにキラは寝てしまった。
薄暗い部屋にいたら気分が滅入るとトールがいうので、みんなは食堂へ移動することにした。
「私はキラが起きたら一緒に行く。ひとりにしたら寂しがるでしょ?」
はそう言って、キラに付き添うことにした。










〔 痛いほどに綺麗な 〜PHASE.09〜 〕










スヤスヤ寝ているキラを、は見ていた。
あれからみんなに、キラがなにをしたかを聞いた。
既存OSを書き換えて、ジンを撃退。
自身もその既存OSを書き換えたから、わかる。
あれはまったく使えない。
が、地球軍の最新鋭機にアレがのせられていたのは事実。
つまり、ナチュラルではアレが限界。

こんな無防備にスヤスヤ寝ているキラだけど、わずか数秒で地球軍の最高頭脳を超えてしまった。
その事実を、地球軍関係者が無にするはずはない。


「んー・・・。どうやってキラ連れて行こうかなぁ・・・。」
キラがもたれかかって寝ているベッドの向かい側で、も膝を抱えて考えこんだ。
このままでは、キラは間違いなく戦力にされてしまう。
オーブの民間人なんて、一番利用しやすい。


「ん・・んん?・・あれ、・・?」
まだボーっとした目で意識を戻したキラがを呼んだ。
「おはよ。」
膝を抱えて考えていたままの姿で、は寝起きのキラにあいさつをした。

「・・・僕、寝ちゃったの?」
「うん。ぐっすり。」
「そっか。」
ひとつ小さなあくびをして、キラが伸びをした。

「キラ、アスランを知ってるの?」
「?!」
寝起きのボーっとしたのが一気に吹き飛んだらしい。
キラはとにかく驚くだけ驚いた顔をして、を見た。
そんな深刻な話をふった気のないは、キラの表情に噴き出して笑ってしまった。

。・・・笑える状況?」
なんでが笑ってられるのか理解できないと、キラはまたナーバスなため息をついた。
「だってキラ、そんなに驚かなくても・・くくっ」
「・・・・がアスランに殺されちゃうとか、本気で心配したのに・・・。」
「あ、そうか。ごめん、キラ。」

そんなことは考えもしなかった。
でも、キラからしたら本当の恐怖だったに違いない。
確かに不謹慎だと思って、はすぐに謝った。

「でも、もどうしてアスランを・・・・。」
「こんなトコでなにやってんだ、おい。」
いよいよ話題が確信に入ろうかというとき、ムウが会話に割り込んで部屋に入ってきた。

「なにっ・・て?」
とキラは顔を見合わせた。
「あんなOS、ウチの整備班がみれるわけないだろ?ちゃんと自分たちでケアしとけよ?」
「自分たちって、なんで僕たちが?」
「・・・・。」

ほら、きた。
キラの慌てぶりと対照的に、は落ち着き払った冷たい顔でムウを見ている。

「また戦闘になったら、アレに乗るのはお前達だろ?」
「どうしてですか?!どうしてまた、民間人の僕たちがアレに乗らないといけないんですか?!」
「軍人さんが乗ったらいいですよ。軍の最高機密なんですから。」
ムリなことをわかっていて、がにっこり笑っていった。

「かわいい顔して痛いとこ突くねぇ。動かせる人間がいたら苦労しないよ。」
「だからって、どうして僕たちが・・・。」
「乗れるから、だ。できる能力があるなら、今できることをしろよ。」
「そりゃ、できることならやりますよ。でも、アレに乗るのは嫌です。・・・人を殺せるんですよ、アレは。」
苦痛の表情を浮かべて、キラが言った。
ムウはそんなキラを見て、呆れたようなため息をついた。
「じゃ、そうやってやらないって言って、なにもしないまま死ぬのか?」
「?!」
「ごめんだね、俺は。」

「モビルスーツが出撃すれば、死にませんか?」
?」
ムウがまるでそんな言い方をしていたことが気になって、は素朴に聞いてみた。
「モビルスーツはそんなに安全ですか?出撃したら、モビルスーツは撃たれないですか?」
「そりゃ、戦うんだから・・・」
「撃たれますよね?」
「・・・・・お嬢ちゃん。」


「できるから、できることをやる。そのこと自体は間違ってると思いません。
でも、争いが嫌でオーブにいた人たちに、できるからと戦争行為をさせるのは、どうなんでしょう?
私たちはモビルスーツを動かせます。でも、それって戦争をできるってことなんですか?」
「・・・・ほんっとに、かわいい顔して痛いとこ突くねェ。」
降参、とムウは両手をあげた。
「強制はできない。でも、アレに乗れるのはお前たちだけ。俺の機体は出られない。戦艦対モビルスーツの勝率、教えてやろうか?」
「いいです。正義感の強いキラが、それでモビルスーツに乗っちゃいますから。」
「あ、そう。食えないね。」
「食べないでください?」
にっこり笑って、は立ちあがった。
「キラと二人にしてください。二人で話し合って、決めます。」
どうやったってムウはモビルスーツにたちを乗せたいのだから、このまま三人で話し合うわけにはいかない。
もちろんも、今のこの現状から、乗らないで済むとは思っていない。

ラウが待っている。
が持ってくる、大きなお土産を。

そのために、どうすべきなのか。
今、それを考えることが優先だった。







「やっぱり、乗らないとダメなんだよね。」
ムウがいなくなると、キラがぽつりと言った。
「この艦には、サイやトール・・みんながいる。僕が守らないと、・・・みんなが。」
「さっきも言ったよ?乗れることと守れることは別だって。」
キラの気持ちがすっかりモビルスーツに乗ることに傾いている。
乗れるからといって、戦えるわけじゃない。
キラの選択は、本当にそれでいいのかと問おうとしたとき、アラートが響いた。

「敵?!」
赤のランプが点滅する艦内。
反射的には立ち上がった。

「僕は・・・何ができるとは思ってないけど僕は、やっぱり・・・。」
状況が、キラにモビルスーツに乗れといっている。
乗れるのはキラしかいない。
守れるのはキラしかいない。
にはキラが、そうと追い詰められているように見えた。

「ん。わかった。行こうか。」
立ち上がっていたは、まだ座っていたキラに手を差し伸べた。
「え?」
の差し出した手を見て、キラはの顔を見あげた。

「キラひとりで行かせられるわけないでしょ?私も一緒だよ?」
?!だめだよ、そんな!」
「どうして?私も『乗れる』んだよ?」
「だからって、は女の子でしょ?!」
「でも『乗れる』。キラだって、オーブの民間人で、アレに乗る所以はない。私だけ、逃げるなんてできないよ。
・・・あ、ほら。マリューさんもナタルさんも女性だし。」
「でも・・・。」

のん気に言い合っている場合じゃなかった。
艦内に最大ボリュームでナタルの声が響く。
「キラ・ヤマト!!なにをしている?!早くハンガーへ来い!」
彼女には選ばせる気もないらしい。



***



アカデミーでのシュミレーションでさえ、パイロットスーツを着て乗りこんだモビルスーツ。
普段着のままで乗り込もうとしているキラを、は慌てて後から止めた。
嫌でも地球軍のパイロットスーツしかないのだから、それを着て出撃するしかない。
はキラを更衣室に連れこんで、一緒に着替えた。
「うわぁぁっ!ちょっと〜っっ!!」
キラの存在を気にせず、さっさと着替え始めたにキラが悲鳴をあげた。

地球軍の象徴色は青。
用意されていたパイロットスーツも、全部青だった。
バイザーを降ろしてしまうと、背格好も似ているせいか、だかキラだかわからない。

格納庫にはムウがいた。
自分の機体はでられない、と言っていたから出撃のためにいるわけではない。
それに、ムウはパイロットスーツを着てもいなかった。
それが最初からとキラが来る、と疑いもしていないようで、その根拠はどこからとは考えてしまいたくなった。

キラがストライクガンダムに乗り込んで、が続く。
がハッチに乗り込むまで、ムウは付き添った。
の手を取って、コックピットへあげる。
「・・・・悪い。」
ハッチを閉める直前、ムウが言った。
はハッチを閉める手を止めて言った。
「本当です。キラと話す時間なかったです。」
「いや、そっちじゃなくて。」
「はい。わかってます。」
今度こそ、はハッチを閉めた。

そんな謝罪は聞きたくなかった。
聞いてしまったら、受け止めてしまうことになる。
は、本来こちら側の人間じゃない。
今だって出撃しても、撃つ気はなかった。

「乗れることと、戦えることは、別だから。」

先に飛び立っていくストライク、キラに向かってはつぶやいた。



















***



攻めこんできたのはD装備のジンが2機。
それから、アスランが奪取していったイージス。
合計3機。

「D装備って、ラウ、ヘリオポリス壊す気・・・?」
ラウの気性なら充分ありえる。
中立国のコロニーを攻撃した時点で、国の立場などとうに考えていないのだから。
でも絶対自分に処罰がこないと自信があるはずなのだ。
ラウの立ち回りの上手さは半端じゃない。



出た途端、とキラは上手くアークエンジェルから引き離される。
アスランとラスティから、の存在はラウに伝わっているはずだ。
だとすれば、既存のOSからこちらの機体を見たときに、誰かの手が加わっているのはわかるはず。
それが誰かと考えれば、の存在がいま地球軍にあることぐらい、容易に想像できるだろう。


と・・・キラなのか?」
斬りこむ姿勢を見せながら不自然にサーベルを反らして、イージスからアスランの声がした。
直近距離通信で流れてきたその声に、はキラとの通信画面を繋いだ。

アスランの通信はキラにも届いて、画面の中のキラは驚きを隠せずにいた。

「どうして!どうしてキミがザフトになんか。戦争は嫌だって言ってたじゃないか!」
「状況もわからないナチュラルどもが、こんなものを造るから・・・・。キラこそどうして、地球軍の機体に乗っている?!」

「落ち着こうよ。ね?」
口論が激しくなって、が間に入った。
突然こんなところで再会して、驚かないわけないと思うけど、言葉の攻め合いというのは納得できない。
しかもモビルスーツが本気で戦ってない状況を、知られたらいけない。
事は早く片づけなければいけなかった。

「「。」」
二人が同時にの名前を呼んで止まった。





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